第30話 不思議なこと



「絶対にダメだぜぃ!! 認めないぜぃ!!!」


 バサバサと翼をはためかせながら、青い鳥は俺と魔法少女の邪魔をしてくる。

 本当に、一瞬だったけど、唇が触れた感覚がこんなにも残っているというのに、背中をクチバシでつついたり、耳を噛んだりされて、せっかくの雰囲気が台無しだった。


「もう、ブルータス!! ファン様を困らせないで!!」


 魔法少女がそう言うが、青い鳥はそれでも俺への攻撃をやめない。

 ——お前、ブルータスっていうのか!!


「だってよ〜!! 魔法少女は男と交わっちゃいけないんだぜぃ!! 魔法の力を失ってしまうんだぜぃ!!」

「交わる……なんて、そんな…………」


 魔法少女は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにチラチラと俺の方を見た。


 え……俺、まさか、誘われてる?

 今、初めて……その、キスをしたばかりなのに、もう!?


「そんなハレンチなことを、魔法少女にさせられないんだぜぃ!! どうしても、この男とヤりたいというなら、その前に後任の魔法少女を見つけてくるんだぜぃ!! そうじゃないと、オイラがこいつの大事な部分を食いちぎっちゃうぜぃ!!?」


 ブルータスめ!!

 見た目は可愛いくせに、なんて恐ろしいことを言うんだ!!!



「そんなこと、ダメに決まってるでしょう!!? もう、これ以上ファン様にご迷惑をかけるなら、二度と苺を食べさせてあげないわよ!?」

「そ……それは困るんだぜぃ!!」


 ブルータスはぴたっと大人しくなった。

 どうやら、こいつは苺にめっぽう弱いみたいだな……。


「すみません、ファン様。お見苦しいところをお見せしました……」

「あ、いや……それより……あの」


 勢いでキス……してしまったけど、本当に大丈夫なんだろうか?

 俺が……怪人族の俺が、魔法少女とそんなことをしてしまって……


「本当に、俺なんかが君のナイトをつづけても、問題ないだろうか?」

「え? 一体どういうことです?」

「だって、ほら、俺、背中からタコ足が生えたりするし————」

「背中からタコ足? なんのことですか?」

「え?」


 不思議なことに、なぜか魔法少女は昨日の夜触った俺のタコ足のことを何も覚えていないようだった。

 怪人族であることが、魔法少女にはバレていない……と、いうことだろうか?


「昨日の夜ですか? 確かに屋上から落ちたような気はしますけど……あれ? どうやって助かったんでしたっけ?」


 こんな感じで、なぜかどうして助かったのか、記憶からすっかり抜け落ちているようだ。


 ……そんな都合のいいことがあるか?


 さっき俺が怪人族をタコ足で締め付けていた様子を見ていただろうブルータスを見る。

 そして魔法少女には聞こえないように、小声で聞いてみた。


「なぁ、ブルータス……お前は、俺のタコ足……見たよな?」

「……? タコ? なんのことだぜぃ? オイラ苺は大好物だけど、たこ焼きはあんまり好きじゃないぜぃ?」


 ついさっきのことなのに、こいつも覚えていないようだ。


 なんだ?

 一体どうなっている?


「そんなことより、そろそろここを離れた方が良さそうだぜぃ! あの辺で倒れてる奴らが目を覚ましちまうぜぃ!」

「あの辺で倒れてる?」


 ブルータスは首を振って、俺にあの辺を示した。


 そこは、怪人族に襲われている魔法少女を助けもせずにずっと撮影していた上下部長たちが倒れているあたりだ。

 俺がブチギレて、壊したカメラも落ちている。


「あぁ、忘れてた……」


 そうだ。

 この部活はもうダメだ。


 怪人族ももちろん悪いけど、魔法少女を助けもしない……正体を暴くためになにもしないようなこんな部活、最低だ!!


 明日にでも、紅会長に話して廃部にさせよう。

 ————って、紅会長か……怪人族の女王……


 紅会長はきっと、俺が怪人族であることは知らないだろうけど……いったい、どう話せばいいだろう?

 紅会長からしたら、魔法少女は敵だ。

 そんな魔法少女を助けているファン様が、俺だってわかったらどうなる?


 父さんの話だと、紅家と青野家は仲が悪い感じだったし……

 紅家は血の気が多いとか言っていた。


 もしかして、俺、今度こそ殺されちゃったりするんだろうか?



 魔法少女と現場を後にしながら、俺はそんなことを考えていた。

 まさか、この後、あんなことになるなんて、思わずに————



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