第31話 父さん……
魔法少女を家まで送り届け、色々あったけど、俺はあのキスの感触を思い出す。
ニヤニヤしながら、この先、俺は魔法少女————いや、守夜美月とあんなことや、こんなことをしちゃったりするのかなー……なんて、妄想していた。
夏休みは始まったばかりだし、海とか行っちゃったり?
あぁ、でも、あの子は色が白いから日焼けしたら痛いかもしれないな……室内プールとかでもいいなぁ……
一緒に映画とかもいいよなぁ……
遊園地も定番か?
ソフトクリーム食べたりしたいなぁ、夏だし。
夏祭りとかもいいなぁ……
浴衣姿もきっと可愛いに違いない……
「花火なんかより、君の方が綺麗だよ……なーんてね」
完全に脳内がお花畑状態だった俺は、自分が窓から飛び降りて家を出たのをすっかり忘れて、普通に玄関から家に入ろうとした。
————ガチャ
玄関のドアを開けた瞬間、予想外のものを見て、俺は反射的にもう一度ドアを閉めた。
ん?
あれ?
今のって——
一瞬だが、見えた光景を思い出す。
玄関の中に、見覚えのあるスカートの短い女がいた。
パンツが見えそうな短さ。
戦隊モノの敵によくいる、子供のお父さん層を狙ったセクシー系。
今のって……今のって————紅会長!?
え、なんで?
どうして紅会長が俺の家にいる?
なんで、怪人族の女王様の格好で、俺の家の玄関にいる?
意味がわからなくて、俺はもう一度玄関のドアをちょっとだけ開けて、中の様子を伺った。
「だから、突然来られても、知らないと言っているだろう?」
「そんなはずないわ。この私の部下たちが、ちゃんと見ていたのだから……」
紅会長と父さんが何かもめているようだ。
さすが仲が悪い青野家と紅家。
まさに険悪のムードが漂っている。
父さんの視線が、女王様の胸の谷間に向かっていることをのぞいては。
そして、紅会長の隣には俺からは死角になっていてあまり姿はよく見えないが、どうやら怪人が一人。
お付きの者って感じだな。
「間違いありませんです! この目で見たんです!! 背中からタコの足が生えているのを……間違いありませんです!! はい」
背中からタコの足……?
それって、俺のことじゃないか??
「だから、知らないって言ってるだろう? 青野家にはそんな魔法少女を助けるなんて、そんなバカげたことをするようなのはいない。それに————」
完全に俺のことじゃないか!!
言い争いになっていて、玄関にいるこの三人は俺がのぞいていることにはどうやら気がついていないようだけど……
これって、絶対今俺が中に入ったらマズいよな!?
マントは魔法少女に渡したが、仮面は手に持ったままだ。
紅会長は、ファン様の仮面がどんなものか知っているし……それに、俺のきている服には背中に穴が空いている。
タコ足が出た時に空いた穴だ。
これを見られてしまったら、絶対にバレてしまう。
「————魔法少女は我ら怪人族の宿敵。いくら青野家が穏健派とはいえ、やつが我々怪人族の共通の敵であることに間違いはない」
父さんがそう言い放って、さっきまでの妄想がやっぱり叶わない夢なのだと悟った。
やっぱり、俺って……
魔法少女の敵なんだ——————
「女王様、そんなはずはありませんです! あのタコ足は、青野家の血筋です! はい」
「……仕方ないわね。それなら、こうしましょう? 青野家には確か、息子がいるって聞いたけど」
「息子? あぁ、いるが……それがどうした?」
紅会長は父さんにある提案を持ちかける。
「その息子、疑いが晴れるまで紅家に人質として連れて行くわ」
……は?
人質????
俺が……???
「別に危害を加えようってわけじゃないのよ。犯人が青野家の血筋のものでないとわかれば、すぐに解放してあげるわ……」
「……いいだろう。その代わり、うちの者じゃないとわかったあかつきには、それ相応の対価をもらうぞ?」
「そうね……もしもそうであるなら————」
紅会長は自分の胸のあたりを指差して言った。
「この体、青野家の好きにしていいわ……」
父さんは一瞬鼻の下を伸ばした後、誤魔化すように咳払いする。
「ごほんっ————いいだろう」
おい、父さん!!!
今、完全にイヤらしいこと考えただろう!!!!
こうして俺は、翌日から紅家に連れていかれることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます