第29話 トリプルフェイス 後編
俺の背中から出たタコ足がうねる。
魔法少女のステッキを持った怪人に悲鳴を与える暇もなく、タコ足がそいつを吹き飛ばした。
「お……おい、何だあれは!!」
魔法少女を羽交い締めにしていた怪人は、あまりに一瞬の出来事で目が点になっていたが、すぐに状況を理解し、さっと血の気が引いたように青ざめて行く。
一方、変身ブローチを切り取ろうとしてる怪人の方は、後ろから俺が迫っていることには全く気づいていない。
「へっへっ! 変身を解いたら、十分可愛がってやるからなぁ! へっへっ!!」
気持ちの悪い笑い方をしながら、怪人はもう片方の手で魔法少女の口を抑えた。
「おい、やばいって!! おい!!」
俺の背中から出ているタコ足に恐怖を感じている怪人が訴えるが、全然話を聞いていない。
「へっへっ……ぐわっ!!!」
「わあああああっ!!!」
タコ足は一瞬のうちに怪人二人に巻きつくと、魔法少女から引き離す。
かわいそうに、怪人の手が生臭かったのだろう……
気を失って地面の上に倒れそうになっていた魔法少女を、俺はさっと支える。
魔法少女のビリビリに切り裂かれ、素肌が見えているのを隠すように、俺はマントで魔法少女をくるんだ。
「離せ!! 一体どうなっている!!? 貴様!! このタコ足!! 貴様も怪人族だろう!!? なぜ邪魔をする!! 魔法少女を助ける!!?」
タコ足でぎゅうぎゅうに縛られ、中に浮いている怪人たちがそう訴える。
そう、俺は背中から6本のタコ足が生えてる仮面の男だ。
今の俺の姿は、どっからどう見ても、怪人族にしか見えないだろう。
それでも、魔法少女を助ける理由なんて、一つしかないじゃないか!!
「黙れ!! 怪人族!! 俺は魔法少女を愛しているんだ!! 助けて当然だろう!!」
俺がそうはっきり言うと、背中のタコ足はぎゅうぎゅうとさらに強い力で怪人たちを締め付けた。
そして、例の臀部の穴をタコ足の先端で突く。
「あっ!! ああああああぁぁっ!!」
「いぎゃああああああっ!!」
弱点を押され、力なくしな垂れた怪人たち。
動かなくなった怪人たちを地面に並べ、転がっていたステッキを魔法少女に渡す。
「魔法少女、起きてくれ。もう大丈夫だ」
俺の呼びかけに気がついて、魔法少女はハッと目を開けた。
「ファン様……!! 助けに来てくださったのですね!!」
可哀想に、相当怖かったのだろう。
魔法少女の綺麗な大きな目から涙がボロボロと溢れている。
「あぁ、もう大丈夫だ。魔法少女、君の力であの怪人たちを……————」
「……わかりました」
魔法少女は涙を拭って、立ち上がると、俺がくるんだマントの間から手を出して、魔法のステッキを振りかざした。
「キラッとビーーーム!!」
魔法少女の放ったハートの光が、怪人たちを消し去った。
「助けに来てくれて、ありがとうございます。ファン様。もう、来てはくれないのかと思っていました」
「俺も……そのつもりだったんだけど…………すまない。こんな気持ち悪い姿で……」
「気持ち悪い姿? どこがですか?」
「えっ?」
魔法少女は首を傾げている。
——いや、気持ち悪いだろう。
背中からタコ足生えてるんだぞ?
憧れを抱いていたファン様の正体が、こんなやつなんだぞ?
「なにも気持ちの悪いことなんてないです。ファン様は、やっぱり私のナイト様なんですね……」
「いや……それは違うんだ。見ての通り、俺は君のナイトじゃ……——あ、あれ?」
俺は背中のタコ足を彼女に見せようとした。
でも、タコ足はいつの間にか消えていたんだ。
「ファン様、私はやっぱり、ファン様が私のナイト様だと確信しています。だから、お願いです。これからも……この先も、私を助けてはいただけませんか?」
魔法少女はまた、ぎゅっと俺の手を握った。
「で、でも……俺は君のナイトじゃ……」
そして目を閉じて、顔を近づけてくる。
あ、あぁ……キスか!!
ここは、そうだよな!!
この感じは……この雰囲気はキスだ!!
ここでキスだ!!!!
やっと来た……!!
この瞬間がやっと来た!!
ええええええい!!!
もう、ナイト様じゃないとか、怪人族とか、そんなことどうでもいい!!!
俺は、ファン様でも、怪人族の長でもなく、ただの青野冥助として、魔法少女とキスがしたい……!!
守夜美月とキスがしたい!!!!
ぷるっぷるの唇に触れるまで、あと3センチ。
あぁ……
くるぞ……やっちゃうぞ!!
————ちゅ
この柔らかすぎる感触は、一生忘れないだろう。
「おい、何してるんだぜぃ!! 魔法少女を助けろって言ったけど、これは許可してないんだぜぃ!!! 魔法少女から離れるんだぜぃ!!!」
うるせえええええ!!!
鳥は黙ってろ!!!!!
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