第28話 トリプルフェイス 前編


「な……なんで、お前!! 俺の家が……!?」

「そんなことは今どうだっていいんだぜぃ!!! とにかく、魔法少女が大変なんだぜぃ!!」


 青い鳥はバッサバッサと翼を上下させながら、俺のまわりを飛ぶ。


「お! こんなところに苺があるぜぃ!!」

「あ、おいこら!!」


 どうやらこの鳥は苺が大好物のようで、俺に元気がないように見えた母さんが置いていった苺を勝手に食べ始めた。


「なんなんだお前は!! 魔法少女がどうしたっていうんだよ!!」


 俺の質問よりも苺かよ!!


「おっと! しまった!! 俺としたことが!! ついつい苺に夢中になっちまったぜぃ!!」


 3粒食べ終わって満足したのか、鳥は思い出したかのように俺の顔を見る。


「魔法少女が大変なんだぜぃ!! お前、あの仮面の男だろう? すぐに一緒に来て欲しいんだぜぃ!! っていうか、来るんだぜぃ!!」

「だから、大変て、一体何があったんだよ!! まさか、また怪人族に襲われてるのか!?」

「ついてくればわかるぜぃ!!」


 そう言われても……俺は、もう、魔法少女を助けることは————


「な……ナイトがいるだろう? 魔法少女を守るナイトが!! 俺が行ったって、何かできるわけじゃ……」

「何をいってるんだぜぃ!! お前、魔法少女にほの字なんだろう!!? 知ってるんだぜぃ!! それだけで十分なんだぜぃ!! さっさと来るんだぜぃ!! このままじゃ、魔法少女が死んじまうんだぜぃ」



 魔法少女が、死ぬ!?



「わ、わかった!!」


 そんなことは、絶対にさせない!!!


 俺は、仮面とマントをつけて、部屋の窓から飛び出した。


 ——って、待て!!

 ここは3階だ!!!


 俺の家は、1階が魚屋、2階と3階が住宅になってるんだ!!


「ああああああああ!!!!」


 青い鳥は俺が落下していくのに気がつかず、飛んで行ってしまう。


「ちくしょう!!! 骨折する!! これ多分、骨折する!!」


 その瞬間、背中からニュルッと音がして、タコ足が出てきた。

 タコ足が衝撃を吸収して、無傷で地面に降り立つ。


「こういう時は便利だけど、やっぱり、気持ちが悪い……」


 怪人族であることはわかったけど、背中のタコ足以外は、普通の一般人と何も変わらない。

 俺はポケットにつっこんであった酢昆布を食べながら、青い鳥を必死に追いかけた。




 * * *




 現場につくと、本当に大変なことになっていた。


 魔法少女は背の高い怪人に羽交い締めにされ、もう一人の怪人が魔法少女から魔法のステッキを奪い取っている。

 そして、もう一人怪人がいて、魔法少女のピンクの衣装をハサミのようになっている手で引き裂いていた。


「へっへっ! このブローチさえなければ、お前は変身が解けて、魔法が使えなくなるらしいなぁ……へっへっ!」

「やめなさい!!! 怪人族!! はなしなさいっ!!」



 魔法少女の胸元についている変身ブローチを切り取ろうとしているようだ。


「すぐに切り取るのはつまらないからなぁ……じっくり、ゆっくりと、少しずつ切り取ってやるぜ……へっへっ!」

「やめて!!! いやあああ!!」



 なんてことだ!!

 このままじゃ、魔法少女の可愛い衣装がボロボロになってしまう!!

 もしかして、いや、もしかしなくても、魔法少女が裸になってしまうじゃないか!!!


 そんな展開、コンプラ的にもアウトだ!!!


「ハァハァ……いいぞ、怪人族……!! これで、魔法少女の正体が……!!」


 さらに驚いたことに、襲われている魔法少女を、魔法少女を見守る会の部員たちが数名、仮面とマントをつけた姿のまま助けもせずに影から見守っているだけだった。

 カメラを構え、魔法少女の正体をとらえようとしている。

 魔法少女の顔は不思議な力ではっきり映ることはないけど、体は映る。

 それに、守夜美月の姿に戻ってしまったら、顔だって……————


「ハァハァ……これは素晴らしいぞ!! ハァハァ!!」



 俺は明らかに上下部長らしき仮面の男をぶん殴ると、次々と他の部員たちのカメラも地面に叩きつけてぶっ壊した。


「お前ら、いい加減にしろ!!!!」


 なんなんだこいつら!!!

 どうして、誰一人魔法少女を助けないんだよ!!


「なっ!! ファン!? 本物か!!?」


 もう少しで魔法少女の肌があらわになってしまうところだった。

 魔法少女云々の前に、女の子が襲われているのに、助けないなんて!!!


「本物だ!!! さっさと消え失せろクズども!!」



 さっき酢昆布を食べて引っ込めたはずのタコ足が、俺の怒りの感情に反応したのかまた出てきて、マントの後ろからうねうねと動いた。


 それを見て驚いた偽物たちは、一斉に逃げていく。


「うわあああああ!! 化け物だあああああ!!」



 そうだよ。

 俺は化け物だ。


 怪人族だ。


 それでも、俺は……————



「ファン様!!!」



 魔法少女を……守夜美月を助けたい!!!




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