第27話 さよなら、魔法少女


「さぁ、できたわよ! メースケ、ほら、お赤飯!!」


 不思議なことに背中のタコ足は、寝て起きたらなくなっていた。

 昨夜起きたことは、きっと夢だったんだ……そうに違いない!!

 って、期待しながら昼近くにリビングに行ったら、テーブルの上には炊きたての赤飯が置かれ、刺身に茶碗蒸し、天ぷらと……なんだか豪華な食事も並んでいる。


 俺がショックで寝ている間に、母さんとばあちゃんで用意したらしい。

 じいちゃんと父さんなんて、日本酒飲んでるし……!!


「いやーめでたい。これで、我が怪人族の将来も安泰じゃなぁ……」

「父さんもじいちゃんも、12の時になったからなぁ……お前が中々ならないから、もう青野家はお終いかと心配してたんだぞ? よくやった、メースケ」


 よくやった……と、言われても困る。

 突然、自分が実は怪人族の長の息子だったなんて聞かされて、受け入れられるわけがない。


 うちはただの代々続く魚屋だと思ってた。

 あのタコ足は、きっと怪人族の女王である紅会長にやられたせいだと……

 怪人族にはなりたくないと思っていたのに、まさかの最初から俺は怪人族だった。


 魔法少女のナイト様でもない上に、魔法少女に退治される側だったなんて……


「本当に良かったわねー。メースケがこうなってくれた以上、青野家の未来は上手くいくわ」



 黙って赤飯を食べながら、話を聞いていたら、俺以外の家族はみんな嬉しそうな顔をしていた。

 俺の気も知らないで……


「あぁ、これでも大人しくなるだろう」


 ん?



「父さん、今なんて言った??」

「ん? だから、あの紅家も大人しくなると……」

「紅家!?」


 そうだよ、紅会長は、怪人族の女王様のはずだぞ!!?

 それなら、どうして元から怪人族だった俺が拐われたんだ!?


 もしかして女王様って、長であるうちより偉いんじゃないのか?

 どういう関係になってるんだ!?


「あぁ、そういえば、紅家の話をお前にしたことがあったかな?」

「…………いや、紅家とか以前に、どういうことなのか、一から説明して欲しい。一体、怪人族って、なんなんだ!!?」



 * * *



 しまった……

 父さんから怪人族について聞いたけど、全然理解できなかった。


 とにかくわかったのは、怪人族は別に人間に危害を加えようとしているわけではないらしい。


 基本的には、人間の敵ではない。

 だけど怪人族には青野家、紅家、それから、黄河こうが家という御三家があるのだとか。

 その三家はそれぞれ考え方が違うらしく、主に人間たちを襲って、奴隷にしようとしているのが紅家だそうで……

 紅会長が女王様と呼ばれていたのは、そのためのようだ。

 つまり、魔法少女が退治しているのは紅家。


 っということは、俺は怪人族ではあるけど、魔法少女に退治されるような悪い怪人族ではないらしい。

 人畜無害ではあるけど、怪人族は怪人族だ。


 じいちゃんの話によると、背中のタコ足は俺が命の危機になると出やすいらしい。

 自在に操れるようになるまでは、毎日食べるようにと、なぜか酢昆布を渡された。

 どういう仕組みか全然わからないけど、言われた通り酢昆布を食べながら俺は夕方になって旧校舎の体育館に荷物を取りに戻った。



「ハァハァ……困るよ!! いくら体調不良とはいえ、何も言わずに勝手に家に帰るなんて!!」

「す、すみません……」


 上下部長に怒られながら、なんとか自分の荷物を持って、できるだけ守夜美月と顔を合わせないようにした。

 俺自身は全く悪いことをしていないのだけど、魔法少女とも、そのナイトである扇とも話したくない。

 もちろん、認めたくはないが同じ怪人族である紅会長とも。


「ファ……メースケくん、あの……」


 何度か、守夜美月に話しかけられそうになった。

 こうなる前の俺だったら、守夜美月から話しかけられるなんて、それだけで冷静じゃいられないくらい動揺して、嬉しくてたまらなかったのに……


 聞こえないふりをして、俺は体育館を後にした。


 もう俺は、ファン様としても、この魔法少女を見守る会のメンバーとしても、君を見守ることはできないだろう。



 さよなら、守夜美月……

 さよなら、魔法少女……


 俺は、本当に君が大好きだったよ。





 その日の夜、そう一人で感傷に浸っていた俺の前に、あいつが現れた。




「魔法少女が大変なんだぜぃ!!!! お前が助けるんだぜぇぃ!!!!」



 あの喋る青い鳥が、俺の部屋の開けっ放しだった窓から入ってきて、そう言った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る