第26話 怪人族になっちゃった!?


 背中から生えたこのタコ足のおかげで、転落死は免れたものの、気持ちが悪い。

 触られると感覚はある……ていうか、触られ方によっては敏感に反応してしまうくらいなのに、俺の意思とは関係なく、クネクネ動くんだ。

 それが気持ち悪い。


「これは一体……どういうことでしょうか……?」


 守夜美月は俺の背中をまじまじと見つめ、ツンツンと人差し指でついてくる。


「な……なんだろうね」


 なんなのか全くわからない。

 俺はただの一般人で、こんな特殊能力みたいなものは持ち合わせていないはずだ。

 食べると泳げなくなる実を食べた覚えも、鬼から血も分け与えられた覚えもない……————あ?


 そういえば、怪人族の女王に顔を爪で————


 いや、でもあれからかなり経ってるし、怪人と戦って危険な目にあったことだってあった。


 でも、この背中のは明らかにタコ足……怪人族はみんな魚とか貝っぽかった……ということは、俺は…………

 俺は…………



「なんだか、怪人族みたいですね……」



 守夜美月がそう言った。

 数々の怪人族と戦ってきた魔法少女の言葉に、俺は急に怖くなって……



「そ……そんな、まさか……」

「そうですよね。ファン様が怪人族だなんて、そんなわけないですよね」

「はは……そうだよ。そんなわけ……はははっ」




 笑いながら全力で逃げた。



「ファン様!? ファン様どこへ……!?」

「はははははっ」





 ————俺、怪人になってる!?





 * * *





 どのくらい逃げたかわからない。

 とにかく、これ以上、怪人になったかもしれない俺の姿を彼女に見られたくなくて、っていうか、怪人になっていることを認めたくなくて……


 必死に走って、気づいたら家の前だった。

 でも残念なことに、家の鍵を俺は今持っていない。


 1階の魚屋で両親は働いているわけで、俺が家の鍵をもって出歩く必要性がない。

 だから普段から家の鍵を持ったまま出かけるなんて滅多にない。

 この姿で家に帰るのはどうなんだと思ったけど、学校に戻る方がどう考えてもまずいだろう。


 俺は決死の思いで、ど深夜だけど家のチャイムを鳴らした。



「父さん……」


「メースケ……お前……!!」


 こんな時間に怪しいやつだと思ったのだろう、パジャマのまま竹刀を持って出てきた父さんが、俺の姿に驚いている。

 そりゃそうだ。


 部活の合宿に行っているはずの息子が、こんな夜中に、背中にタコ足を生やして帰ってきたんだ。

 驚かない親なんているわけがない。

 っていうか、親じゃなくても、こんな背中にタコ足が生えた人間を見たら驚くだろう。


 すまない……

 こんな姿になってしまって……

 大事な一人息子がこんな姿になってしまって……



 その時、遅れて様子を見にきた母さんが、父さんの後ろからひょっこり顔を出して言った。



「あら、メースケ……あなたもついに、この日が来たのね。お赤飯炊かないと!!」

「は……い?」


 お赤飯?

 え、なにそれ、どういう意味?

 何を言ってるんだ、母さん……寝ぼけてるのか?


「そうだなぁ、母さん。でも、今家に小豆あったか?」

「あら、そうね……まだお盆前だから買って来てなかったわね。明日買いに行きましょうか」

「小豆が入っていない赤飯なんて、赤飯じゃないからな。そうしよう……」


 いや、父さんも何言ってるんだ?

 小豆とかどうでもいいんだよ!!


「まぁ、とにかく、メースケ……いつまでも玄関に立ってないで、中に入りなさい。いやぁ、しかし、めでたいなぁ……」


 め、めでたい!?


「は!? 何言ってるんだよ父さん!! 一体何がめでたいって言うんだ!!?」


 わけがわからないのはこっちなのに、父さんも母さんも、きょとんとした顔で俺を見る。

 俺はこんな姿になってしまって、大変なのに!!


「めでたいじゃないか。お前がやっと大人になったんだから……」

「へ? 大人……?」

「その背中のものが、何よりの証拠だ。メースケ、これでお前も立派な我が家の跡取りになれる」


 待って、マジで意味がわからない。

 立派な我が家の跡取り?

 この魚屋の跡取りになるのに、なんで背中からタコ足が生える必要がある!!?


「これからは、怪人族のおさになる自覚をしっかりと、持つんだぞ?」




 は?




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