第22話 お前もか 前編
体育館に戻ったが、魔法少女が現れたことで、部員たちはみんなファン様探しなんてどうでもよくなっていた。
そんなことより、魔法少女を近くで見ることができたことが重要。
興奮しまくっているせいで、守夜美月がいなくなっていることも、俺が上下部長を殴った犯人であることもうやむやになっている。
「可愛かった……! やっぱり、魔法少女は可愛かった!!」
「一瞬だったけど、あんなに近くで見たのは初めてだ!!」
「尊い!! 尊すぎるぞおおおお!!!」
そんな部員たちを見て、悔しそうにしている紅会長。
親指の爪を噛みながら、何かブツブツと呟いている。
「魔法少女め……やっぱり……私が直接手を下さなきゃ————」
はっきりとは聞こえなかったが、おそらく、そんな感じのことを言っていた。
俺はつい興奮する上下部長に気を取られていたから、真実はわからないけど紅会長はいなかったような気がする。
叫び声が聞こえて、みんなで体育館を出たけど……多分。
それにしても、どうして守夜美月も、紅会長もお互いの顔を見てなんとも思わないのだろうか?
魔法少女だって敵の女王に会っているし、女王の方だって、魔法少女の姿を見ているはずだ。
「メースケくん、何かあったんですか?」
「えっ!?」
守夜美月は何食わぬ顔でそっと戻って来た。
いつの間にか俺の隣に立って、彼女は言う。
「ちょっとお手洗いに行っている間に、なんだか皆さん盛り上がっているようで……何か、あったんですか?」
「いや、その……魔法少女が現れて————」
あれ?
変だな……
なんだろう、この違和感……
俺の方をチラチラと何度も見ながら、そのくせ目が合うと恥ずかしそうに視線をそらされる。
かと思えば、不意にじっと上目遣いで見つめられるし……
そのくせ、頬もなんだか紅潮してないか?
俺もまだぎこちないけど、わりと普通に会話ができている。
なんだろう……?
「そうなんですね……。それで皆さんこんなに盛り上がって————ところで、メースケくんちょっと、耳を貸してくれますか?」
「な、なに?」
守夜美月は俺に近づいて、背伸びをしながら耳打ちする。
俺も一応ちょっとだけ屈んだけど、ドキドキしすぎて膝が震えていた。
ち、近い!!
顔が近い!!
俺の耳に、守夜美月の吐息が————!!
「今夜12時に、この校舎の屋上に来てください。ファン様……」
えっ!?
えっ!?
ええええええっ!!!?
俺がファンだと……バレている!!!?
* * *
「いやーまさか、魔法少女をあんな間近で見られるなんて思ってなかったなぁ……メースケ」
「…………え?」
「え?じゃねーよ、お前大丈夫か? さっきから変だぞ?」
「そ、そんなことねーよ!」
撮影機材を持って、俺は扇と二人一組で持ち場についていた。
魔法少女の正体を今度こそ掴むのだと言って、上下部長は本来今夜魔法少女が現れると予想された場所で再チャレンジすると言い出したからだ。
「まさか、その……あれだ、魔法少女をあんなに間近に見られるなんて、俺も思ってなかったから————ちょっと思い出してただけだし」
そう、さっきから何度も思い出してしまう。
彼女の吐息交じりのあの言葉。
確実に、俺がファンだとバレてしまったのから、考えずにはいられないだろう……
どう思われた?
こんな冴えない男が、あの仮面の男だってわかって、ショックだったんじゃないか?
きっと、残念に思われているよな……
もう二度と近づかないで——とか言われたら、ショックだな……
その守夜美月はカメラの映像が送られてくるワゴン車の中にいる。
一応夜だし、女子一人で外にいるのはまずいだろうということで、魔法少女が現れたらすぐに無線で連絡する係だった。
上下部長はこの機材や車を一体どこから調達してきてるのだろうか……
相変わらず謎だなこの部活。
「メースケ、お前さ……」
「…………」
今夜12時……彼女は俺に一体、どんな話をするのだろうか……
一体何を言われるだろうか……
俺は気が気じゃない。
「おい、メースケ! 聞いてるか?」
「あ、ああ、悪い。なんだよ扇」
珍しく扇があのヘラヘラとした軽いノリじゃなく、真剣な顔で俺を見ている。
そんな真面目な顔してるの初めて見たぞ……
「メースケ、一体どうしたいんだ?」
「え? 何が?」
「ファン様って、お前だろ?」
え?
え?
扇にも……バレてる!?
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