第21話 ファン様を探せっ! 後編
「さぁ……それじゃぁ、全員仮面とマントをつけて並んでもらおうかしら……」
わざわざここまでする必要はないと思うのだけど、紅会長は当日と同じ状況を再現しようと舞台の上に舞台袖から、一人ずつ順番に照明をつけた舞台の上に並ばせる。
この古い体育館の照明は、今にも電球が切れそうだった。
チカチカと不安定な照明に照らされる舞台上……
俺は最後から三人目だ————
俺の一つ前の部員が舞台の上へ出でる。
「違います。ファン様じゃないです」
守夜美月が客席側から一人一人じっと見て判断している声が聞こえて、緊張で死にそうだった。
今すぐ逃げてしまいたいけど、俺の後ろには扇がいて、隙がない。
せめて、俺が一番最後だったら……
いや、どちらにしても、扇なら俺がいなくなっていることに気づいてしまうだろう……
「彼も違うの? それじゃぁ、次ね————次は、えーと、1年の青野め……めいすけ?」
部員リストに振り仮名がふられていなかったせいか、読み上げていた会長の語尾に疑問符がついた。
悪かったですね……読みづらくて……
冥土の冥なんて、人名には使うことあまりないでしょうけど、俺の親戚一同はなぜか男はみんな冥がつくらしいから仕方ないんだ。
せめて明だったらまだ人間ぽいと思うのに……ある意味、キラキラネームってやつかも————って、そんなことは今どうでもいい。
この現実から逃げたすぎて、どうでもいいことばかり考えてしまった!!
「おい、メースケ早く行けよ! 次、お前だぞ!」
「あ、あぁ……」
扇に促されて、俺はできるだけ下を向いたまま舞台袖から足を踏み出した。
その時だった————
ブツンっと、体育館の照明が全て切れて
「キャーっ!!!!!!」
体育館の外から、女の悲鳴が聞こえて来たのは。
「誰か!! 誰か助けてええええええええ!!!」
いつの間にか、外はすっかり黄昏時になっていて、体育館の中は暗幕もしているから暗くなっている。
何があったのか、わからない。
「な、なんだ!? ハァハァ……とにかくみんな、悲鳴の聞こえた方へ行ってみよう!!」
「お、おおー!!」
「なんだなんだ!!」
* * *
みんなで体育館から出てみると、体育館のすぐ横の路上でモデル風のお姉さんが怪人に襲われていた。
手のひらが大きなホタテ貝みたいな形をした怪人だった。
「抵抗しても無駄だーぞ! お前は我が怪人族の奴隷に選ばれたのだーぞ!!」
「いやぁあ!! やめてえええ!!」
「ハァハァ……怪人じゃないか!! みんなカメラを……——」
「あ、部長! カメラはみんな体育館です!!」
「なに!? こんな時に……魔法少女が現れたらどうするんだい!! ハァハァ……」
モデル風のお姉さんが襲われているというのに、上下部長は助けるどころかカメラを取りに行かせる。
「ぶ、部長!! 助けないと!! カメラより、助けないと!!!」
「何を言ってるんだ!! 怪人が目の前にいるんだぞ!? 魔法少女は現れる!! こんなチャンスは二度とないぞ!! ハァハァ……」
くそ、やっぱりこの部活、ダメだ!!
みんなファンの格好をしているというのに、まるでお姉さんを助けようとする人が一人もいない!!
「そこまでよ!!!」
魔法少女が現れた。
おそらく、部長たちの目を盗んで変身したのだろう。
「ちっ! 魔法少女め!! お前なんて怖くないんだーぞ!!」
魔法のステッキを振りかざし、呪文を唱えようとする魔法少女。
「おお!! 魔法少女だあああああああ!!!!」
歓喜する上下部長の声にびっくりして、肩を揺らした。
うるさいな!!!
うるさいよ!!!
魔法少女の邪魔をするな!!
魔法少女が集中できないだろうがぁぁ!!!!!
ついつい腹が立ってしまって、気づいたら俺は上下部長にボディーブローを食らわせていた。
その衝撃で、部長は地面に倒れる。
「魔法少女!! 早く呪文を唱えるんだ!!」
「ふぁ……ファン様!!? やっぱり、あの部員の中にいらしてたんですね!?」
「い、今はそんなことはどうでもいい!! 他の部員たちが戻ってくる前に、さっさと終わらせるんだ!!」
感動してる場合じゃないんだ魔法少女!!
はやくしないと、囲まれるぞ!!!
「は、はい!!」
もう一度魔法のステッキを振り上げて、呪文を唱えようとする魔法少女。
しかし、今度は怪人がその邪魔をしてくる。
「そうはさせないんだーぞ!! くらえ! 必殺、旋風の舞!!」
ホタテ怪人はそのホタテ貝みたいな大きな手をブンブン振り回して、巨大扇風機のような風を起こす。
「きゃっ!」
魔法少女のスカートが、風で揺れてがめくれる。
白いパンツが丸見えだ!!
砂埃が目に入ってしまったようだ。
ステッキを持ったまた、動きが止まってしまう。
「どうだーぞ!! これでお前の魔法も吹き飛ばしてやるんだーぞ!!」
得意げに笑う怪人に、魔法少女は涙目になりながらも立ち向かう。
「そんなこと、絶対にさせないわ!! 魔法少女の正義の力を甘く見ないで!! キラッとビーーーーーム!!!」
ホタテ怪人が起こした風を押しのけるように、放たれた魔法。
「な、そんなあああああああああ!!!」
意外とあっさりと、怪人は消えてしまった。
「……案外弱かったな————……ふぇあっくしょん!!」
怪人が立てた砂埃に反応したのか、思わずくしゃみが出た。
全く……また鼻水が出るじゃないか……!!
あのティッシュはもう使いたくないのに!!
もったいない!!
そして、魔法少女は怪人を倒し終わり、いつもの顔を忘れる呪文を被害者のお姉さんにかけると、俺の方を見た。
「ファン様……あの————その……」
何か言いたげに、もじもじする魔法少女。
顔が赤い。
今日はあの青い鳥も今の所現れないし……まさか、あの夜の続きを!!!?
「魔法少女!!!」
「わああああ!! 本物だああああ!!」
ちくしょう、カメラを持った他の部員たちが、戻って来た!!!
「に、逃げるんだ!! 魔法少女!! ここは危険だ!!!」
「え? あ……はい。それじゃぁ、また、あとで」
俺がわざと部員たちの邪魔をしているうちに、魔法少女は姿を消した。
————また、あとで?
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