第20話 ファン様を探せっ! 中編


「ファンがこの中にいる……!? ハァハァ……どうして、君にそんなことがわかるんだい? 新入りちゃん……!」


 上下部長がそう聞いた。

 俺は守夜美月が魔法少女本人だと言うことを知っているが、他の人間からしたら、なぜそんなことが入部したばかりの新入りにわかるのか……

 理由がわからないから当然の質問だろう。


「それは、その……えーと…………わ、私、一度怪人に襲われたことがありまして……————その時、魔法少女のそばにいた仮面の方にも会っているのです! ま、魔法少女の顔は、よく覚えていないんですけど、その仮面の方のことなら覚えています!!」


 彼女がそう言うと、上下部長の目の色が変わった。


「なんだって!? 新入りちゃん、君は……ハァハァ、怪人に襲われた上、魔法少女に助けられたのかい!?」

「そ、そうです! だから、その時私を助けてくれたあの仮面の方は、この中にいます……!!」


 そして、紅会長はチッと舌打ちした後、眉間にシワを寄せる。

 しかし何か思いついたようで、すぐにニヤリと笑った。


「それが本当なら、私の前に連れて来なさい。もちろん、自分が本物だって証明できればの話だけどね……そうしたら、廃部の話はとりあえずなかったことにしてあげてもいいわ」


 なんだ……?

 今一体、何を思いついた?


「それで、新人ちゃん……一体、ファンは誰なんだ? ハァハァ……」

「それは……まだ……。あの発表会の時に左から二番目にいた方であることしか————」

「左から二番目?」


 部員たちは各々、左から二番目にいた人物が誰だったか、思い出そうと話し始める。



「あの時、どういう並び順だったっけ?」

「そんなの覚えてないな……みんな同じ格好だったし……」

「僕の隣にいたのは、お前だったよな?」

「ああ、それで俺の反対側にはあいつがいて————」


 おい、やばいぞ……!!

 これじゃあ、俺がファン様だってバレるんじゃないか!?


「これじゃぁ埒が明かないわ……守夜さん、あなた、見ただけでわかるのよね?」

「は、はい……仮面とマントさえつけていれば」

「そう、じゃぁ、全員仮面とマントをつけて1列に並んでもらいましょう」


 ああ、終わった————



 * * *



 正直、逃げ出したい思いでいっぱいだった。

 人数分のマスクとマントが入った段ボール箱を部室から扇と俺の二人で旧校舎の体育館に運ばされた。


 この箱の中身を今すぐ燃やしてしまいたい……!!


 体育館に続く渡り廊下から見える焼却炉を見ながら、そう思った。

 どうにかしてこの中に全部ぶち込んで燃やせないだろうか……

 もう何十年も使われていないから、蓋も開かないだろうけど。


「まさか俺たちの中に本物がいるなんて……驚きだよなぁ……! メースケ、お前誰がファン様か知ってるか?」

「し、知ってるわけないだろう!?」

「何焦ってんだよ……もしかして、お前だったり……? なーんてな」


 くそ、正解だよ!!

 俺だよ!!

 俺がそのファン様だよ!!


 扇は能天気にケラケラと笑いながら、段ボール箱を埃まみれの床に降ろした。

 その隣に俺も持っていた段ボール箱を降ろそうとしたが、舞った埃にやられてくしゃみが出る。


「ふぇあっくしょん!!」


 みんなが待つ体育館に、俺のブサイクなくしゃみが響き渡った。


「お前本当、変なくしゃみだよなぁ……親戚のオッサンみたい」

「うるせぇ……ふぇあっくしょん!! あぁ、鼻水が……」

「メースケくん、ティッシュいる?」

「あぁ、ありがとう…………っ!!?」


 ももももも守夜美月!!!


 俺は守夜美月にポケットティッシュをもらってしまった!!!

 ものすごいナチュラルに!!


 ここここれで鼻をかむなんて、そんな勿体無いことできない!!!

 ああ、でもこのままじゃ汚い男だと思われる!!


「あぁ、たくさんあるから、これごとあげるよ」

「い、いいの……!?」


 嬉しすぎる……

 守夜美月の匂いがするティッシュだ……


 ピンク色の袋に入ったポケットティシュ……

 ピンク色だぞ!?

 しかもティッシュの色も薄いピンク色だぞ!?


「それじゃぁ……全員、仮面とマントをつけて、そこに一列にならびなさい」


 変なところで興奮していると、紅会長がそう言った。

 急に現実に戻される。


 あぁ、どうしよう。

 バレるぞ……


 俺が、俺がファン様だってことが————



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