第23話 お前もか 後編


「どうして……それを?」

「あのなぁ……あんな変なくしゃみするやつ、メースケしかいないだろ? 何年お前の親友やってると思ってんだ」


 くしゃみ……?

 そういえば、あの時思わず出てしまった。

 子供の頃からずっと、おっさんみたいだと言われ続けているブサイクなくしゃみ。

 もしかして、魔法少女もそのくしゃみで俺の正体に気がついたのだろうか……?



「それで、一体どうしたいんだよ。お前が好きなのは守夜美月だろ? それなのに、なんで変装までして魔法少女のサポートなんてしてるんだ? なんの力もない一般人がそんなことしたら、守夜美月に告白する前にお前死んじまうぞ?」


 あのいつものヘラヘラした顔はどうしたのか、扇は俺のことを心の底から心配しているようだった。


「この部に入部させたのは俺だけど……まさかお前がそこまで魔法少女のファンだったなんて————俺は知らなかったぜ? こんなことになるなら、この部活にお前を入れるんじゃなかった」

「いや、その……俺が魔法少女をサポートしてるのは彼女が————」


 さすがに、扇に魔法少女の正体が守夜美月だからとは言えない。

 きっと、扇は俺がずっと守夜美月に片思いしていたことを知っているから、彼女に告白もせずに魔法少女の追っかけになってしまっている俺に呆れているんだろう。

 いつも俺の片思いをふざけて、ちゃかしてはいたけど、本当に俺のことを応援してくれていたんだな……


「お前が手伝ってくれれば、いいと思ってた俺が悪かったよ。メースケ、ファン様はもうやめるんだ。ちゃんとナイトの力を持っている俺が、魔法少女をサポートするからお前はもうこれ以上関わるな……」

「……ん?」


 あれ?

 なんだ?

 なんだかおかしいぞ?


「扇、今、お前なんて言った?」

「いや、だから、お前はもうこれ以上関わるなって……」

「その前だよ!!」

「その前?」


 扇は小首を傾げる。

 どこの部分を聞かれているのか、全然わからないという顔をして。


「ちゃんとナイトの力を持っている俺……って、言わなかったか?」

「あぁ、そこか。実は、俺さ……子供の頃から家の方針で魔法少女の影から守ってたんだ。ナイトの力を持ってるから……」

「……は?」

「でも正直、めんどくさくてさ。影から守り支えるって地味だし、かったるいし……夜は寝たいし、なんならゲームしたいし。そしたらちょうど魔法少女を見守る会があったから、そこに入って任務を全うしてるってことにしたんだけど————」


 いや、待て待て!!

 何言ってる?

 こいつ、何言ってる?


「でも、だからって一般人のお前にやらせるわけにはさ。これからはちゃんとナイトの力を持ってる俺が魔法少女のサポートするから……。な? だから、もうファン様なんて危ないことはやめるんだ」


 な?

 じゃ、ねーよ!!

 どういうことだよ!!!

 ナイトの力を持ってる?

 魔法少女を影から守る?

 は!?


 扇の話についていけず、俺は頭を抱えた。

 一旦話を整理しよう。


「お、おい、メースケ? 大丈夫か?」

「ちょっと待ってろ! 今、頭の中整理するから!!」

「お、おう……?」


 ナイトの力?

 ナイト……?

 ナイト?


 俺はこの時、あのラブホで魔法少女から聞いた大人の話を思い出した。


“魔法少女には必ず、魔法少女を影から守り、そして支えてくれるナイト様が存在します”



 そうだ、魔法少女にはナイト様ってやつか存在して、それが、魔法少女の運命の人で……————


 ——……え?

 まさか、それって、俺じゃなくて…………扇!?



「なぁ、扇……」

「お、整理終わったか?」

「…………お前、魔法少女のナイト様ってやつ……なのか?」

「だから、そうだって言ってるだろ? 俺はナイトの力を持ってるからいいけど、一般人のお前はこれ以上関わるべきことじゃないんだって」


 でも、それならどうして、魔法少女を俺がサポートしようとしていることに疑問を持った?

 魔法少女の正体が守夜美月なんだから、好きな女の子を助けたいと思う俺の気持ちは分かるはずだろ?


 まさか、こいつ……


「扇……お前、魔法少女の正体は知ってるんだろ?」

「え? 知らないけど……? いつも戦ってるのを影から見守ってるだけだし」



 お前もか!!!!!!



 なんで、魔法少女も敵の女王も、魔法少女を守るナイトのお前も、知らないんだよ!!!!

 どうなってるんだ、この世界!!!






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