第18話 危険な夏休み 


「いやー部活発表会って、意外と宣伝効果があったんだなぁ……まさか女子が入部するなんて……しかも、お前の大好きな守夜美月じゃん」


 上下部長から魔法少女を見守る会の心得を聞かされている守夜美月を、部室の端でチラチラ見ていたら、扇が俺にそう言った。


「ばか! やめろ! 聞こえたらどうするんだ……!」

「聞こえた方が好都合じゃないのかー? ほら、全然好きじゃなかったのに、なんか意識しちゃってー的なさ……せっかく同じクラスなのにこの数ヶ月何もしてないんだから」

「うるさいな! 俺は……見ているだけで十分なんだよ。俺みたいな平凡な奴が、あんなに可愛い子と釣り合うわけないんだから……!」


 そう、あんなに可愛い……可愛くてたまらない守夜美月と、俺が付き合うとかそんなことはありえない。

 わかってる。

 だからこそ、彼女が魔法少女だとわかった今、俺はせめて彼女を守ろうとあの格好でサポートをして来たわけで……


「あのなぁ……そんなこと言ってたら、いつまでも彼女できないぞ? いいのか? もっと青春を楽しめよ。俺ら高校生なんだぜ?」

「だから、俺はそういうのいいんだって……」


 でもまさか、そのファン様といつのまにか命名されてしまった仮面男の姿であれば、そういう希望がありえるなんて……

 魔法少女とキス……

 大人にしてくださいってことは、その先だって————


 あのラブホでの一件を思い出して、危ない妄想ばかりが浮かんでくる。

 仮面をつけてさえいれば、ちょっとヒーローっぽいあの話し方ではあるけど、わりとスムーズに話すことも、彼女の手に触れることもできるのに……


 いざ、仮面をしていないただの青野冥助のままだと、彼女と目があっただけでも緊張してしまう。

 情けないのはわかっているけど、無理なものは無理なんだ……


「なんだよ……じゃぁ明後日からの夏合宿も進展なしか? つまんねーなぁ……」

「……そうだよ、俺には無理————って、合宿!?」


 なんだ、合宿って!!

 聞いてないぞ!!?

 っていうか、この部活で夏合宿して一体何を練習することがある!?


「お前聞いてなかったのか? 部活発表会で部長が言ってただろ? 魔法少女をサポートするために、怪人が出没しそうなところ張り込むんだ」

「そんなこと……言ってたか?」


 あの発表会で、部長が何を言っていたかなんて、全然覚えていなかった。


「さっき守夜美月にも聞いたけど、参加するって言ってたぞ? せっかくのチャンスなのに……」

「……え、この男しかいない部活に一人で?」


 いろんな意味で危険だ。

 魔法少女本人が、魔法少女の正体を暴こうとしている男たちに囲まれて寝泊まりするなんて、危険すぎるにもほどがある!!


「あぁ、なんでも、この部活に探している人がいるかもしれないって言ってた……」

「な、なんだって!?」


 あぁ、それは俺も危険だ!!



 * * *



 そして、夏合宿当日の昼。

 どこに泊まるのかと思えば、今にも壊れそうな木造の旧校舎の体育館。

 布団を寝袋を置いて、みんなで寝るらしい。

 唯一の女子である守夜美月だけは別の教室。


 それはいい。

 だけど、この旧校舎、怪人どうこう以前に幽霊がでそうなんだが……

 昼間でこの雰囲気だぞ?

 夜になったらめちゃくちゃ怖くないか?


「何か出そうな雰囲気ね……ゾクゾクするわ」

「そうですね……って、どうしてここにいるんですか、紅会長!!!」


 また俺の背後に紅会長は立っていた。

 相変わらず短いスカートだ。


「あら、生徒会長として当然でしょ? あなたたちが校舎でおかしなことをしないように、監視しに来たのよ……。そこの1年、守夜さんと言ったかしら?」

「は、はい!」


 おいおい、魔法少女と敵の女王が会話してるぞ!!?


「私が来たからにはもう安心よ。あなたは私が必ず守るわ……」

「え……? どういうことですか?」

「……男は狼なのよ?」


 守夜美月は紅会長の言葉に首をかしげる。


「……まったく、こんなウブな子を一人になんてできないわ。あなた、こんなくだらない部活じゃなくて、生徒会に入らない?」


 いや、それはそれで、危険!!

 もっと危険!!


「いえ、私は……この部でしたいことがあるので」

「そう? なら仕方がないわね……まぁ、短い間だけど、よろしくね?」


 紅会長が右手を差し出し、守夜美月と握手を交わす。

 俺はもう、どうしたらいいか、わからない————




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