第17話 最悪の日の最高の瞬間


 最悪だ……


「おーい、コスプレ部! 今日もあのコスプレで魔法少女を追っかけるのか?」


 あの部活発表会のせいで、俺を含め、魔法少女を見守る会はコスプレ部と揶揄されるようになった。

 それまで、あまり何をしているか知られていない部活だったから余計だ。

 上下部長は何度もそう言われるたびに「魔法少女を見守る会だっ!」と、息を切らしながら訂正していたが、扇は全くそのお通りだなーと、笑いながらのんきにこの状況を楽しんでいる。

 もちろんクラス中に部員だとバレている俺も、そう揶揄されている一人だ。


 まさか、あの格好で全校生徒の前に立つなんて……

 いや、仮面とマントを買ったのは俺だよ?

 通販であれを買っちゃったのは俺だよ?

 でもそれは、その、魔法少女に合わせて、正義の味方っぽくするために選んだ偶然の産物で————


 魔法少女の存在を信じていない連中の前で披露するものではないだろう。

 今更ながら、めちゃくちゃ恥ずかしかった。


 守夜美月は、あれを見て、どう思っただろうか……

 あれから……というか、あのホテルでの一件以来、魔法少女とはあまり話せていない。

 まぁ、学校での会話ゼロと比べたら、多いけども……


 あの青い鳥が、二人っきりで話をしようとすると何かと邪魔をしてくるんだよな……

 彼女が魔法少女を辞めたがっていることに、もしかして気がついているかも————



 なんて思いながら、廊下を歩いていると上下部長からメセージが来て、今日も放課後に部室に来るように言われた。

 行きたくない……

 正直、行きたくない。


 でも、俺が行かなかったらきっと、また上下部長が教室にくるだろう……

 それだけは避けたい……


 部室の前で一度大きくため息をついてから、ドアを開けた。


「お疲れ様です……」

「おー来たか! 新入り君!! あ、いや、もう君も先輩か……ハァハァ」


 上下部長は、俺の背中をバシバシと叩きながらそう言った。

 なんだかいつもよりテンションが高い気がする……

 もう君も先輩?

 どう言う意味だ?


「お! メースケ!! よかったなぁ!!」


 俺よりも先に部室に来ていた扇も、いつも以上にニヤニヤと笑っている。

 そして他の部員たちも、なんだかいつもよりざわついているような……


「一体どうしたんですか? 何かいいことでも……————え……?」


 他の部員たちの陰に隠れていて、全然気づかなかったが、そこにいるはずのない人物が、部室の椅子にちょこんと座ってこちらを見ていた。


 おい、ちょっと待て!

 俺は、今、もしかして夢を見ているのか!?

 どうなってる!?

 一体何が起こっているんだ!?


 ありえない……ありえないぞ、こんなこと————



「ハァハァ……紹介しよう。今日から我が、魔法少女を見守る会に新しく入部した、守夜美月さんだ————」

「よろしく、お願いします」


 守夜美月が、魔法少女を見守る会に入部した。

 それも、あの部活発表会を見て……とのことらしい。


「我が部始まって以来初の女性部員だ! 新入り君……いや、えーと青野君……あ、いや、青野は二人いるからややこしいな。えーと、メースケ君! 君が先輩として、しっかり彼女をサポートするんだよ? ……ハァハァ」

「えっ!? 俺が!?」


 なんだこれ……

 本当に、一体どうなってる!?


 なんで、俺が守夜美月のサポートを!?

 いや、確かに、彼女のサポートをしてはいるけども……

 それは、この魔法少女を守る会と言っておきながら、彼女の正体を暴こうとしている部長たちから守るためで……

 なんでその部活に、魔法少女自身が入部するんだよ!!!?


「よろしくね、青野くん」


 一体何からツッコめばいいんだ、この状況……


「ハァハァ……青野は二人いるから、下の名前で呼ぶんだ新入りちゃん。ややこしいからね……」

「そうですか……じゃぁ————」


 守夜美月は、椅子から立ち上がり、俺の前まで来ると右手を出して来た。


「よろしくね、メースケくん」


 背の低い彼女の意図せぬ上目遣い。

 ああ、やっぱり、くそかわいいな!!!


 握手をしながら、俺は平静を装うのに必死だ。

 手汗をかいていなくて、本当に良かった。



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