第16話 初めての接触 後編


「あ……えーと……それは……——」


 初めて話しかけられたし、名前も呼ばれた。

 クラスメイトだから知っていて当然なのかもしれないが、守夜美月が俺を認識していたということに喜びを感じた。

 そして、ものすごく緊張している。


 言葉が出てこない。

 今、何を聞かれたんだっけ?

 あぁ、そうだ、魔法少女を見守る会についてだ……


 昨夜はあんなに普通に話をしていたのに……

 二人であんな場所にいたのに……

 キスする直前までいったのに……


 なかなか質問に答えない俺にしびれを切らしたのか、彼女はもう一度、同じ質問をする。


「ねぇ、だから、魔法少女を見守る会って、なんなの?」



 ああ、そうか……

 昨日は敬語だったけど、今はタメ口なんだ。

 だからこのなんだか違う感じが……


 いや、違う。

 そうじゃない。


 俺を見る守夜美月の目は、仮面をつけた俺を見る時の目と違う。

 あのうっとりとしたような、熱のこもった瞳ではない。


「ま、魔法少女を見守る会は……魔法少女をその、名前の通り見守る会で…………く、詳しくはその、ああ、そうだ、来月の部活発表会でわかると思うよ」


 まさか、魔法少女本人に、実は見守ってなんていなくて、正体を暴くのに必死な部活だなんて言えなかった。

 あの上下部長がここまで来て大声で話していたせいで、クラス中に俺が魔法少女の見守る会の部員であることは知れ渡ってしまったに違いない。


 ただのクラスメイトの青野冥助は、あの瞳で見つめられることはないだろうけど、せめて嫌なものを見たような視線は向けられたくはなかった。


「ふーん……そう。わかったわ、ありがとう」


 こんなキレの悪い返答をした俺にも、きちんとお礼を言って彼女は自分の席に戻っていく。


 きっかけはどうであれ、せっかく、初めて青野冥助として話すことができたのに、もっと上手く話せばよかった。

 きっと、変な奴だと思われたに違いない。


 今更、後悔してももう、遅いけど……



 それから、彼女から俺に魔法少女を見守る会について……も、それ以外の会話をしにくることもなかった。

 もちろん、俺も、彼女に話しかける勇気なんてない。


 学校ではただのクラスメイト、夜は怪人と戦う魔法少女のサポート役という、この奇妙な関係には変わりはないだろうと思っていた。

 そう、部活発表会で、あんなことが起こるまでは……




 ◇ ◇ ◇



「部長! 本当にこれで出るんですか!?」

「何を今更言っているんだ! ハァハァ……君のせいで、魔法少女の映像を撮ることができなかったんだから、文句を言うんじゃないよ!! 新入り君!!」


 ついに部活発表会の日が来たが、魔法少女を見守る会は、なんの成果もあげられなかった。

 上下部長はとっておきの秘策があるから安心していろと、後輩たちにはなにも言わなかったが、当日になって渡されたものを見て俺は驚愕するしかない。


「さぁ、ほら、全員それに着替えて!! 次は、我々の出番だよ!! ハァハァ」


「はい部長!!」

「いっちょかましてやりましょう!!」

「これで、俺たちを廃部にしようなんて、あの生徒会長も思わないでしょう!!」


 俺以外の部員全員が、部長の秘策にノリノリだった。


「ほら、メースケ! 早く着替えろよ!」


 もちろん、扇もノリノリで、戸惑う俺に、みんなと同じ格好をさせようと体育館の舞台袖で半ば無理やり装着されたのは、俺が通販で買ったものと全く同じ、仮面とマント。


「それでは、次は、魔法少女を見守る会の部員のみなさんでーす! お願いします!」


 司会の生徒会役員がそう言うと、魔法少女を見守る会の部員、全員が、仮面とマントをつけて、舞台の上に上がった。


 ファン様が大量発生。

 部長はマイクを持って、堂々と言ってのける。


「我々、魔法少女を見守る会は、日々こうして魔法少女の活躍を影からサポートしているのです! こちらの写真をご覧ください……ハァハァ」


 スクリーンに映し出されたのは、魔法少女がカメラに収まるのを隠すように邪魔をする仮面の男の姿。


「これが、我々、魔法少女を見守る会の活動の成果です!! 我々がサポートをすることで、魔法少女は怪人と集中して戦うことができるのです!! ハァハァ……」



 舞台上から、生徒の顔がよく見える。

 紅会長は不機嫌そうに俺たちを睨みつけ、守夜美月は驚いて目を丸くしていた。



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