第15話 初めての接触 前編


 ムシャムシャ苺を食べながら、新たに現れた怪人の報告をしてきたしゃべるこの鳥。

 どうやら、魔法少女が言っていたまるでブラック企業の魔法少女協会の鳥だそうだ。

 怪人は夜になると出現するらしく、本当に何時であろうと出現したら絶対に行かなければならないようだ。


 そろそろ、俺たちを追いかけてきていた部長たちも諦めて帰っただろう……ということで、俺たちはホテルを出た。

 俺も魔法少女を守ろうと、一緒に現場に向かったのだが……

 生身の人間である俺は、途中から変身した魔法少女の速度についていくことができず、見失ってしまう。

 いや、だって、運命の人だなんとか言われてたけど、俺は魔法少女とは違って、空とか飛べないし……

 こんな格好はしているけど、ただの人間だし……


 そう思いながら、仕方がなく俺は家に帰ることにした。


「可愛かったなぁ……もう少しで……守夜美月と…………」


 目をとして、キスを待っていた彼女のあの可愛い顔を思い出して、ニヤニヤと口元がだらしなく緩んでしまう。

 無理だ……

 あんなに可愛いものを見せられて、普通の表情でいられるわけがない。


 仮面とマントを外し、ただの高校生の姿に戻った俺は、本当に彼女のことしか考えられず、家に着くまでの間ずっと思い出し笑っていた。


「大人に……してください…………なんて、そんな。へへ……」


 誰もいない真夜中の住宅街に、俺の笑い声が響いていた。




 * * *



「おい、新入り君!! どこへ行っていたんだ!! ハァハァ……」


 翌日、学校へ行ったら上下部長に責められた。

 俺が魔法少女を助けるのに必死だったせいで、昨日この部長に指示された場所から離れたからだ。

 カメラもあの公園のタコの遊具の上に置いていなくなった上、その後連絡も取れなかったと……


 何も、朝早くから下級生の教室に来てまで言わなくていいのになぁ……

 確かに、それは俺が悪いけど……


「君のいた場所が一番魔法少女に近かったのに!! ハァハァ……」

「す、すみません。ちょっと、あの……その、腹が痛くてトイレに行ってたんですよ! 戻って来たら、もう誰もいなくって……」


 我ながら、ひどい言い訳だ。

 まぁ……本当のことなんて言えないのだから、仕方がない。

 魔法少女とラブホにいたなんて、言えるわけがない。


 それに、教室には魔法少女である守夜美月本人がいるんだ。

 俺が魔法少女を見守る会のメンバーだってことを彼女が知ってしまっては、余計に気持ち悪いと思われるだろう。


 残念ながら、この学校に魔法少女を見守る会は確かに存在してはいるが、大半の生徒たちからは気持ち悪がられている部活なのである。

 あの紅生徒会長が廃部にさせたい部活第一位の、底辺の部活。

 女子から嫌われている部活第一位だ。


「ハァハァ……まったく、いくらなんでもね、カメラを置いていくなんて言語道断だよ!! それに、どうするんだい!! せっかく、魔法少女の活躍をカメラに収められるチャンスだったのに……!! あの何者かわからない仮面の男も邪魔して来て、本当にもう!!!」

「すみません。そうですね……確かに、何者なんでしょうか、あの仮面の男……」

「ハァハァ……まぁ、魔法少女を見守る会としては、魔法少女を助けているようだから無下にはできないけど…………あんな仮面をつけて現れるなんて、魔法少女を狙っているとしか————」


 上下部長は、急に何かを思いついたようにピタリと動きを止める。


「ど、どうしました?」

「……いや、いいことを思いついた。とにかく、放課後また作戦会議をするから、ちゃんと部室に来るようにね!! ハァハァ」


 一体何を思いついたのか教えてはくれなかったけど、上下部長は俺にそう念を押して、自分の教室へ戻って行った。



「あの……」


 やっと部長が帰ってくれてホッとしたのもつかの間、今度は別の人に後ろから声をかけられて、一体朝からなんなんだ……っと、声がした方を振り向けば、守夜美月だった。


 もももももももも守夜美月ぃぃぃぃ!?

 ななななななんだ!!

 俺に、俺に何か用なのか!!?


 俺に言ってるのか!?



「魔法少女を見守る会って、一体なに? 青野くん」



 守夜美月に、学校で話しかけられたのはこれが初めてだった————



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