第11話 変身できないっ!?


 それぞれの持ち場にいた部員たちが、悲鳴が聞こえた場所目指して動き始めるのが見える。

 まずいぞ……!!

 このままじゃ、正体が…………いや、待て。

 どうして魔法少女の姿にならないんだ?

 あんな怪人一人くらいなら、魔法少女の力で今までなんども倒していたはずだ。


「チクショー!! よりによって、変身ブローチが故障してる時に怪人が現れるなんて聞いてないぜぃ! どうしたらいいんだぜぃ!」


 あの青い鳥が、そういいながら空を飛んでいて俺はすぐに状況が理解できた。

 魔法少女は、変身しないんじゃなくて、できないんだ!!


「大変だぜぃ! このままじゃ、やられちまうぜぃ!!」


 俺はさっと用意していたマントと仮面を装着すると、全然俺の存在に気が付いていない青い鳥にむかって言った。


「おい、そこの鳥くん!! 魔法少女は今変身できない状態なんだな!?」

「お!! おお!! 仮面のやつじゃないか!! そうなんだ!! 変身ブローチに穴が空いちまって、そこからハートが……魔法少女に変身するための魔法石がこぼれ落ちちまって……」


 魔法石……それってまさか————


 俺はズボンのポケットに手を突っ込み、今朝通学中に拾ったハートの物体を取り出して、鳥に見せる。


「魔法石って、これのことか!?」

「ど、どうしてそれをお前が!!?」

「たまたま拾ったんだ。やっぱりこれのことなんだな……」

「それがあるなら、変身することができるぜぃ!! おい、仮面のやつ!! それをこの新しい変身ブローチに詰めて、魔法少女に渡してくれ!! オレっちがおとりになって気を引いているうちに、頼むぜぃ!!」

「わかった!!」


 俺は急いで守夜美月のもとへ走った。

 このままでは、悲鳴を聞きつけた他の部員たちが集まって着てしまう。

 さらにいえば、彼女の身が危険だ。

 おそらく怪人は、彼女こそが魔法少女であることに気がついていない。

 俺が、今助けなくてどうする!!!



「は、離して!!」

「大人しくしろ、人間! 俺様がお前を怪人族の奴隷としてやろうって言ってんだろう? アーン?」

「やめるんだぜぃ!! その子を離すんだぜぃ!!」


 鳥がチョウチンアンコウ怪人の前をバサバサと飛び、気を引いている間に俺はそっと怪人の後ろから近寄り、公園に落ちていた木の枝を怪人の弱点である臀部の穴にぶっ刺した。


「はああああああああああん!!!」


 うめき声をあげて、怪人は動きを止める。

 その隙に、怪人から彼女を引き離し、新しい変身ブローチを手渡した。


「ふぁ……ファン様!! どうしてこれを!?」

「話はあとだ、魔法少女。早くこれを使って変身するんだ……!!」

「は……はい!!」


 守夜美月が変身ブローチを振ると、シャラシャラと中で魔法石がぶつかって音を立てる。

 すると、ピンクの光が彼女の体を包み込み、制服のグレーのブレザーからピンクの魔法少女のロリータっぽいワンピースへ。

 髪の色も、真っ黒だったものがピンクへと変化した。


 制服からワンピースに変わる瞬間、ほんと一瞬だけ裸だった気がするが、光が眩しすぎてよく見えなかったことはあえて言わないことにしよう。

 断じて俺は、よこしまな気持ちでその変身シーンを見ていたわけではない。

 誤解しないでほしい。



「ありがとう……これで戦えるわ!!」


 魔法少女は魔法のステッキを振りかざし、再び動き出そうとしていた怪人を消し去る。


「キラッとビーーーーム!!」

「あああああ!!! くそ……魔法少女めえええええああああああん!!!」


 これで一件落着だと、ほっとした俺の顔を、魔法少女がちょっと頬を赤くしながら上目遣いで見つめてきた。

 その顔、めっちゃ可愛い……どうにかなりそうなくらい可愛い!!

 でも、でもそれは


「ファン様、助けてくださってありがとうございました。なんとお礼を言ったらいいか……」

「いや、礼なんて、そんな……」


 俺じゃなくて、この仮面の男に……なんだよな…………


 魔法少女が俺の手をつかもうとしていたのに気がついて、言葉には出さなかったけど、それはダメだと拒絶してしまった。

 今、こんな状態で魔法少女に……守夜美月の手に触れるなど、俺には不相応すぎる。


「い、いたぞ!! 魔法少女だ!!! ……ハァハァ 仮面男もいるじゃないか!!! ハァハァ……」


 しまった!!

 部長に見つかってしまった!!


 カメラを持った部長がシャッターを切る。

 その背後から、他の部員たちも集まって来てしまった。


「逃げるぞ、魔法少女!! ここにいては危険だ!!」

「は、はい!!」


 俺は魔法少女の手を掴み、その場から逃げ出した。



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