第12話 ベッド、追加料金がかかります
「待てー!! ハァハァ……魔法少女!!!」
カメラを持ったまま追いかけてくる部長たちを振り切ろうと、必死に走った俺と魔法少女がたどり着いたのは、現場からかなり離れた繁華街だった。
走っている間にも、別の目撃者が増えて、酔っ払いのおっさんなんかも一緒になって追いかけてくる。
このままでは、いくら魔法少女の姿ははっきりと映像や画像として残らないとはいえ大勢の人にこの可愛い顔を見られてしまう。
どうしよう……どうしたらいいんだ!!
息を切らしながら、なんとか路地裏に入った。
「ど……どうしましょう、ファン様! これでは、外に出られません」
「そうだな……仕方がない、君はその変身を解いて逃げればもう追ってこないだろう」
「でも、それではファン様は? きっと追ってくるあの人たち……特にあの息の荒いカメラのバンダナの方に酷い目にあわされてしまうのでは?」
「いいんだよ俺は……とにかく、まずは変身を解くんだ」
「は、はい」
魔法少女は俺の手を離さずに、守夜美月の姿に戻った。
「ほら、先に逃げて。俺は後からなんとか逃げ切るから」
「そんなこと、できません! あなたを残して、私だけなんて」
彼女は何度も首を左右に振って、俺の提案を聞き入れてはくれない。
「わかったよ……少し、時間はかかってしまうかもしれないけど、タイミングを見計らって、二人でここから出よう」
「はいっ!」
路地から出て行くタイミングを伺っていると後ろからポン、と肩を叩かれた。
「あなた……あの時助けてくれた仮面の人ですね!!」
「あ……あなたは、以前の!!」
そこにいたのは、俺が以前この仮面男の姿で魔法少女が来るまでの間に助けた、怪人に襲われた被害者のお姉さんだった。
「お困りのようですね。よかったら、うちに来ませんか?」
「え? うちにって……」
お姉さんはすぐそばの建物を指差す。
「私、このホテルのオーナーの娘なんです」
「ホテル?」
「お安くしますよ?」
裏側にいるため全然気がつかなかったが、この建物はホテルなのか……
それはここで出て行くタイミングを待ち続けるより、ずっと安全そうだった。
* * *
「それじゃぁ、ごゆっくり」
お姉さんが裏口からホテルに入れてくてれ、案内された部屋は中央にまあるい形のベッド一つがある広い部屋だった。
「ちょっと待て。頼んだのはこちらだが、なぜベッドが一つしかないんだ? しかも、なんだこの形は……」
「いやだわぁ、仮面のお兄さんったら……そんなの決まってるじゃない。こんなところで女子高生といたってことは、そういうことでしょ?」
そういうことって、どういうことだ……!?
「いやいや、意味がわからない。ベッドは二つないと……普通ホテルならあるだろう?」
ツインルーム以上の広さだと思うんだけど……なんでベッドが一つしか…………
「えー? そんな、一つで十分だと思うけどねぇ……ベッド用意するなら、追加料金かかるけど?」
「くっ……!!」
残念ながら、俺たちはお金をあまり持っていなかった。
さっき一泊の料金を聞いたら、ギリギリ払えるくらいだったのだ。
「ファン様、仕方がないですよ! 大きなベッドですしこれで大丈夫です!」
「いや、でも……」
「それより……さっきからずっと気になっていたんですが————」
守夜美月はベッドの横にあったたくさんの謎のボタンを指差して言った。
「このボタン、押してみてもいいですか?」
いや、確かに俺も気になりはしたけど……!!
「いいよ、押してごらん?」
お姉さんは笑いながらそういうと、彼女はポチッとボタンを押した。
「わー……!! 綺麗!!」
部屋の明かりがパッと消えて、天井に星空が描かれる。
「プラネタリウムですね……! こっちのボタンは?」
今度は七色の光がベッドの周りをチカチカと照らし始める。
「わー……!! コンサート会場みたいで楽しいですね!!」
感心している場合じゃない。
このホテル……もしかして……いや、もしかしなくても…………!!
「それじゃ、ベッドは一つで十分ってことで、ごゆっくり。お二人さん……」
お姉さんはニコニコと笑いながら、この怪しい部屋から出ていった。
「すごいです!! 私、こんなお部屋初めてです!!」
あぁ、神様、仏様……俺は一体、どうしたらいいんでしょう?
俺は今、無邪気に笑う魔法少女とラブホにいます————
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