第9話 敵は本能的にナシ


「新入り君!! 魔法少女に助けられたというのは本当かね!!? ハァハァ……」


 おそらく扇が話したのだろう。

 上下部長はいつも以上に息を切らしながら、放課後部室に入った瞬間に顔を近づけて聞いてきた。


「ほ……本当ですけど……顔なら、覚えてないっすよ?」


 最近俺が先回りして魔法少女のいる場所から遠ざけているせいで、部長たちは魔法少女に全くと言っていいほど遭遇していないのだ。

 目撃者の数は、ぐっと減っているが、それでも被害にあった人はいる。

 さすがにおかしいと思われているかもしれない。


「ハァハァ……本当かい!? それは残念だ……!! 我々、魔法少女を見守る会としては、来月の部活発表会の前にどうしても何かしら成果を出さなければならないのだが……ハァハァ」

「部活発表会? なんスか、それ」


 聞き覚えのない行事に首をかしげると部長はため息をついた。


「はぁ……まったく、君は今朝の全校集会で生徒副会長が話していたことを聞いていなかったのかい? あの女、実績のない部活を廃部にしようとしているんだよ……ハァハァ……」


 生徒副会長?

 ああ、確かなんかそんな話をしていたような気もしないでもない。

 でも、全校集会で壇上にいたのは、男子生徒だったと思うんだけど……


「あの女って……副会長男ですよね? 誰のことを言っているんですか?」


 俺がそう聞くと、部長はぐっと眉間にしわを寄せて、しかめっ面になった。

 顔のパーツが全部中央によっている。

 頭に血が上っているのか、顔も赤いし、梅干しみたいだ……


「あの女といえば、生徒会長に決まっているだろう!! 生徒会長のくれない萌子もえこさ!! ハァハァ……」


 そういえば、うちの生徒会長はそんな名前だった。

 でも、多分まだ1回ぐらいしか見たことがないと思う。

 どんな顔だったか、さっぱり思い出せないな……



「あら、私に何か用? 上下くん」


 そう思っていたら、背後から突然女の声がした。

 振り向くと、部長が入って来た途端に迫ってきたせいで閉めるタイミングを失っていた部室のドアの前に、腕を組み仁王立ちしている女子生徒がいた。


「げっ!! 紅だ!!」


 なんてタイミングだろうか……

 噂の生徒会長が、まさか俺の背後にちょうどいたなんて……


 紅会長は、すらっと伸びる綺麗な脚がよく見える生徒会長とは思えないほど短いスカート。

 さらに腕を組んでいるから余計にその胸のでかさを強調している。

 そして、さらに驚いたことに、その顔には見覚えがありすぎた。


 可愛いというより、美人系の顔つき。

 昨日俺の顔に傷をつけた、セクシー系女怪と瓜二つだった。


「あら……なぁに、私の顔に何かついてる? そんなにじっと見つめちゃって」

「い………いえ、なんでもないです」

「なるほど……この私の美しい私から目が離せないのね?」

「え……いや、だから、なんでもないですって」


 美しいかもしれないが、完全に俺のタイプではない。

 しかも女怪人じゃねーか。


「わかるわ。あなたもこの私の美しい脚と豊満なバストに触れてみたいのよね……男って、どうしてみんなそうなのかしら? いやらしいったらありゃしない」

「だから、思ってないですって!!」


 なんだかものすごい面倒くさい先輩だったが、どうやらこの生徒会長は俺が昨日奴隷にし損ねた男だとは気がついていないようだ。


「いいのよ……素直になりなさい。そうね……この部を廃部にするのに協力するというのなら、1回ぐらいなら触らせてあげてもいいわよ?」

「だから、俺はそんなこと思ってないですってば…………って、この部を廃部に?」

「やる気になった?」

「そうじゃなくて、どうして、この部を廃部にするんですか?」


 紅会長は上下部長を見て、ニヤリと笑った。


「そんなの決まってるでしょう? 魔法少女なんて、くだらないからよ」

「……なんだと!! 魔法少女を馬鹿にするな!! ……ハァハァ」


 上下部長に遮られても、それでもなお、紅会長は言う。


「私、魔法少女なんて大っ嫌いなの」



 俺の顔に傷をつけた、あの時と同じ顔で————


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