新七不思議奇譚【1:1:0】60分程度
嵩祢茅英(かさねちえ)
新七不思議奇譚【1:1:0】60分程度
男1人、女1人
60分程度
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「新七不思議奇譚」
作者:嵩祢茅英(@chie_kasane)
男子生徒♂:
女性生徒♀:
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男子生徒
『学校の七不思議』。
全国で噂される、学校にまつわる怪談。
この学校にも例に漏れず、そんな話が一部の生徒の間で
まことしやかに囁かれている。
(間)
女子生徒:タイトルコール
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(間)
男子生徒
「ねぇ、トイレの花子さんって知ってる?」
女子生徒
「知ってる!有名じゃん!
トイレの一番奥の個室をノックして、
名前を三回呼ぶと出てくるってやつでしょ?」
男子生徒
「それがさぁ、今は少し違うんだってさ」
女子生徒
「違う?どんな風に?」
(間)
女子生徒
「新校舎のトイレ…
こんなキレイなトイレで、怪現象なんて本当に起こるの?
まぁ…放課後残って試す私も私だけど…
えっと、一番奥の個室の前に立って…」
(扉を三回ノックする)
女子生徒
「花子さん、いらっしゃいますか?
花子さん、いらっしゃいますか?
花子さん、いらっしゃいますか?」
「で、人感センサーが切れるまで、動かずに待つ………」
女子生徒
(…なにやってんだろ、私…つか、電気どれくらい待てば消えるの?)
(ただ立ってるだけだとこんなに長いなんて。休み時間だとすぐに過ぎちゃうのになぁ…)
(………)
(っ…電気消えた…)
(ん?…水の音?水が落ちる音がする…)
(………音が、近い…)
(どうしよう…体、動かしてもいいのかな…)
女子生徒
「…えっ」
男子生徒
目が暗闇に慣れ、モノの境界線が見え始めた頃…
そこは、個室の『中』だった。
女子生徒
「は…なんで…なんでっ?!ちょっと!!」
男子生徒
急いで鍵を開けようとするが、戸が開く気配はなく、電気も点かなかった。
女子生徒
「なんでっ!何で開かないのよっ!!」
男子生徒
そこには、取手も鍵も、扉すら存在しない。
一枚の、壁だった。
ぴちゃん…ぴちゃん…と、水の跳ねる音がする。
女子生徒
「…え?」
男子生徒
狭い個室の中。
自分と、便器と…
その上に…何かある…
その瞬間、灯りが点いた。
女子生徒
「…っ!!!」
男子生徒
上から見下ろすように、女がソコに居た。
長い髪で顔が覆われ、その表情は窺えなかった。
女子生徒
「…なに、これ…何これ何これ何これ!!!
いや…嫌だっ!!やだ!!やだ!!やだっ!!!」
男子生徒
女は首を吊っていた。
おそらく元は白であっただろう、血で塗れたワンピース。
女の足先から、ぴちゃん、ぴちゃんと、便器に血がしたたり落ちる音がする。
女子生徒
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ…」
男子生徒
息が上がる。頭がおかしくなりそうになる。
女子生徒
「出して!!ここから出してよぉ!!!
お願いだからぁっ!!!!!」
男子生徒
扉の無い壁を叩く。
すると、ギィ…ギィ…と、縄の軋む音がする。
横で揺れ始める女の体。
女子生徒
「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!!
許してっ!!!
ここから…ここから出してよぉっっ!!!」
男子生徒
女の体が激しく揺れる。
ギィ…ギィ…ギィ…ギッ…ギッ…ギッ…
女子生徒
「やめて…お願いだからやめてっ!!」
男子生徒
女の首がガクン、ガクンと動き、髪が揺れ、顔が見え始める。
見たくない。
しかし、目を逸らす事は出来なかった。
ギッ、ギッ、ギッ、ギッ…
女子生徒
「やだ…やだ…」
男子生徒
女の顔には、目玉が無かった。
真っ黒い穴が二つ、ぽっかりと、空いていた。
女子生徒
「あっ、あ……あぁ………っ!!!!
い、いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
(間)
男子生徒
気がつくと、病院のベッドの上に横たわっていた。
学校のトイレで倒れている所を教員が見つけ、
意識が無かったため、病院に運ばれたようだった。
一通りの検査を終え、異常がないと診断された後、家族と共に帰宅した。
そして次の日。
部屋で首を吊り、命を絶った。
床には、大量のルーズリーフが散らばっており、
その全てに「ごめんなさい」と書かれていたという。
(間)
男子生徒:タイトルコール
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(間)
女子生徒
「ねぇ、理科室の人体模型の話、知ってる?」
男子生徒
「あー、夜中に学校を動き回ってるってやつ?」
女子生徒
「それもあるし、事故にあった子供の遺体で作ってあるって話!」
男子生徒
「はぁ?まさか。そんな訳ないじゃん」
(間)
男子生徒
「やっべ、理科室に忘れ物したっぽい…」
女子生徒
普段、ズボンの後ろのポケットに入れているスマホがない。
身の回りを一通り探しが見つからない。
きっと理科室に落としてきたんだ。
そう思い、部活の前に職員室に寄って、理科室の鍵を借り、誰もいない理科室に入る。
自分が座っていた席に向かうと、椅子の上にスマホが置いてあった。
男子生徒
「あー、あったぁ。良かったぁ」
女子生徒
スマホを取り、ポケットにしまう。
部屋を出ようと顔を上げると、ふと視界の端に、人体模型が見えた。
男子生徒
「……人体模型、ね…」
女子生徒
人体模型に向かって、ゆっくりと近づいていく。
男子生徒
「どう見てもプラスチックだろ…」
女子生徒
マジマジと細部を見る。
丸みを帯びた、造りの荒い内臓。
年代物のようで、所々塗装が剥がれていた。
男子生徒
「………さて、部活行くか」
女子生徒
立ち上がって振り返り、出口へと向かう。
女子生徒
『…ワ………テ…』
男子生徒
「………えっ?」
女子生徒
立ち止まって振り返る。
誰もいない理科室。
何か、聞こえた気がした。
男子生徒
「気のせい、か…」
女子生徒
気を取り直し、もう一度出口へと向かう。
女子生徒
『…ワッ……テ…』
男子生徒
「へっ?!」
女子生徒
今度こそ、ハッキリ聞こえた。
急いで振り返ったが、やはり誰も居ない。
そこにあるのは、人体模型だけ。
日の差し込まない、薄暗い理科室。
そこに佇んでいる人体模型が不気味に感じ、すぐに理科室を出て鍵をかけた。
男子生徒
「変な話を聞いたせいだ…
絶対そうだ、気のせい…だろ?」
女子生徒
そう自分に言い聞かせて部活に向かう。
だが理科室で聞いた「声」のせいで、まったく集中できなかった。
男子生徒
「なんて、言ってた……?」
女子生徒
気にはなったものの、もう一度確かめようという気にはなれなかった。
部活を終え家に帰ると、理科室で起こった事などすっかり忘れて普段の生活に戻っていた。
なんだか酷く体が重い気がして、早々と風呂に入ってベッドに潜る。
眠りに落ちるまで、時間はかからなかった。
(間)
男子生徒
「…………あれ?」
女子生徒
とても長い時間、寝ていた気がする。
男子生徒
「体が、動かない…」
女子生徒
そんな事を考えていると、ガヤガヤと人が近づいてくる声がした。
男子生徒
「…なんだ?」
女子生徒
相変わらず体は動かない。
重い重い、目蓋だけが開けられた。
見えたのは、学校の理科室だった。
そこに、クラスメイトが入ってくる。
男子生徒
「夢…?」
女子生徒
段々とクラスメイトの話し声が明瞭に聞こえるようになってくる。
見慣れた面々の中に、一人、見慣れない生徒がいた。
そのまま授業が始まる。
もうすっかり、目は覚めている。
男子生徒
「なんだよ、これ!」
「体が、動かない!!」
「おい!誰か!!!」
「誰か!!!助けてくれ!!!」
女子生徒
叫んでも叫んでも、声にはならず、淡々と授業が進んでいく。
男子生徒
「これはきっと夢だ…そうだろ?」
女子生徒
目を閉じて必死に願う。
男子生徒
「早く醒めろ!早く醒めろ!!早く醒めろ!!!」
女子生徒
そうしているうちに授業が終わり、みんなガタガタと椅子から立ち、教室へ戻って行く音がする。
もう一度、目を開ける。
すると、例の見慣れない生徒が一人、残っていた。
その生徒はニコニコと、とても嬉しそうに笑ったまま、こちらに向かって歩いてくる。
その生徒は自分の目の前まで来て、こう言った。
女子生徒
『ありがとう。代わってくれて』
(間)
女子生徒:タイトルコール
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------------------------------
(間)
男子生徒
「ねぇ、十三階段って知ってる?」
女子生徒
「なにそれ」
男子生徒
「夕方、四時四十四分に登ると、いつもは十二段の階段が、十三段に変わるんだって」
女子生徒
「へぇー、で?階段が増えるとどうなるの?」
(間)
女子生徒
「プリントも集めた。日誌も書いた。ふぅ、もう夕方じゃん〜」
男子生徒
先生から頼まれた作業が終わったのは、日が落ちる少し前だった。
職員室にプリントと日誌を届けて、後は帰るだけ。
昇降口へ、早歩きで向かう。
普段駆け降りる階段に差し掛かった時、思い出したあの言葉に、足を止める。
女子生徒
「っと…そういえば階段って十二段なんだっけ…」
男子生徒
なんとなく数えてみる。
女子生徒
「いち、に、さん、し……」
男子生徒
さっきまで早足で歩いていたせいか、心臓がドク、ドクと動く音が聞こえる気がした。
女子生徒
「じゅう、じゅういち………なーんだ、十二!
まぁ、そうだよねぇ…」
男子生徒
安心した反面、物足りなさを感じる。
女子生徒
「もう一回、登ってみようかな…」
男子生徒
くるりと振り向いて、階段を登り始める。
女子生徒
「いち、に、さん、し………」
男子生徒
西日が差し込む階段は、昼間の校舎とは打って変わり、別の空間のような、異様な感じがした。
女子生徒
「きゅう、じゅう、じゅうい、ち………えっ…」
男子生徒
登りきらなくても分かる。
見えている階段は明らかに一段、増えていた。
女子生徒
「じゅうに………じゅうさん………」
女子生徒
「うそ…さっきは十二段だったのに…」
男子生徒
急いで階段を駆け降りる。
女子生徒
「一!ニ!三!四!五!六!七!八!九!十!十一!十二…!!
ホラ、やっぱり十二段じゃ、ん………」
男子生徒
安堵して振り返ると、階段の上に、人影があった。
逆光のせいか、顔は暗くて見えない。
自分と同じくらいの背丈をしたソレからは、生気が感じられなかった。
ここから離れなきゃ。
根拠はない。ただ、ここから逃げなきゃいけないという気持ちに支配された。
女子生徒
「っ!」
男子生徒
昇降口に向かって駆け出す。
女子生徒
「なに、なに、なに?!なに、アレ!!」
男子生徒
急いで靴に履き替えて、校門まで走る。
女子生徒
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ…!!!」
女子生徒
「ここまでくれば、大丈夫、かな…」
男子生徒
昇降口の方を見る。
すると、そこに人影がある。
階段で見たアレだと、直感した。
辺りは薄暗くなっている。
それにしてもだ。あの人影は一段と暗く、生きている人間とは思えなかった。
女子生徒
「追いかけて、来てる…?」
男子生徒
そんな気がした。
早足で帰路につく。
しばらく歩いてから、振り返る。
すると、少し離れた位置にアレがいる。
女子生徒
「やっぱり追いかけてきてる!!」
男子生徒
そう思った途端、恐怖心が支配する。
全速力で走って家に向かう。
帰り道。
いつもと違う、違和感。
その違和感はすぐに分かった。
女子生徒
「誰も、居ない…」
男子生徒
普段は人通りの多い道。それが、一人もいない。
女子生徒
「こんな事って…ウソ…車が走る音もしない…」
男子生徒
不安に駆られ、車通りの多い大通りまで走る。
女子生徒
「車が走ってない…人も居ない…」
男子生徒
呆然と立ち尽くしていると、
後ろから、誰か近づいてくる気配がした。
ゆっくりと振り返る。
アレだ。アレが近づいて来る。
女子生徒
「いやだ…来ないで、来ないで…こっちに来るな…!!」
男子生徒
アレが着いて来ている。
このまま家に向かうのも怖い。
ひたすら大通りを走る。
女子生徒
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ…!!!」
男子生徒
走っている間も、人に出会う事は無かった。
車道を抜けようと足を踏み入れ、振り返った瞬間。
突如、背後から激しい光に照らされ、
人影の顔がうっすらと見える。
その人影は…
女子生徒
『自分だった』
男子生徒
キキーーーーーッ!!!ドンッ!!!
(車の急ブレーキ、衝突音)
(間)
男子生徒
「ねぇ、十三階段って知ってる?
夕方、四時四十四分に登ると、いつもは十二段の階段が、十三段に変わるんだって」
女子生徒
「へぇー、で?階段が増えるとどうなるの?」
男子生徒
「死ぬ時の自分の姿が見えるんだって」
(間)
男子生徒:タイトルコール
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(間)
女子生徒
「そうそう、最近出るらしいよ。口裂け女」
男子生徒
「口裂け女?」
女子生徒
「知らない?口が耳まで裂けてる女。
昔に流行った怖〜い話」
男子生徒
「口裂け女は知ってるよ。
それが出るって?
何がきっかけで今?と思ってさ」
(間)
男子生徒
「口裂け女ねぇ…
昔流行った怪談でしょ?
赤いロングコートにマスク姿で、べっこう飴が好物…だったっけ?」
女子生徒
子供の頃に、歳の離れた姉から聞いたことがある。
当時はその話がとても怖くて、一人で寝られなくなるくらい恐怖した。
そのせいで口裂け女の特徴はよく覚えている。
しかし、幼い頃の怪談ブームは去り、口裂け女やその他の怖い話なんてものは、とんと耳にしなくなった。
それが今「口裂け女が出る」と言われても…
子供じゃあるまいし…
そう思いながら一日が過ぎ、家へ帰る道すがら、ソレに出会った。
目立ちすぎる赤いロングコート。
腰の辺りまで伸びた黒髪。
マスクをしたその女は、俯きながら道の端に立っていた。
男子生徒
(は、ウソだろ…?)
女子生徒
そう思った。
噂が真実ならば、今目の前にいる女が『口裂け女』なのだろう。
そして女はこう問いかけて来る。
『私、キレイ?』と。
そして『キレイだ』と答えると、マスクを取り、『これでも、キレイ?』と、裂けた口を見せてくるのだ。
それに恐怖し逃げ出した者は、女が隠し持っていた刃物で、同じように口を裂かれてしまうという。
ならば、この問答をしなければいい。
男子生徒
(何を言われても無視する。)
女子生徒
そう決心して歩き出した。
そして、女とすれ違う時。
女子生徒
『あ、あの…』
男子生徒
(ホラ、話かけてきた。)
女子生徒
だがこれを無視して歩き続けた。
話をしなければなんてことはない。
オドオドとした喋り口で話かけてきた女には目もくれず、颯爽と歩みを進める。
すると、女は焦り出した。
女子生徒
『あ、あの…っ』
『あの、わた、わたし…っ』
女子生徒
焦った女が小走りで追いかけきて、大通りに差し掛かったその時。
すぐ後ろで、激しい衝突音がした。
トラックが女を轢いたようだった。
男子生徒
(口裂け女も事故に遭うのか?
そもそも女は口裂け女だったのか?
派手なコートを着た、ただの人間だった可能性はないのか?)
女子生徒
そんな事を考えながら、事故現場を眺めていた。
女は地面に伏しており、おびただしい量の血液が、地面を赤く染めていた。
血液を吸ったコートが、更に色を濃くした。
やがて物音を聞きつけた大勢の人によって、女の姿は見えなくなった。
(間)
女子生徒
女がトラックに轢かれた事故は、大きなニュースになった。
学校では『口裂け女がトラックに轢かれた』という話で持ちきりになり、大人の間では『最近頻繁に目撃されていた不審な女が事故に遭った』と噂された。
そしてその日の帰り道。
昨日とは違う、いや、厳密には同じモノだが、昨日まで名を馳せていた『口裂け女』とは少し異なった怪異が道の端に立っていた。
口が裂けきり、頭の上半分を無くした女は、断面から溢れる血を流しながら何かを話そうとしているが、喉から出る空気によって口中に溜まった血液がボコボコと音を立てるだけだった。
昨日と変わらず、横を通り過ぎると、そいつは少し遅れて後を着いてくる。
少しして、事故が起きた現場を過ぎると、女はそこで止まった。
男子生徒
「そこまでしか着いて来られないのか」
女子生徒
そう思った。
女は恨んでいるのだろうか。
それは誰にも分からない。
その日から毎日、自分の少し後ろを女が着いて来るようになった。
(間)
女子生徒:タイトルコール
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------------------------------
(間)
男子生徒
「ねぇ、放課後にこっくりさんやらない?」
女子生徒
「こっくりさん?」
男子生徒
「そう、紙にひらがなとか書いて、十円玉に指を付けてやる降霊術!」
女子生徒
「あぁ、あったねそんなの」
(間)
女子生徒
「こっくりさんに聞きたい事考えた?」
男子生徒
「色々ありすぎて困ってる!!」
女子生徒
「はは、そっちか…私は…どうなんだろ…」
男子生徒
「聞きたい事ないの?」
女子生徒
「うーん…聞きたい事っていうか…願い、なら、あるかも」
男子生徒
「じゃ、それお願いすればいいじゃん!」
女子生徒
「うん…」
男子生徒
放課後の教室に残り、二人は一つの机に向かって座っていた。
校庭からは運動部の声が聞こえ、窓からは夕暮れの赤みがかった日の光が差し込んでいた。
女子生徒
「さてと…はー、書き終わったー!もうこれだけで疲れた!」
男子生徒
「いやいや、これからがお楽しみじゃん!鳥居のマークに十円を置いて…ほら、指出して!」
女子生徒
「ん…」
男子生徒
「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら『はい』へお進みください」
女子生徒
「………動かないね」
男子生徒
「何回か呼びかけないと…ほら!」
女子生徒
「……こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください…もし、おいでになられましたら、『はい』へお進みください」
男子生徒
「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでくだ、さ………っ!」
女子生徒
「………動かしてる?」
男子生徒
「まさか!」
女子生徒
「…じゃあ…」
男子生徒
「…………恋人はいつできますか!!」
女子生徒
「ふっ、いきなりソレ?」
男子生徒
「大事な事だよ?!」
女子生徒
「………」
男子生徒
「は………ん………と………し………ご…!!!
えっまじで?!ねぇ!半年後だって!!見た?!」
女子生徒
「見たよ、てか目の前なんだから見てるに決まってんじゃん…」
男子生徒
「やばい、楽しみすぎる…」
女子生徒
「努力を怠るなよー」
男子生徒
「なにそれ先生みたいじゃん」
女子生徒
「半年後に恋人ができるんだ、って決め付けて
ダラダラ生きてたら未来変わっちゃうかも知れないじゃん」
男子生徒
「超現実的ぃ……で?何お願いすんの?」
女子生徒
「………」
男子生徒
「…?…おーい?」
女子生徒
「…はあっ(息を吸う)、家族が仲良くなりますように」
男子生徒
「………」
女子生徒
「……おわり」
男子生徒
「…よしよし」
女子生徒
「…やめろ」
男子生徒
その時だった。部屋の出入り口の向こう側から、雷が落ちたような激しい音と衝撃があり、驚いた二人は椅子から立ち上がっていた。
女子生徒
「………なに今の」
男子生徒
「…ちょっと見てくる」
女子生徒
「え?やめなよ…」
男子生徒
「どっちにしろ帰るとき通るじゃん」
女子生徒
「そうだけど…」
男子生徒
出入り口まで行き、扉を開ける。
そこに見えたのはいつも通りの廊下だった。
身を乗り出して左右を確認するが、変わったことはなにも無かった。
女子生徒
「なんかあった?」
男子生徒
「なんもない」
女子生徒
「えーー!!なにそれ、一番怖いんだけど」
男子生徒
「何かあっても怖いだろ」
女子生徒
「んーー…てか、十円から手離しちゃった」
男子生徒
「今気づいた…大丈夫かな?!」
女子生徒
「もういいよ、どうせお遊びだし」
男子生徒
「ドライすぎ!」
女子生徒
「ほら、帰ろ」
男子生徒
音の正体が分からなかった事、十円玉から手を離してしまったこと…
モヤモヤした気持ちのまま、教室を出て、そのまま帰路に着いた。
(間)
男子生徒
家に着き、鍵を開けて入る。誰もいない。いつもの事だった。
両親は物心ついた頃から不仲だった。
それでも離婚しないのは、子供が二十歳になるまでは、と決めているからだ。
顔を合わせればケンカは絶えず、家の中の空気は悪くなるばかりだった。
そのせいもあり家族は皆、出来るだけ遅くまで外で時間を潰してから帰っていた。
家族の事は諦めていたはずだった。
けれど今日、『家族が仲良くなりますように』と願った自分がいた。
それはきっと、本心なのだろう。
(間)
女子生徒
「…やば、寝てた…」
男子生徒
気がつくと、楽しそうに話す声がした。
体を起こし、部屋を出ると楽しそうに話す声は大きくなった。
それは、両親の声だった。
その声に驚きながらリビングの扉を開けると、両親が楽しそうに話をしている。
兄は料理が乗った皿を運んでいた。
リビングに入ってきた自分に気付いた母が、優しく声をかけてきた。
女子生徒
(夢でも見ているの?)
男子生徒
そう思った。
戸惑いを隠せないままに、夕食の準備が出来上がった。
促されて席につく。
家族全員揃っての夕食なんて、何年ぶりだろうか。
みんな笑顔で楽しそうにしている。
女子生徒
(…?こんな顔だったっけ…)
男子生徒
家族の顔に、違和感を覚えた。
今までまともに顔を合わせていなかったせいか…?
女子生徒
(違う人たちみたい…)
男子生徒
それでもいい。きっとこれからは家族仲良く暮らせるだろう。
今までとは少し違う、新しい家族と。
(間)
男子生徒:タイトルコール
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------------------------------
(間)
女子生徒
「裏庭の大木って、知ってる?」
男子生徒
「大木?なにそれ」
女子生徒
「なんでも、樹齢百年を越す木で、昔、丑の
上の方に刺さったままの釘とか穴とかたくさんあるんだってさ」
男子生徒
「マジで?そんな木が学校にあるのって、おかしくない?」
(間)
女子生徒
「それがさぁ、何度か切ろうとしたらしいんだけど、傷一つ付かなかったとか、切ろうとした人が大怪我したりとかで、断念したんだって」
男子生徒
「ふぅん。で?なんでそんな事知ってるの?」
女子生徒
「うちのじーちゃんも昔、この学校に通ってたみたいで、昨日話してくれたの。登校したら、その木に藁人形刺さってた事もあったんだって!」
男子生徒
「へぇ。丑の
女子生徒
「えっと、深夜二時におこなう、釘を打ってる所を見られちゃダメ、七日間やる!…だったっけ?」
男子生徒
「そうそう…あとなんか、女の人がやるイメージある」
女子生徒
「分かる!白い服着て、頭にロウソク立てて、長い髪振り乱してやってるイメージあるわぁ〜」
男子生徒
「あれって日本だけなのかな」
女子生徒
「…確かに、外国で似たような話聞かないかも。でも人形を使う儀式とかはあるよね、きっと」
男子生徒
「リスクあるほうが、呪い効いたりするのかな」
女子生徒
「あれじゃない?呪いたい人の名前を書いた紙と一緒に打ちつけるから、噂になって、本人に伝わって神経やられるって事なんじゃない?
まぁ、だとしたら神経図太そうな人には効かなそうだよね」
男子生徒
「で?いきなりこんな話してどうしたの?」
女子生徒
「見にいこうよ!裏庭の木!」
男子生徒
「はぁ?」
女子生徒
「だって実際に見たいじゃん!ついてきてよ!」
男子生徒
「はぁ…分かったよ。ほんと、物好きだねぇ」
女子生徒
「だってそんな木、滅多に見られないよ?」
男子生徒
「まぁ、そりゃそうだ」
女子生徒
昼休み。
賑わう人混みから逃げるように、二人は裏庭へと向かった。
校舎から離れ、日陰になっている裏庭は、静かでヒンヤリとしていた。
男子生徒
「どの木か分からなくない?」
女子生徒
「本数は少ないし分かるでしょ。じーちゃんの話だと、通りに面してるって言ってたな…
当時はその木しか立って無かったみたいだから、他は新しく植えたんだろうね」
男子生徒
「なるほどねぇ」
女子生徒
「あっ、あれ!」
男子生徒
「んー?あったぁ?」
女子生徒
「あれ、釘じゃない?」
男子生徒
「どれー?」
女子生徒
「あれあれ、あの高い所!枝がこうなってて…の、ここの所!」
男子生徒
「………あー…なんか出てるね…釘、なのかな…スマホ、スマホ…」
女子生徒
そう言いながらスマホを取り出し写真を撮ると、拡大した画面を二人で覗き込む。
男子生徒
「んー…影になっててよく分からないけど、枝にしては不自然だし…
てか、こんな道から見えるところにあるの?通学路なんですけど」
女子生徒
「でも他にそれっぽいのはないし、この木だと思うんだよなぁ〜…」
男子生徒
「てか、そろそろ戻らないとじゃない?」
女子生徒
「あ、ほんとだ…」
男子生徒
「で?感想は?」
女子生徒
「んー、ちゃんと釘を見ないと実感ないかも。次は登る?」
男子生徒
「この年になって木に登るとか…」
女子生徒
「ジャージならアリじゃない?」
男子生徒
「ナシ寄りのナシ」
女子生徒
「全然ナシじゃん!」
男子生徒
「ははっ」
女子生徒
そのあと、午後の授業も終わり、帰路に着く。
丑の
男子生徒
「確かに古い木ではあるんだろうけど…」
女子生徒
例の木に差し掛かった時、ふいに見上げる。
そこに、藁人形が打ち付けられているのが見えた。
男子生徒
「…は?え?」
女子生徒
昼に見た時には、確かに無かった。
明らかに人の手が届く高さではない場所に、打ちつけられた藁人形。
そしてその人形と共に打ち付けられた紙が、ヒラヒラと揺れている。
男子生徒
「あの紙…なにか…書いてある…?」
女子生徒
震える手でスマホを取り出そうとしたその時、ふと、動きが止まる。
男子生徒
「あの紙って見ていいのか?
っていうか、写真とか撮ってもいいものなのかな?」
女子生徒
鼓動が早くなり、心臓の音が耳元で聞こえる。
辺りの空気が重く感じ、息が吸いづらく、喉からヒュッ、という音がした。
それでも、無視して通り過ぎる事は出来なかった。
あの紙になんて書かれているのか、確かめたい。
それ以外の事は考えられなかった。
男子生徒
「写真を撮るだけなら…きっと大丈夫…」
女子生徒
そう言い聞かせると、木にスマホを向けた。
カメラモードにして、精一杯ズームする。
撮った写真をさらに拡大してみるが、やはり文字が見られる状態ではなかった。
男子生徒
「…なら加工して見やすく…」
女子生徒
アプリを駆使して、なんとか文字を読める状態にしようと四苦八苦する。
だが、なかなか上手くいかなかった。
男子生徒
「そりゃそうか…」
女子生徒
日が暮れ始めた頃、もう一度木を見上げた。
そこに、藁人形はなかった。
男子生徒
「えっ?!うそ…だって写真、撮ったじゃん…!」
女子生徒
写真を確認しようと、カメラロールを開く。
そこには、一つの動画があった。
男子生徒
「動画…?なんで…?動画なんて撮ってない…」
女子生徒
震える手で動画を再生する。
藁人形に向かって、さっき写真を撮った時よりも、さらに鮮明に、さらに近くまでズームしていく。
藁人形が画面いっぱいに映し出された所で、動画は止まった。
そしてそこには、自分の名前が書かれていた。
男子生徒
「なんで…なにこれ…なんだよこれ!!!」
女子生徒
藁人形はない。
でも、確かにソコにあった。
昼にはなかったのに。
木に打ち付けられていた。
見間違いじゃない。
ちゃんと確認した。
頭が混乱する…
男子生徒
「あはっ、あは、あははっ、あは、あはははは、あははははははははは…!!!」
(間)
女子生徒
次の日。新聞に『高校生、またも自殺か?』という記事が小さく載った。
『周りが見えていないようだった』『笑いながら車道へ走っていった』という、目撃者の証言と共に。
(間)
女子生徒:タイトルコール
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(間)
男子生徒
「旧校舎の階段の踊り場にさ、大きな鏡があるじゃん?創立記念ナンタラとか書いてあるやつ」
女子生徒
「あるねぇ。なんか旧校舎の階段って薄暗くて、通りたくないんだよね」
男子生徒
「あはは、分かる!でさ、あの鏡、真夜中に見ると異世界に行けるって最近噂なんだよ」
女子生徒
「マジ?初めて聞いたわ…異世界ってどんな所なんだろ…」
(間)
男子生徒
「どんな所かぁ…どんな所なら、行ってみたい?」
女子生徒
「受験のない世界」
男子生徒
「超現実的!もっと夢のある希望はないの?」
女子生徒
「夢のある…?うーん…地球に優しい資源が活用されていて、温暖化とか異常気象がないような世界?」
男子生徒
「お前に聞いたのが間違いだったわ」
女子生徒
「じゃあどんな世界ならいいのよ」
男子生徒
「そうだなぁ…うーーーん………
だめだ!考えつかない!!」
女子生徒
「お前に聞いたのが間違いだった」
男子生徒
「じゃあさ!実際にやろうよ!」
女子生徒
「何を?」
男子生徒
「真夜中に、鏡の前に立つの!」
女子生徒
「セキュリティ」
男子生徒
「大丈夫!新校舎しか機械警備付けてないって聞いた!」
女子生徒
「マジか…まぁ、旧校舎なら入った所で盗られて困るものもないか…」
男子生徒
「そーそー!だからさ!どっかの窓の鍵開けといて、今日の夜探検しよー!」
女子生徒
「だるー」
男子生徒
「まぁまぁ、そう言わないでよお!」
女子生徒
「まぁ、別にいいよ。ホラー好きだし」
男子生徒
「じゃあ夜の一時に、裏門集合で!」
女子生徒
「おっけー」
(間)
男子生徒
「あっ、きたきた!」
女子生徒
「ごめん、遅れた?」
男子生徒
「いや、ちょうどよ」
女子生徒
「で?どこの鍵開けといたの?」
男子生徒
「技工室の端っこ」
女子生徒
「あー、あそこならバレなさそう」
男子生徒
「でしょ?」
女子生徒
「あんまり使われてないしね」
男子生徒
「そうそう!カーテンめくったらホコリやばかったもん」
女子生徒
「うわ…それは嫌だな…マスク持ってくればよかった」
男子生徒
「繊細かよ」
女子生徒
「ホコリ吸いたくないし服汚したくない」
(窓をそっと開ける)
男子生徒
「よっと…おし、行ける」
女子生徒
「暗いなー…夜の学校ってやっぱ雰囲気あるね」
男子生徒
「明るい時間にしか来ることないからねぇ」
女子生徒
「てか、異世界に行く方法って鏡見るだけなの?
なんかやらなきゃ行けない手順とかあるじゃん、普通」
男子生徒
「え、そうなん?」
女子生徒
「まぁ、何種類か『異世界に行く方法』あるけど、
何かしらの手順が必要なのが一般的」
男子生徒
「詳しいじゃん」
女子生徒
「ホラー好きって言ったじゃん」
男子生徒
「うーん…真夜中に大鏡を見る、としか聞いてないんだよね」
女子生徒
「そっか」
男子生徒
「とりあえず行ってみよ」
女子生徒
「おっけー」
男子生徒
「静かだから階段の
女子生徒
「今にも床、抜けそうな音するね」
男子生徒
「ホラーとは別の恐怖体験だわ」
女子生徒
「で…着いたけど…」
男子生徒
「とりあえず並んでみる?」
女子生徒
「…なにも起きないね」
男子生徒
「…あー…じゃあ鏡に触ってみる?」
女子生徒
「両手?」
男子生徒
「両手」
(間)
女子生徒
「…なにも起きないかぁ…」
男子生徒
「なにも起きな………えっ?」
女子生徒
「わっ」
男子生徒
「今…手が鏡の中に入った感じがした」
女子生徒
「…うん…えっ、入ったよね?」
男子生徒
「…入った…」
女子生徒
「…力…入れてみる?」
男子生徒
「じゃあ…タイミング合わせよ
いち、に、の、さんっ!」
女子生徒
「わっ!」
男子生徒
「えっ!」
女子生徒
「…なになになに!」
男子生徒
「鏡の中に入ったんだけど?!」
女子生徒
「なんで普通に立ってんの?!」
男子生徒
「…えっ、もしかして…鏡の中に入っちゃたのかな…」
女子生徒
「…わかんない…ちょっともう一回力入れてさ」
男子生徒
「うん…
いち、に、の、さんっ!」
女子生徒
「………何も起きない」
男子生徒
「でもさっきさ、絶対鏡の中に入ったよね?」
女子生徒
「…入った、ね」
男子生徒
「…どうする?」
女子生徒
「どうするって、なに?」
男子生徒
「この後」
女子生徒
「あー………帰ろっか」
男子生徒
「……そう、だね…」
女子生徒
技工室の窓から校舎の外に出る。
裏門まで着くと、学校の外の街並みがいつものものと異なっていた。
男子生徒
「うそ…どこ、ここ…」
女子生徒
校舎に入る前は、雲一つなく月が見えていた空が、今は曇って月が隠れていた。
薄暗い知らない街。
男子生徒
「表門から出てみよう!」
女子生徒
そう言うと、二人、表門へと向かって歩き出した。
表門に着くと、学校名が書かれている石柱を見る。
男子生徒
「これ…なんか真新しくなってない?」
女子生徒
「…もっと汚かったよね?」
男子生徒
「っ!校舎!新校舎が、ない!」
女子生徒
校舎に目をやると、新校舎はなく、旧校舎だけが建っていた。
ボロボロだった旧校舎の壁は、きれいになっているように見えた。
二人は訳がわからないまま、技工室へと向かった。
男子生徒
「何がどうなってるんだよ…」
女子生徒
「建てられたばっかみたいにキレイなんだけど…」
男子生徒
「…開かない…」
女子生徒
「えっ?」
男子生徒
「窓の鍵、開かない…」
女子生徒
「…嘘でしょ…」
男子生徒
「どうしよう…」
女子生徒
二人とも、きっと同じ事を考えている。
それを口にするのが、怖かった。
だがその時、確認するように口を開く。
男子生徒
「もしかして…
もしかしてさ…
これ…
過去に来ちゃったのかな…?」
(間)
男子生徒:タイトルコール
------------------------------
------------------------------
(間)
男子生徒
「うちの学校の七不思議って知ってる?」
女性生徒
「何個か聞いた気がするけど…あんまり覚えてないかも…」
男子生徒
「実はさ…七つ、全部聞いちゃったんだよね…」
女性生徒
「え…全部聞くと…何かあるの?」
(間)
女性生徒
『学校の七不思議』。
全国で噂される、学校にまつわる怪談。
この学校にも例に漏れず、そんな話が一部の生徒の間でまことしやかに囁かれている。
そして、七つ全ての話を聞くと、『不幸が訪れる』という…。
(間)
男子生徒
「七つ全部聞くと…不幸になるんだって!」
女性生徒
「はぁ?じゃあなんで七つ聞いたの?」
男子生徒
「だって怖い話好きなんだもーん!
ねぇねぇ、何の話聞いたの?他の話教えてあげようか?!」
女性生徒
「やだよ!不幸になるんでしょ?」
男子生徒
「そんなの、よくある作り話じゃーん!本当に不幸になんてならないって!」
女性生徒
「とにかく!そんな話に興味はないから!それ以上続けるなら置いてくからね!」
男子生徒
「えー!!みんな聞いてくんないんだよー!!ちぇー」
女性生徒
「そんな物好きお前くらいだよ」
男子生徒
「つまらーん!!」
女性生徒
体育の授業。グラウンドの端で適当に時間を潰していると、フェンス越しに子供がうずくまっているのが見えた。
男子生徒
「どうしたの?」
女性生徒
反応がない。子供は泣いているようだった。
男子生徒
「迷子?それともケガしちゃったのかな?」
女性生徒
チラリとこちらを見る子供。
男子生徒
「どうして泣いてるの?お話しない?」
女性生徒
『…見えるの?』
男子生徒
「えっ?」
女性生徒
『ボクのこと、見えるの?』
そう言って立ち上がった子供はこちらを向くと、さっきまで見えなかった片足は外側に折れ曲がり、顔の半分が潰れていた。
男子生徒
「…えっ」
女性生徒
『ボクが見えるの?…ねぇ、痛いよ…助けて…痛い…ずっと痛いの…』
男子生徒
「…えっ…あの、…」
女性生徒
突然、子供はフェンスに勢いよくしがみついた。
『助けて…助けて…痛いよ…!助けてよ!!』
ガシャンガシャンと音を立ててフェンスが揺れる。
思わず後ろにのけぞり、そのまま走って逃げた。
男子生徒
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ…!」
女性生徒
「……ん?どした?そんなに焦った顔して」
男子生徒
「今っ!子供が!顔グチャグチャの子供がいて!!」
女性生徒
「はぁ?」
男子生徒
「フェンスのとこ!」
女性生徒
「フェンス?……誰もいないじゃん」
男子生徒
「いたの!!足も変な方向に曲がっててさぁ!」
女性生徒
「はいはい、もーいいからそういうの」
男子生徒
「本当にいたんだってば!!」
女性生徒
「…そういう話、やめてってさっき言ったよね?!」
男子生徒
「…っ…………ごめん…」
女性生徒
振り向いてフェンスの方を見ると、もうそこには誰もいなかった。
チャイムが鳴り、みんな教室へと戻った。
着替えて次の授業の準備をする。
しばらくして再びチャイムが鳴ると、先生が教室に入ってきた。
男子生徒
「…さっきの、なんだったんだろう…」
「…もしかして、八つ目の七不思議?!隠された八つ目の話って言うもんね…うん、そうかも…!」
「誰かに確認したい…!!とりあえず、図書館でこの辺りの事故の記録とか探す?」
女性生徒
時間が経ったせいか、先程の恐怖はすっかり忘れていた。
男子生徒
「この学校に長くいる先生に聞くとかアリかな?」
女性生徒
そんな事を考えて一日が経った。
放課後、職員室へと向かう途中、屋上に人影が見えた。
男子生徒
「…?あんな所で何してるんだろ?危なくないのかな…」
女性生徒
そう思った次の瞬間、その人影はユラッと揺れ、そのまま飛び降りた。
男子生徒
「…っ!!!」
女性生徒
驚いて足が動かない。
男子生徒
「えっ、落ちた…誰か他に見た人は?誰もいないの?…確認…した方がいいのかな…確認して…先生呼んで…」
女性生徒
鳴り止まない心臓を押さえて、一歩一歩、足を踏み出す。
人影が落ちたであろう場所へと、ゆっくり歩き出した。
男子生徒
「……誰もいない…」
女性生徒
落ちたとすれば、確かにこの辺りだった。
だが見渡す限り、人が倒れている事はなかった。
誰かが地面に落ちたような痕跡もない。
ふと、上を見上げると、屋上に人影が見えた。
男子生徒
「えっ?」
女性生徒
人影はユラッと揺れると、そのままこちらに向かって落ちてきた。
男子生徒
「…っ!!!」
女性生徒
落ちてくる人と目が合う。その人は、笑っていた。
ぶつかる!と思った瞬間、ギュッと目を閉じた。
男子生徒
「………あ、あれ?」
女性生徒
目を開けると、そこには誰もいなかった。
男子生徒
「…なんなんだよ…」
女性生徒
そう呟くと、足早にその場から離れた。
早く帰ろう。そう思うと、教室に向かい荷物を持って昇降口へ向かう。
男子生徒
「今までこんなこと無かったのに…」
女性生徒
靴を履き替え、門を見ると、数人の人影が見えた。
その中に、体育の授業中に見た子供もいた。
男子生徒
「ウソ…だろ…」
女性生徒
『あの人だよ!』
そう子供が言うと、そこに集まった人たちが口々に喋り始める。
『見えるの?』『助けて』『一緒に連れてって』『痛い』『見えてるんだろ?』『お前も来いよ』
そんな言葉が投げかけられる。
男子生徒
「いやだ…嫌だ嫌だ嫌だ!!!」
女性生徒
走って別の門へと向かう。
しかし、そこにも先程の人たちが待っていた。
『見えてる』『見えるんだ』『連れてけ』『お前も道連れにしてやる』『どこに逃げてもムダだ』
男子生徒
「やめろ…やめてくれ…」
(間)
女性生徒
その後、一人の生徒が入院した。
男子生徒
「…幽霊なんて、どこにでもいるんだよ…昼も夜も関係なく…外傷がなければ、生きてるのか死んでるのか見分けもつかない…
………幽霊が見えるのか、って?
………………霊なんていないよ…いない…見えない…見えてない………見えてないって言ってるだろ!!!」
新七不思議奇譚【1:1:0】60分程度 嵩祢茅英(かさねちえ) @chielilly
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