5. キューピットさん

「まあ、オチのない話だから、あんまりおもしろくないだろうけど」

 明日香が笑いながらチューハイをあおる。朝日が「明日香はやらなかったの?」と首を傾げる。

「旧校舎の中を探索して床踏み抜いたくらいかな」

「十分やんちゃじゃねえか」

 篠山の忍び笑いが聞こえる。のんびりしている明日香がそんなことをしているなんて想像もつかない。光も「意外ね……」と頬に手を当てていた。

「わ、私の話はいいでしょ。次は?」

 あまり触れられたくないのか、明日香が話を促す。あんまりからかわれるのもかわいそうだから、と「私、いい?」と手を挙げた。

「どーぞ」

 スピーカー越しに御薗の声が聞こえて、私は話し出した。



 これは怖いというか、若干迷惑な話なんだけど、不思議なお話だからここで話すね。


 高校のとき、学内で付き合ってるカップルってどのくらいいた? うちは学年二百人で二十組くらい。先輩後輩と付き合ってる子を含めると、なんだかんだ半分くらいは学内恋愛してたの。

 高校生の世界なんて狭いからどうしても視野が狭まるのは当然だけど、それにしたって多いじゃない。しかも子どもにしてはなかなか長続きするし、そのまま大学でも付き合って、結婚する人も多いみたいで。


 じゃあなんでそんなことに、っていう理由が、この話。

 うちの学校にはキューピットさんがいる、っていうウワサ。


 他の学校ではキューピットさんっていうと、こっくりさんの派生らしいんだけど。うちではその名の通り恋のキューピットなんだよね。

 例えば、具合が悪くなったときに通りかかって助けてくれた人。例えば、体育の社交ダンスでペアになった人。そんな感じで偶然の出会いをサポートしてくれる、っていう……怪談?

 そんなの別に怪談でもないだろって思うでしょ? けど、その出会いの前に必ずキューピットさんが現れるの。だから、次の出会いが運命なんだなって分かるんだよ。


 現れ方は人それぞれだけど……。私のときは、白い猫の姿をしてたよ。見たことのない猫で、他の人には見向きもしないのに、私に近づいてきてみゃあみゃあ鳴いてたの。他は人だったり、靄みたいなものだったり、いろいろだけど。形はないんだろうね。


 ああ、迷惑って言った理由? いや、だってさあ。キューピットさんの運命って、逃げられないんだよ。もちろん後から別れることはできるけど、絶対に付き合うことになるの。

 私、キューピットさんと会う前、別の人と付き合ってたんだよね。まあ関係も悪くないし、このまま付き合ってもいいかなって思ってた。

 けど、キューピットさんに会って、キューピットさんに引き合わされた人と知り合ったあたりで、その彼氏に浮気されちゃって。まあ別れるけどさ、こういう風にしてまで番わせるって、迷惑でしょ。


 人じゃないものって身勝手なところ、あるよねえ。

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週末百物語 @sayoko_k05

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