4. 鬼ごっこ
百物語二夜目は私の家での開催だった。キャパシティ的に不十分だから、半数近くは自宅からのリモート参加だ。
「揃ったー?」
朝日の問いかけにぼちぼち返答があった。揃ってるらしい。「今鍋運ぶからちょっと待って」と声をかける。「夏に鍋?」「暑そう」「何したいんだ?」と散々な意見が聞こえてくるが、材料を持ち込んだ張本人は涼しい顔をしている。
「暑い夏にこそ鍋で冷やが乙なものなのだよ」
「鬼殺しに乙も何もないでしょ」
ノートをスイートランドのごとく机から押し出しながら、鍋敷きと鍋を設置する。
「本気飲みか?」
「後はもう臨床と発達と言語特講だけだからね、余裕よ」
「発達は再履だよね?」
「それは言わないで」
テストを受けそびれただけ、今年こそ取るし受けさえすれば取れる、と言い訳をする朝日を光ちゃんがなだめて、「今日は誰からにする?」と進行を始めた。
「はいはーい、私やりたい!」
元気よく手が挙がる。画面越しからもこちらからも特に異論はなかったため、明日香がトップバッターを務めることになった。
*
これは私の通ってた小学校の七不思議のひとつ、別館の鬼ごっこの話。
まず別館って何? って感じだろうから説明するけど、敷地が離れた旧校舎って感じだね。
校舎内は古いからって基本立ち入り禁止だけど、グラウンドは普通に整備されていて、本校舎の方が使えない時に部活とかで使ってたんだ。
え? 危なくないかって? うーん、ド田舎で何もないから、特に問題提起されたことはなかったな。今はどうか分からないけど。
そう、それで、別館の鬼ごっこ。別館の敷地内で鬼ごっこをすると本物の鬼が混ざるから、やっちゃいけないっていうお話なんだけど。
なーんもない別館ですることなんて鬼ごっこくらいだし、先生の目がない時に遊ばんようにって話だったんだろうなーって今となっては思うけどね、当時はそこそこ怖かったのよ。
だってさあ、鬼よ? 地元の祭りで鬼を……なんだっけ、鎮めるか何かするやつがあるんだけどさ、その時の鬼の仮装に子供はみんな泣かされて育ったわけ。苦手意識って抜けないよね。
ああ、祭りの鬼はちゃんと偽物。
……偽物って言ったら悪いか。適当に青年会の人たちとかが持ち回りで中に入ってる。四年前はうちの父さんだったよ。青年って歳じゃないけど、人手不足でねえ。まあ冬だし熱中症の心配もないからいいけど。
いや、こういう話難しいね。あちこち行っちゃう。
えーっと、本題に入るね。やらかしたのは弟。確か小二か小三だったかな。真っ青な顔して部屋に飛び込んで来たの。
何なんって聞いたら、別館で隠れ鬼したって言うから、決まり破って怖くなったんか、小心者やなあって思ったんだけど。ひとり多かったって訴えるものだから、私まで怖くなっちゃって。
そのあと詳しく聞いたら、学年全員――十一人のうち二人が鬼、残りが隠れる形で始めて、九人見つかってさあ解散ってなった時、いやナントカくんおらんよね、ってことに気づいたんだって。
もう一回数えたら八人しかいない。さっきは確かに九人いたのに。
怖くなってナントカくんの名前を呼びながら探したら、なんで見つけてくれんかったん、って文句言われたって。
隠れてた場所は、普段なら真っ先に見つけられるようなところ。だから余計に不気味で、逃げるように帰ってきたんだと。
ん? そのあと?
特に何もないよー。元気に大学生してる。
あー、けど祭りで鬼の仮装だけはしたくないって言ってた。同級生もみんな言ってるみたいだから、よっぽどトラウマになってたんだろうね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます