4. 鬼ごっこ

 百物語二夜目は私の家での開催だった。キャパシティ的に不十分だから、半数近くは自宅からのリモート参加だ。

「揃ったー?」

 朝日の問いかけにぼちぼち返答があった。揃ってるらしい。「今鍋運ぶからちょっと待って」と声をかける。「夏に鍋?」「暑そう」「何したいんだ?」と散々な意見が聞こえてくるが、材料を持ち込んだ張本人は涼しい顔をしている。

「暑い夏にこそ鍋で冷やが乙なものなのだよ」

「鬼殺しに乙も何もないでしょ」

 ノートをスイートランドのごとく机から押し出しながら、鍋敷きと鍋を設置する。

「本気飲みか?」

「後はもう臨床と発達と言語特講だけだからね、余裕よ」

「発達は再履だよね?」

「それは言わないで」

 テストを受けそびれただけ、今年こそ取るし受けさえすれば取れる、と言い訳をする朝日を光ちゃんがなだめて、「今日は誰からにする?」と進行を始めた。

「はいはーい、私やりたい!」

 元気よく手が挙がる。画面越しからもこちらからも特に異論はなかったため、明日香がトップバッターを務めることになった。



 これは私の通ってた小学校の七不思議のひとつ、別館の鬼ごっこの話。


 まず別館って何? って感じだろうから説明するけど、敷地が離れた旧校舎って感じだね。

 校舎内は古いからって基本立ち入り禁止だけど、グラウンドは普通に整備されていて、本校舎の方が使えない時に部活とかで使ってたんだ。

 え? 危なくないかって? うーん、ド田舎で何もないから、特に問題提起されたことはなかったな。今はどうか分からないけど。


 そう、それで、別館の鬼ごっこ。別館の敷地内で鬼ごっこをすると本物の鬼が混ざるから、やっちゃいけないっていうお話なんだけど。

 なーんもない別館ですることなんて鬼ごっこくらいだし、先生の目がない時に遊ばんようにって話だったんだろうなーって今となっては思うけどね、当時はそこそこ怖かったのよ。

 だってさあ、鬼よ? 地元の祭りで鬼を……なんだっけ、鎮めるか何かするやつがあるんだけどさ、その時の鬼の仮装に子供はみんな泣かされて育ったわけ。苦手意識って抜けないよね。


 ああ、祭りの鬼はちゃんと偽物。

 ……偽物って言ったら悪いか。適当に青年会の人たちとかが持ち回りで中に入ってる。四年前はうちの父さんだったよ。青年って歳じゃないけど、人手不足でねえ。まあ冬だし熱中症の心配もないからいいけど。


 いや、こういう話難しいね。あちこち行っちゃう。

 えーっと、本題に入るね。やらかしたのは弟。確か小二か小三だったかな。真っ青な顔して部屋に飛び込んで来たの。

 何なんって聞いたら、別館で隠れ鬼したって言うから、決まり破って怖くなったんか、小心者やなあって思ったんだけど。ひとり多かったって訴えるものだから、私まで怖くなっちゃって。

 そのあと詳しく聞いたら、学年全員――十一人のうち二人が鬼、残りが隠れる形で始めて、九人見つかってさあ解散ってなった時、いやナントカくんおらんよね、ってことに気づいたんだって。

 もう一回数えたら八人しかいない。さっきは確かに九人いたのに。

 怖くなってナントカくんの名前を呼びながら探したら、なんで見つけてくれんかったん、って文句言われたって。

 隠れてた場所は、普段なら真っ先に見つけられるようなところ。だから余計に不気味で、逃げるように帰ってきたんだと。


 ん? そのあと?

 特に何もないよー。元気に大学生してる。

 あー、けど祭りで鬼の仮装だけはしたくないって言ってた。同級生もみんな言ってるみたいだから、よっぽどトラウマになってたんだろうね。

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