第5話 寝取りは

「アスペン、武器屋なら一緒に行きません?わたくしも魔力を高める新たな武具に興味があります」

「ん?ああ、行こうか。タイムとジニアも一緒に……」

「わたくし……アスペンと二人きりが良いのです、お話がありますから」

「何!?わかった、二人きりで行こう」


 いや〜不味いッスよ〜。白銀純白ローブの自称他称聖女様が、無重力黒髪鎖かたびら勇者と腕を組む。こんな堂々たる浮気現場は初めてッスね。

 どうも皆さんはじめまして。俺様、ジニアと申します。トレジャーハンターを生業としてるんだけどね、あだ名はコソ泥。お尋ね者からしか奪った記憶は無いんだけど、不名誉極まりねえッス。

 かーわいい奥さんを故郷に残して、一攫千金狙って出稼ぎに来てました。でも今は勇者パーティの一員、いやー人生どうなるか分からんね。


 元々はね、勇者とか呼ばれてるアスペンの幼馴染。俺様ってば自由人なんで、別行動気味に魔王討伐の旅を手助けしてたんスよ。その代わり財宝を分けてもらってました。

 ところが俺様たちの幼馴染、リナリアことリナっちがこの度なんと、勇者パーティを離脱しました。残念、離脱前に挨拶しそびれた。その代打で、パーティとそこそこ交流のある俺様が選ばれたわけ。

 ……なんだけど。

 俺様の肩に乗るブルードラゴンことゴンちゃんを横目に見る。伝説の竜とか悪しき者が災いを降らせる時現る導き手とか、よくあるよね。そんなゴンちゃん越しに、リナっちは俺様たち勇者一行を見守れるんだけどさ。

 勇者アスペンの彼女はリナリアだろ。

 そんな所は見せちゃダメじゃない?


「いやアレ絶ッッッ対好きッスよね、ゴンちゃん?」

「ンギモヂイ」

「……相変わらず鳴き声が独特なことで」

「ンギモヂイイイイイイイ」

「それ。そんな関係を絶対狙ってるッスよ、あの女」


 心なしか、白い頬を紅潮させて目を輝かせている聖女様。二人きりになれることを、心の底から喜んでいる。勇者に彼女がいること、知ってるッスよね?何が聖女様だよ、寝取りは見ていて気持ちの良いもんじゃない。

 彼女へのすけべ心はフルオープンだが、心はまるで純粋無垢な勇者アスペンは、状況がさっぱり分かってない。あの顔を見るに、仲間を信じ切っている。話って何かな〜としか思ってない。

 騙し騙されの世界に生きていた俺様には分かっちまう。


 俺は城下町の雑踏へ消えようとする聖女様の腕を掴んだ。細いわりにがっしりとした掴みごたえ。流石に旅をしていただけのことはある。

 驚いた顔で振り返る聖女様に、俺様は金髪碧眼イケメンスマイルを向けてやる。


「いやいやいや、聖女様。それはないわ、俺様も混ぜてよ」


 空色の目を丸くして、俺様を凝視する聖女様と目が合う。

 そんなに俺様を見てどうしたの、男好きか?泥棒猫ちゃん。


「……いえ、それは……わたくしは……アスペンと……」

「聖女様〜、俺様アンタのことずーっと見ていたいんスよねぇ」

「ジニアはそんなに一緒に行きたいのか。すまないカルミア、話はまた後日でも間に合うか?」

「……ええ、構いません」


 オドオドする聖女様をじーっと見つめると、困ったような顔で目を逸らしていた。邪魔されたと思ったか、それとも俺様に見惚れたか。

 アスペンは状況が分かってないので、デフォルト真面目クンな返答を一つ。

 鈍ちん勇者が狡猾聖女様と二人きりになるのは、何とか阻止した。

 何度か似たような状況には、既に遭遇していたりする。

 おとなしい顔した泥棒猫は、悲しそうに俯いて奥歯を噛み締めている。でも、俺様の服の裾は掴んでいる。八つ当たりッスか?力がめっちゃ強い。袖が破けちゃう。やれやれ、それとも逆ハーレム状態を楽しむ方へシフトチェンジか。


 リナっち、俺様に任せろ。大切な幼なじみカップルの平穏は、俺様が守るよ。

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パーティ追放が真っ当な理由過ぎたので穏やかに心を療養しつつ勇者へエールを送ります 海水魚 @sui23kn

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