第2話 装備を取られ略

「じゃあ、魔法で同気しておきます。いつでも覗いてください」

「何回も言うけど、私はそんなに疑り深くも嫉妬深くないよ……?」

「でも人一倍心配性でしょう」


 カルミアの肩に乗る、使い魔の水色の鱗のミニドラゴンのゴンちゃんが、目を光らせる。私が誕生日に貰った水晶と、ゴンちゃんの視界が共有された。水晶を覗けばゴンちゃんを通して皆の様子が見られるらしい。


「男は狼です。アスペンも言っておりましたよ」

「なんて?」

「セクシーなお姉さんのおっぱいにはつい目が行ってしまうぞ!」


 カルミアが真似るアスペンは非常によく似ていた。私も彼自身から似たような事を言われたことがある。その時は思わず背中を叩いてしまった。でも筋骨隆々の彼の身体では、私の手の方が傷んだ。


「万が一の間違いが起きない為の、わたくし達の御守りでもあるんですよ。どうか旅を見守っていて下さい、リナリア」


 優しく微笑む聖女は、まさしく聖女然とした出立ちで白いローブを揺らす。隣で、気絶した私の恋人ことアスペンを背負いながら、獣人族のタイムもワイルドに親指を立てた。


「おいリナ、本当に金足りるか?」

「治療費と入院費でお釣りが来るし、先生は勇者御一行からお金は受け取れないって言ってたよ。私の生活が安定するまで、ちょっとボロいけど部屋も貸してくれるって」

「んー……じゃあいいか。ウチら基本は野宿だったしな。ごめんな、次の街に守銭奴だけど腕はいい鍛冶屋がいるからさ……有り金全部はやっぱ無理だわ」

「その噂は私も聞いてたし。魔王退治してるんだから寧ろもう少し持って行きなよ……」

「道中金は少しずつ手に入るからいい、……半分しか渡せず悪ィな」


 タイムが心の底から申し訳なさそうな声を出した。表情は相変わらず分かりにくいけど、旅の中で彼女の本質は理解していたつもりだ。大柄な背丈以上の斧を振り回す、ぶっきらぼうなリアリスト、でも仲間には誰よりも優しい。弱者は助けるという信念は何処までも揺るがない、アスペンに次ぐヒーロー気質。毛皮を纏う長い手足さえカッコいい。

 カルミアが私が憧れる優しき女性なら、タイムは私が憧れる強き女性なのだ。

 そんなただの商人の私は、装備を取られるどころか、パーティの所持金の約半分を渡された。ついでに、聖女と戦士から手作りの栞や可愛らしいリボンの髪飾りを贈られた

 ……追放後のアフターケアまで完璧過ぎる。本当にこれは追放でいいんだよね……?私は抜けたくなかった勇者パーティを、強制的に抜けさせられたから……一応、追放なんだよね……?


「じゃあ、先生に言われたこと守って治療に専念するよ……三人も頑張ってね……」

「貴方の後釜に入るのも、貴方の幼馴染の男性ですからー!安心してくださいねー!絶対魔王を倒してみせますからー!」

「バカリナリアがよぉ……テメェの笑顔、絶対取り戻してやっからなぁ……!」


 遠ざかる距離の分届くようにと、必死に、悲しげに、でも何処か勇敢に、カルミアが叫ぶ。タイムはもう背を向けていたが、天を仰いでいた。あれは彼女が涙を堪えるときによくやるポーズだ。

 追放感ゼロの見送りを終えて、私は一人寂しくその場に立ち尽くした。


「にしても……何もない街だなぁ、魔王城が近いって言うのに」

 

 振り返ると、殆ど寂れた田舎町だ。出来る限り目立たないように、静かな集落を心がけているみたい。

 ……何だか寂しい村だった。


「……病室、戻らなきゃ」


 私は治療に専念する。魔王は力を拡大し、人間を悪に誘い魔人化させてモンスターの数を増やしている。

 時間は無い。私もせめて、心を穏やかに……療養に努めなければならない。

 私はこれからのことを考えながら、大人しく病室へ戻った。

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