梅雨明け
梅雨が明けた。むしむしした感じはまだ残っているくせに、凶悪にお日様の日差しは進化して、凄く暑い。
「おーかーえーりー……」
「……春ちゃん、クーラーつけなよ」
暑すぎて、先日だした扇風機を抱えていても暑い。学校から帰って顔を洗って足もついでに洗って多少さっぱりしても、やっぱり暑くて、ソファじゃなくてフローリングに転がったまま理沙ちゃんを迎えると、呆れたようにエアコンをつけられた。
「ちょ、ちょっと待って! まだ窓閉めてないよ!?」
「いや、つけてから閉めても大丈夫でしょ」
慌てて立ち上がって全開にしていたベランダドアや、寝室に続くドア、台所横のドアを閉める。
理沙ちゃんはそれを無視していったん荷物を置いて着替えてから戻ってきた。
「あー、すずしー。でもほんと、すぐ閉めるからちょっと待ってほしかった。もったいなくない?」
さっそくクーラーの前で文明の力を味わいながらちょっとだけ文句を言うと、理沙ちゃんはソファに座りながら珍しく呆れ顔を向けてくる。
「変わらないと思うけど……と言うか、クーラー、私が帰るまで待ってたの? いいよ、暑いならつけなよ」
「いやー……何だか勿体なくて」
「それで春ちゃんが体悪くしたら、その方が駄目だよ。病気になってしまったら、治療費とか、もっともったいないんだよ?」
理沙ちゃんは涼しい顔でソファの上で足を組んでそう言う。珍しく大人らしい注意をされてしまった。
汗が引いてきたので、頭をかいて私もソファに移動する。
「う。まあ、わかるんだけどさぁ。つい」
「暑いし、無理しないで。お金は気にしないでいいから」
「……」
「どうしても気になるなら、もうずっとつけるよ? 24時間稼働しておくよ?」
「そ、それは駄目! わ、わかったよ。つけるよ……ちょっと、汗かいてるから着替えてくるね」
ソファに座ったはいいものの、シャツがくっついてくるのが気になって背もたれにもたれにくいので、一回着替えることにした。
と言うか、24時間ってコンビニじゃないんだから。そんな一日中つけてる個人宅ないでしょ。
「はぁ、にしても暑いよね」
「うん……あ、あー……そうだね」
「え、何その反応。今何か言いかけたよね」
明らかに、あ、って言った瞬間口あけてちょっと右手あげて、何か思いついたか思い出したかで言いかけてたよね。これで何もなかったらびっくりだよ。
私の追及に理沙ちゃんは右手で眉をかきながら視線をはずした。
「……その、プールとか、夏のデート、っぽいかなぁ、なんて、思ったり」
「おお! いいじゃん! そう言えば理沙ちゃん家からだと、市民プール近いよね」
一昨年初めて友達と自転車で行ったけど、ここからなら歩いてもいけるよね。小学生は半額だから200円で利用できるし、学校のプールがない時は何回か行ってたんだよね。水着は学校教材だからサイズが変わっても買ってもらえたし。
「ん? そうなの?」
「え? 他にプールってあるの?」
だと言うのに理沙ちゃんは市民プールの場所を知らなかったみたいだ。まあ大学生になってから引っ越してきて、それまで他府県にいたんだから仕方ないけど。でもじゃあプールって何のことを思って言ったんだろ。
私の疑問に、理沙ちゃんは頭をかいてしまう。
「あー……普通に屋内プールなら一年中のところとか、あと遊園地とかそう言う施設は、夏だけプールエリアが開放、されるよ?」
「そ、それ、CMで見たことある!」
「あぁ、うん。最近やってるよね。七月頭から開放されてるから」
ようやく話が通ったと思ったのか、理沙ちゃんは手を下してほっと笑う。その表情に、私は現実に頭が追いつく。
「え、それに、行くの?」
あそこに行く!? 存在は知ってても、そこに行くって考えたことなかった。だってあそこはファミリーが行くところだって思ってたから。
ちょっと興奮して詰め寄る私に、理沙ちゃんは瞬きして驚きながら頷く。
「う、うん……あの、市民プールって、行ったことないけど。デートしてる人、いた? 大きいところだった?」
「い、いなかった……夏休み中なのに、小学生とお年寄りしかいなかった」
「じゃあその、そこでデートはちょっと、恥ずかしい、かな」
た、確かに!
「え、じゃあ、そこに行けるの?」
「あ、うん。春ちゃんがいいなら」
「行きたい! 行きたい行きたい!」
わー、考えたこともなかった! そっか、デートで行けるんだ! ウォータースライダーとかいつか大人になったらしてみたいなーって思ってたんだよね!
手をあげながら賛成すると、理沙ちゃんはちょっと引き気味にソファにもたれながら頷いた。
「ああ、うん。じゃあ、来週とか、どうかな」
「今週でもいいよ」
「あー、うん……今週はちょっと、都合が悪いかな」
「え? なんで?」
理沙ちゃん水着持ってないとか? 私のを貸すってわけにもいかないし、それなら仕方ないけど。
首をかしげると、理沙ちゃんはそっと顔をそらした。
「…………あの、生理だから」
「えっ、あー、あー……、確かに、生理用品置いてあったね。あ、でも使ってるの気付かなかった。ゴミも捨てたことなかったし」
そう言えば当たり前だけど、理沙ちゃんは大人だから生理きてるんだ。私がまだだから考えたことなかった。生理用品がトイレにストックされてるのは知ってたけど、専用の入れ物に入ってたから増えてる減ってる知らないし、私が補充したこともなかったから、全然そんなこと意識してなかった。
「あの、それはさすがに、恥ずかしいから、いつもちゃんと見えないように、マメに捨ててたよ」
「そ、そうなんだ……えっと、じゃあ来週ね。水着は? 持ってるの? 大学って水泳の授業ないよね? 高校の時のまだ入るの?」
気まずいのでさっさと早口で話題を変える。持ってないなら、週末買いに行けばいいしね。理沙ちゃんは私の質問に苦笑する。
「あの、さすがに、もう学生のは持ってないよ。一応、去年、先輩に付き合わされて買ってるから」
「そうなんだ。よかった。ねぇどんなの? 大人っぽいやつ? ビキニ?」
「……い、一応、上下には別れてるけど、でもビキニではないよ。キャミソールと短パン、みたいなやつ」
理沙ちゃんは恥ずかしそうにしながらも答えてくれた。なるほどなるほど。理沙ちゃん恥ずかしがりやだもんね。どんなのだろ。大人は色んな水着があるもんね。
「えー、そうなんだ。いいなぁ。私も大人になったらそう言うの欲しいな」
「……あの、春ちゃんは、そのー……どんな水着、なの?」
「ん? 県が違っても同じようなのじゃないの? スクール水着って」
「え? スク水で行くの?」
「え、そうだけど」
理沙ちゃんは何故か恥じらったまま質問してきたけど、理沙ちゃんも数年前まで着てたでしょ。だけどそんな当たり前の私の答えに、理沙ちゃんは何故か驚いて戸惑った感じでもじもじしだした。
「えっと……その、今週末、水着、買いに行かない? 春ちゃんの」
「え? なんで? あるよ? 去年買ったからまだ入るし。来年は厳しいかも知れないけど」
「あの……スク水だと、デートっぽくないから」
「あー……それは確かに、そうだね」
言われてみれば、この間だって公園で運動するからって体操服着るわけないもんね。デートでは私服が普通だ。なるほど。水着って夏のプールでしか着ないから、私服として持つって発想がなかった。
「じゃあ、私も理沙ちゃんみたいな、あ、もしかしてお揃いっぽいのとか、そう言う感じで買えるってこと?」
「あ、う、うん。それはうん。同じようなのがあれば」
「ほんと!? うれしー!」
私も大人みたいな水着着れるんだ! すごい楽しみ!
と言う訳で、水着を買いに行くことになった。週末まで楽しみすぎて友達にも話した結果、ここから近くだと駅前の大きい複合スーパーがそこそこ置いてるらしい。ていうか二人も買ってるらしい。高学年なのにまだスク水を学校外できるのはないわとか言われた。ぐぬぬ。ま、まだ出てないもん。
行く前に理沙ちゃんに実物を見せてもらった。上が水色のボーダーで、フード付きの上着までついてるけど、それを脱いだら背中はキャミソールなんかより見えて、肩甲骨位まで見えるし、やっぱ大人っぽいやつだった。私にはちょっと早いかも。
でもボーダー系にしておけばお揃いっぽいしいいかもね。
「理沙ちゃん理沙ちゃん。これどう?」
「う、うん。可愛いと思うよ」
「ほんと?」
目についたボーダーの上がブルーのタンクトップで、下が紺色の短パンみたいなやつを見せてみると高評価だ。裾がフリルでちょっと可愛いし、たまにはお揃いもいいかもだし、いいかな。
「うん。あー、でも、無理にお揃いにしなくても、その、花柄とか、もっと似合うのにしてもいいと思うけど。春ちゃん、可愛いし、もっと明るい感じでも」
「えー、これみたいな? ちょっと派手じゃない?」
そのすぐ隣のをとってみる。上が白地に大きな赤いハイビスカス? があるキャミソールっぽいのと、下が黒の短パンだ。
でもこれ、上がただのキャミソールじゃなくてその下にさらにブラみたいな水着があるんだよね。下のズボンの下にパンツみたいなのがあるのは気にならないけど、上にあるってことはめくれちゃうこと想定してるのでは? そうなるとほんとにビキニだし、ちょっと恥ずかしい。それに花が大きいからパッと見も派手だし。
「えっと、でも、きっと似合うよ」
「うーん。……ううん。今回は理沙ちゃんとお揃いにする。いいでしょ?」
「う、うん。春ちゃんがそうしたいなら、いいよ」
「じゃあそうする。でも色味はもうちょっと変えようかなー。もうちょっと探すね」
「うん。ゆっくり探して」
と言う訳で選んだ。色は赤。スク水が紺色の地味な色だから、青系統じゃないのがよかったんだよね。私はどの色が好きって決めてないけど、女の子系で赤から黄色、オレンジとかピンクとかなら何でも好きなんだよね。
全部じゃなくてボーダーのラインが赤で、下がデニムっぽい感じ。可愛い。
「あ、そう言えばプールはどこのプールにするかって決まってるの?」
「あー、一応、言ってた去年行ったところが近いし、まだわかってる、かな」
「そっか。じゃあ帰ったら調べてみよっと。あ、水泳キャップってなくてもいいの?」
普通に自分の手持ちでいいならいいけど、名前書いてるし、小学校丸出しなんだよね。ゴーグルはそう言うのないから大丈夫だけど。
「えっと……去年はつけてなかったし、大丈夫だと思う」
「そうなの? 市民プールでは、お婆さんとかもつけてたよ?」
「あー……わかんないけど、屋外プールだと、なくてもいいのかな?」
理沙ちゃんもよくわかってないみたいだから、帰ってから一緒に色々調べてみようと言うことになった。
あー、それにしても、楽しみだなぁ! そうだ、帰ったらちゃんと試着してみよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます