お披露目

「ふふーん」


 デートは楽しかった。ブラトップによってちょっと大人になったし、理沙ちゃんも後半は前みたいに戻ってくれて普通にデートを楽しんでくれたと思う。

 そして夜。ご飯も食べて、いつも通り順番にお風呂に入ったのでさっそくブラトップを装着! 鏡の前で見てみるけど、うん! いい! とってもいいと思います!

 お店ではシャツの上からだったしよくわからなかったもんね。これすごーい。ちゃんと大人っぽい! タンクトップ着てるのとは違って、ちゃんと下着らしい可愛らしさあるし、今までと違う!


「理沙ちゃーん! 見てみて!」

「なに、な……!? な、な」


 上がったテンションのままに、私は脱衣所を飛び出した。パンツの方もセットではないけど同じ色味のにしたけど、さすがに室内で完全に下着だけってのもおかしいからズボンははいてるけど。

 じゃーん、と見せびらかすように理沙ちゃんの前でくるっと回って見せる。


「えへへ、似合うでしょ?」

「な、あ……に、似合う、よ……似合うから、服、着なよ」

「……いや、なに、その反応」


 理沙ちゃんは私の姿をじっと見てから、慌てたように俯いてそう言った。顔が赤い。いや、なんでそんな照れる? 理沙ちゃん自身が見られるのが恥ずかしいのはわかるよ? でもなんで今照れるの?


「は、春ちゃんは……もっと、恥じらいを持った方が、いいと思う」

「えぇ、なにそれ。私だって、誰にでもこんなカッコ見せるわけじゃないし、しつれーじゃない?」


 女同士だし、クラスメイトでも平気なのになんで理沙ちゃんに見せるので照れるひつようがあるの。それで恥じらい持ってないって言われるのはさすがに納得できない。

 このままではらちがあかないのでシャツを着るけど、私は理沙ちゃんの隣にどすっとわざと乱暴に座った。


「理沙ちゃん、何その顔。なんでそんな照れてるの?」

「……春ちゃんは、恥ずかしくないの?」


 横目で見ながら尋ねると、理沙ちゃんは膝を抱えるように座って膝に顔を半分埋め、ちらちら私を同じように横目で見ながら聞き返してきた。


「なんで恥ずかしいの? 女同士なのに」

「お、女同士って言うか……こ、恋人だし」

「恋人……」


 恋人だから恥ずかしい? 恋人って家族の次に親しい物じゃないの? なのに恥ずかしいって……んん? 恋人だから。恋人と家族の違いって……え? もしかして理沙ちゃん、私のことえっちな意味で見て照れてるってこと?


「……」


 や、やってしまった! 理沙ちゃんは大人だしそう言う欲求あるのかなとか、女同士でもえっちなことするんだって調べたりしたのに! 実際に自分の体見て理沙ちゃんが何か思うとか何にも考えてなかった!

 やばい。急に恥ずかしくなってきた。じゃあ実質、男の人の前で下着見せたようなもんじゃん。うぅ。で、でも、それをそのまま悟られると、私が何にも考えてない馬鹿な子供だと思われてしまう。


 私もソファの上に足を乗せて三角座りになって顔を隠しながら、誤魔化すためになんとか口を開く。


「そ、それはぁ、そうだけどさぁ……私はまだ子供だし、そう言う……そう言う目で、見てるの?」


 急でテンパってしまったけど、つまり理沙ちゃんの言ってるのってそう言うことでは? 私に手を出すなんて考えてないみたいに言ってたけど、えっちな目では見てたってこと? え? そうなの?


「み、見て……見てるつもりとか、ない、よ。でも、だって、その、春ちゃんが、ゆ、誘惑するから」

「ゆ、誘惑って……」


 見える頬から耳だけでも真っ赤にしてそんな風に言われてしまって、私も熱くなってるのを自覚しつつ、大げさに呆れ声をあげてみせる。


 いや、でもまあ、一緒にお風呂とか、下着見せてるのも私だ。理沙ちゃんはむしろ嫌がってた。言われても無理はない、のかな? えー、でも、納得できないと言うか。

 こっちは普通にしてただけなのに。恋人って言っても小学生をそう言う目で見る方がどうかしてる。理沙ちゃんが小学生ならまだしも、大人なのに。……でも、まあ、い、嫌じゃない、けど。


 理沙ちゃんに子供だと思われてるより、そう言う目で見られてたってほうが、なんか、まあ、悪い気はしない。少なくとも、他の誰かを見てるよりは。私だけ、特別で見てるってことだから。


「誘惑はしてないけど……でも、私以外の人のこと、そう言う目で見ちゃ、駄目だからね」

「そ、そんなの、考えたことないよ。だって、そもそも……こんなの、春ちゃん以外に、感じた事ないし……は、春ちゃんだけだから」


 私の言葉に理沙ちゃんは慌てたように顔をあげて、膝の腕の指先をもじもじしながらもちゃんと私の方を見てそう言った。その真面目な顔に、こっちは指先まで熱くなってしまって顔をそらした。


「そ、そう……なら、いいけど。まだ、駄目だからね」

「え、あ……う、うん」


 これ以上何かを言うとなんだかおかしくなりそうで理沙ちゃんの反応が見られなくて、私は顔をそむけたままそっとソファの生地をなでるように左手だけだして理沙ちゃんの方に差し出した。


「……」


 理沙ちゃんは黙って私の手に自分の手を重ねようとして、触れた瞬間びくっとまた離れて、そしてゆっくり覆いかぶさった。

 理沙ちゃんの手は大きくて、熱い。体温低いくせに、すぐ熱くなる。それがまた、私のせいなのだと思うと苦しい。


 そのまま私たちは寝る時間まで手を繋いでいた。









「春ちゃん」

「んー?」


 今更だけど家にゲーム機がやってきているのに、まだ全然手を付けていないソフトがたくさんある。なのでゲーム持ちの先輩である美香ちゃんに何がいいか聞いてみたところ、お気に入りと言われたのを早速してみた。

 丸くて可愛いキャラクターだ。横に進んでいくゲームは見たことはあるけど、したことはなかった。レースとか決まったステージで直接戦闘するんじゃなくて、倒さなくてもいいからどんどん進んでいくというのはまた違った面白さだ。


 昨日は勢いで下着姿を見せてしまって気まずい気がしたけど、ゲームをしていると気が紛れてちょうどいい。二つ目のステージをクリアしたところで晩御飯をつくったので、お風呂に入ってから続きをしている。


「あの……あのね」

「なにー?」


 珍しく理沙ちゃんが横から声をかけてきた。いつもテレビを見てても話しかけるのは私の方が多いのに。

 私はテレビ画面を見たまま返事だけをしたのだけど、理沙ちゃんは何か言いたげにしつつもなかなか言わない。でもちょっと待って、あとちょっとだから。今ステージボスだから。


「んっ! クリア! よーし。ごめんね、理沙ちゃん。で、なに?」

「あ、うんと……あの、別に、何ってことはないんだけど」

「えー?」


 絶対何か言いかけてたのに、何ってことはないってどういうこと? 理沙ちゃんはもじもじしている。 むむむ?


「じゃあ、ゲームに戻ってもいいの?」

「……あ、あの……今日、学校、どうだった?」

「え? 別に。さっき晩御飯の時に言ったけど、ゲームのおすすめおしえてもらって……理沙ちゃんも、一緒にする?」


 ゲームに戻ってほしくないみたいだけど、別に話したいことがあるわけでもない、と言うことでふと気づいた。単に理沙ちゃんも一緒にしたかったのでは? これ二人でできるし。


「う、うんっ」


 理沙ちゃんは嬉しそうに頷いた。よかった。合ってた。理沙ちゃんが買ったんだから、遠慮することないのに。


「ゲームはこれでいい?」

「うん。春ちゃんと一緒なら、なんでもいいよ」


 理沙ちゃんと二人でゲームした。二人でするとちょっとプレイしやすいって言うか、また違う楽しさって感じだ。一人でするのも面白かったけど。

 もう二つ、ステージをクリアして一区切りついたところでふっと時計を見るといつも寝る時間の15分前。歯磨きするのとか考えると、そろそろやめてもいいかも。後もう一回ってすると微妙なところになりそうだし。


「理沙ちゃん、もうこんな時間だしそろそろやめよっか」

「あ、うん……面白かった、ね。明日もする?」

「うん。しよしよ。じゃあ歯磨きしよっか」

「うん……あ、あの」


 ささっとゲームを片づけていると、理沙ちゃんが急に真面目な声を出した。コントローラーを充電して、テレビのリモコンを手に振り向き、電源をOFFにしながら首をかしげる。


「なに? 明日は別のゲームがしたいってこと?」

「そう、じゃなくて……あの、今日……まだ、手、繋いでない、から……だ、駄目かな?」

「え……だ、駄目じゃない、けど……」


 もちろん、全然、駄目ではない。駄目ではないけど……な、なんか、そんな真剣にお願いされると、ドキドキしてきてしまう。だって、もう何回も手繋いだじゃん。理沙ちゃんからだってしてくれたのに。なんで改めてそんな聞くの? そんなに、毎日私と手を繋ぐの楽しみにしてくれていたの?


「あの、じゃあ、手、繋いで歯磨きにいこっか」

「うんっ。ふひ、ふひひ。ありがと」

「ふふ。それはいいけど、笑いをかみ殺さないで、普通に笑ってよ」


 手を繋いだ瞬間にやけながら笑う理沙ちゃんの、この間変な笑い方だって言ったのに相変わらずの笑い方に、思わずちょっと笑ってしまった。

 いまだに手を繋ぐだけでそんな風に笑ってしまうほど喜ぶ理沙ちゃんは可愛いし、今では理沙ちゃんの笑い方自体、好意的に思ってしまう。

 でもそれはそれとして変だし、無理に我慢しての結果ならもっと自然に感情出してほしいって思うから、癖なら直すようにした方がいいと思う。


「え、えっと、あはは?」

「今なら、ふふふ、とかでいいんじゃない? あははーって、声出して笑うようなノリでもなかったでしょ」

「う、うん。えっと……ふふ、ふふふふ」

「ううん、うん」


 わざとらしいほどの笑い方なのもともかく、まるで魔女が悪だくみしてるみたいな声の低いもので、噴き出しそうになってしまった。

 でも理沙ちゃんが改善しようと頑張っての第一歩なんだし、これで笑ったら駄目だ。ちゃんと褒めてあげなきゃ。


「そんな感じだよ。これからも頑張ろうね」

「う、うん。ふふ」


 あ、今のはずっと自然だったし、それに、うん。笑顔も可愛い。

 理沙ちゃんはおどおどしてるのも可愛いけど、笑顔ももっと可愛いし、好きだな。


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