ファーストブラ

 湯船のふちに腕をのせて、そこに顎をのせて理沙ちゃんを見る。頭を洗っていて腕をあげているので、その下からおっぱいがぷるぷる揺れているのが見える。


 こんな風に揺れるんだ。結構小刻みなんだ。胸が脂肪ってこう言う感じなんだ。へー。

 私は顎をあげて自分の胸を見る。平坦だ。でもちょっとくらいは膨れている気がしないでもないような。クラスでも半分くらいはしてるし。まだ乳首が服にすれるって感じはわからないけど。そろそろ私だって大きくなるはず。


「ねぇ理沙ちゃんはいつから下着つけてた?」

「えっ。な、し、下着って、ブラのこと?」

「うん」


 ブラジャーの名前を口に出すのはちょっと恥ずかしいから下着って誤魔化したんだけど、理沙ちゃんは普通に口にした。さすが大人だ。ブラジャーつけるのが当たり前だもんね。


「えっと、私、背が結構あったし、四年生、だったかな?」

「そうなんだ。うーん、じゃあ、私もそろそろつけた方がいいと思う? あ、今全然ないけど、多分そのうち理沙ちゃんくらいにはなると思うんだ。ほら見て」


 膝立ちになって自分の胸をはってみせる。従姉妹なんだからきっと理沙ちゃんくらいにはなるはず! そのためにはそろそろ下着もつけなきゃね。お金出すのは理沙ちゃんだし、ここは成長アピールしておかなくちゃ。


「みみっ、見ない! 見なくても、あるのわかってるから! ブラも買うべきだと思います!」

「え? そう? えへへ。そっかぁ」


 自分だと毎日見てるからわからないけど、理沙ちゃんから見たらちゃんとあるように見えるんだ。嬉しいな。


「あ、じゃあさ、明後日のデートはこれにしよ。私のファースト、ぶ、ぶら。うん。ファーストブラ買いにいこ。理沙ちゃん選んでね」


 私はご機嫌にまた縁に手をついてそう提案する。ちょっと恥ずかしいけど言えた。これで私もちょっと大人に近づいた気がする。だいぶちょっとだけど。


「ふぁ、ふぁーすとぶら? そ、そんな名前があるの? 初めてのブラのこと?」

「うん。そうだって、本にのってた」

「……そう、なんだ」

「うん。じゃあ決まりね!」


 理沙ちゃんはファーストブラって言葉を知らなかったらしい。理沙ちゃんの時代にはなかったのかな?

 理沙ちゃんが何だかよそよそしかったけど、デートの約束はちゃんとできたし、なんとなく裸の付き合いでちょっと心の距離が近づいた気もする。たまには雨も悪くないかもね。


「あ、あの、それはいいんだけど、その、春ちゃん」

「ん? ああ、頭も終わったね。じゃあ私出るよ。さすがに二人だと狭いし、十分温まったしね」

「え、あ、そ、そう」

「うん。お先ー」


 頭を流して戸惑ったようにちらちら見てくる理沙ちゃんに察する。さすがに一緒に湯船につかると狭くて体くっつくし恥ずかしいもんね。


 私は先に上がった。これから料理するので寝間着だと汚れたら嫌なので、とりあえず普通の部屋着になった。

 それからお料理を作っていると、遅れて理沙ちゃんもお風呂からでてきた。いつもよりさらに遅い。理沙ちゃんの大学の場所よくわかってないけど、よっぽど体冷えたのかな。私のあとすぐ入ってこなかったしね。

 スープはしょうがを入れてあったまる味付けにしておこう。


「お待たせ―、並べるよ」

「あ、ありがとう。……あの、ファーストブラって、その、ほんとに私も選んでいいの?」

「え? うん。服選んでくれたし、それと同じでしょ。恋人なんだしいいでしょ」


 まあ恋人じゃなくても従姉妹で家族なんだし、別にいいでしょ。下着って言っても、別に着る前は普通の布なんだし、おかしいことじゃないでしょ。何でわざわざもう一回確認することある?

 と私は思うんだけど、理沙ちゃん的には抵抗があったのか、私の答えにも目を泳がせている。


「あ、ああぅ、そ、そうなのかな」

「えー、わかんないけど。あ、そうだ。じゃあ私も理沙ちゃんの選んであげよっか」

「あ、う、うん……あ、お、お茶出すね」


 理沙ちゃんは慌てていつものお手伝いをし始めてくれた。それで支度も整ったので夕飯にした。


「ねぇ、理沙ちゃん、今週なんか挙動不審だよね。いつものことと言えばそうなんだけど、何で?」

「え、あー……な、なんでもない。えっと、気を付けます」

「なんで敬語なの……ね、手、繋ごっか。明後日の練習だよ」

「……うん」


 そっと手を繋いだ。理沙ちゃんは相変わらず挙動不審だったけど、手を繋ぐのはいつも通り拒否しない。私のことを見ずに、でも意識してるのがまるわかりでテレビも見ずに俯いて膝の上の自分の左手を見てもじもじしている。

 可愛い。私もまだ少し理沙ちゃんと手を繋ぐのに緊張したり意識しちゃうけど、それより理沙ちゃんの反応が可愛くてそれを見る余裕が出てきた。


「ね、理沙ちゃん。私のことどれくらい好き?」

「えっ、な、なに、急に」

「えー、だって、気になったんだもん」


 手を繋いでも平気な練習をしてるわけだけど、でもなんだかもっと動揺する理沙ちゃんも見たくて顔を覗き込んでそう尋ねてみたた。

 どこが好き、と聞いて全部だったけど、どのくらいは聞いてない。恋愛なのは勘違いにしたって、今私が一番なのは本当なんだから、これは聞いても大丈夫だよね?

 理沙ちゃんは一瞬目を見開いて泳がせてから、そっと私の手を握りかえしてぎゅっと睨むような顔で私を見返す。


「……は、春ちゃんは……私の、特別、だよ」


 ドキッと、胸が高鳴った。胸が苦しいくらいだ。思わず熱い息が口からもれていく。


「はぁ……うん。嬉しい。でも、なんかちょっと違うよね」

「え」


 でも駄目。会話がつながってないから。勇気を出してくれたのはわかるけど、目をまたたかせて困ったように眉を寄せる理沙ちゃんは可愛くて、ついつい微笑んでしまう。でもちょっと意地悪な顔になってるのかな? 理沙ちゃんは可愛い困った顔になってしまう。


「好きってことは特別なのは当たり前じゃない? どのくらいって聞いたのに」

「えぇ、あぁ……す、すっごく。あの、えっと、宇宙一、好き……駄目かな」

「んふふ。ううん、いいよ。気に入った」


 宇宙一、なんて、全然大人っぽくない。私たち小学生だってそう使わない言い方なのに、それを選んじゃって真剣に照れながら言う理沙ちゃんが可愛いから、それで許してあげることにした。会話はつながってるしね。


「私も、宇宙一好きだよ」


 理沙ちゃんは顔を真っ赤にして、でも離さないよう手を握る力だけは痛い位強くして、宇宙一の気持ちを伝えてくれた。えへへ。大好き。








 と、いう訳で。私たちはファーストブラを買いに来た。折角なので下着の専門店でと理沙ちゃんが言ってくれたので、一緒に前も着た駅前のモールの専門店にやってきた。

 カラフルな下着がたくさんあって、前も通りかかった時は可愛いなって思ってたんだよね。


「うーん、でも、どれをつけたらいいんだろう。このスポーツタイプから選べばいいのかな」

「えっと、私も最初それだったし、多分」

「いらっしゃいませ。何かお困りでしたらご案内させていただきますが、いかがでしょうか?」


 理沙ちゃんと子供用っぽい辺りに入っていくと、ふいに店員さんが現れて笑顔でそう声をかけてきた。右側からさっと自然に出てきてちょっとびっくりした。


「……」

「あ、すみません。えっと、私の、その、ファースト、ブラ。その、つけようかなって、思ってきたんですけど」


 私もびっくりしたけど、理沙ちゃんはフリーズしてしまったみたいなので慌てて答えた。今回私のことだしね。

 店員さんはにこにこ笑顔のままちょっとだけしゃがんで私に向けて優しく声をかけてくれる。


「そうでしたか。おめでとうございます。サイズははかられましたか?」

「あ、はかってません。あの、まだその、全然ないので」

「大丈夫ですよ。よければ一度計測いたしましょうか。シャツの上からで大丈夫ですし、実際に計測した方がより体に合ったものをおすすめさせていただけますよ」

「え、えっと……じゃあ、その、お願いします」


 よくわからないけど、ここはプロに任せた方がいいよね。と言うことで言われるまま更衣室みたいなところに一緒に入って測定された。それようなのか試着室よりは広くてお姉さんも一緒にと言われて理沙ちゃんも入ってきたので、ちょっと恥ずかしい。

 当然私は全然なくてカップ数を気にする段階ではないんだけど、これから膨らんでくるところだからちゃんとケアしてあげようねって言われて、キャミソールみたいなやつをすすめられた。

 ブラジャーって感じではないけど、ちゃんと胸のところが二重になってるらしい。思ってたのと違うと、無理にあわないのをつけて抑えてしまうと胸が大きくならないと言われたので仕方ない。


 それにキャミソールも聞いたことあったけど着たことはなかったし、タンクトップと違って可愛い。肩のとこが紐だったり、レースだったりでちょと下着っぽいし。正式には最近はアウターとして使えるキャミソールではなく下着用のブラトップとして使い分けているらしい。勉強になるなぁ。アウターの意味がわからないけど。

 と言う訳で、ブラトップって言うのを買うことになった。教えてもらったサイズでこの中から好きなのを選んでねと言われて解放されたので、理沙ちゃんと選ぶことにする。


「で、理沙ちゃん、どれがいい?」

「ほ、ほんとに私が選ぶの?」


 店員さんがいる時は静かにして時々相槌をうつくらいだったけど、二人に戻るとさすがに元に戻って普通に話してくれた。でもやっぱりちょっと挙動不審だけど。


「今さら何言ってるの。理沙ちゃんもはかってもらったんだから、ちゃんと買うよ」

「うぅ」


 そう、実は理沙ちゃんもちゃんとはかってもらったことないと言うことでしてもらった。理沙ちゃんはCカップなんだって。正直もっとあると思ってた。Cって三つめだからもっと小さいんだと思ってた。まあでも、私は今からブラトップつけるんだから、それ以上にはなるってことだよね!


「じゃあ手伝ってあげる。理沙ちゃん何色が好き?」

「え、うーん……赤?」

「じゃあ赤系ね。このピンクのとオレンジだとどっちが私に似合う?」

「う……ど、どっちも似合うよ」

「またぁ。うーん。でも下着は毎日着るから、さすがに複数必要だし。五個くらいいい?」

「えっと、もっとあってもいいと思う」

「そうかなぁ。でも来年には着られなくなってるはずだし。肩ひもはどっちが、あ、この花柄みたいなやつ可愛いー。どう?」

「あー、可愛いし、似合う、よ」

「いいよねぇ」


 相変わらずの理沙ちゃんなので、ついつい買いすぎてしまった。7枚。まあ、まあ、一週間で一回ってなったら頻繁だし、パンツはもっとあるくらいだし大丈夫でしょ。

 理沙ちゃんはすでに持ってると言うので、仕方ないので厳選して一つ選んだ。理沙ちゃんがいつも着ているのは飾り気のない下着だ。柄とか一切なくて黒かグレーかベージュの三種類。多分同じ種類のを複数持ってる。効率はいいかもしれないけど、折角だし一つくらい可愛いのでもいいと思う。

 と言う訳でとっても可愛くて、さっき好きって言った赤い、薔薇をモチーフにしてて縁がレースですっごい可愛くて綺麗なのを選んだ。大人っぽいし、気に入った。


「ねぇ理沙ちゃん、帰ったら夜にでも着てみせてね。私も見せるから」

「……ま、また今度、ね」

「えー」

「そ、それより、お昼食べ終わったら何する?」


 なんだか理沙ちゃんが積極的に言ってくれているので、とりあえず楽しみは今度に取っておくことにして、今日のデートを楽しむことにした。

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