お風呂

 理沙ちゃんとちょっとエッチな漫画を読んだことで暴走してしまった気がする。えっちなことなんてまだまだ私たちには早かったんだ。うん。友達にもそう言っておいた。ブーイングをされたけど無視をして、代わりにデートコースのおすすめを聞いておいた。

 うん。まあ、恥ずかしい感じになってしまったけど、でも友達に相談できるようになったのはいいことだし、いいかな。前よりちょっと気安くなった気もするし。


 とりあえずおすすめだと言われてメモっておいた場所を、私は理沙ちゃんから借りてるタブレットでぽちぽち調べる。ふむふむ。


「……理沙ちゃん、何? 何か言いたいことあるならはっきり言ってよ?」

「うぇっ、な、なんでもない、よ?」


 いや、今絶対目があった。あったし、それに昨日からおかしい。昨日は私もおかしかったからつられたかもしれないけど、今日の私は普通だし、昨日は手を繋ぐのもお休みしたし。今日もしてないし。だから別に、動揺することなんかないはずなのに。

 なのになーんか、ちらちらちらちら私の方を見ているのだ。怪しい。怪しすぎる。


「ほんとにぃ?」

「う、あー……は、春ちゃんも、個人のスマホとか、そろそろ欲しい?」

「えっ、あー……まあそりゃあ、欲しいか欲しくないかって言ったら欲しいけど。でも、安い物じゃないし、学校にはどうせ持っていけないし、家では普通にパソコンもタブレットも使わせてもらってるし、別に、なくてもいいよ?」


 めちゃくちゃ急な提案だ。持ってる人がいないとは言わないけど、でもどうせ使う場面はそんなにない。まあ友達と休みの日に会う時とか、持ってる子が羨ましいとは思うけど。全員が持っている訳でもないし。まあ、欲しいかと言われたら欲しいけど。でもさすがに贅沢品がすぎるよね。


「うーん、でも、あの、例えばだけど、調べものとか、ほら、宿題する時とか? 自分専用のがあった方が、便利かなって」

「うーん? まあそうかもだけど。でも宿題とか、ネットで検索したらあんまり身につかないと思うし」


 辞書とかも紙で調べた方が身につきやすいって言うもんね。普通に辞書は持ってるし、そもそも宿題で調べものってそんなになくない? 教科書見たらだいたいわかるし。夏休みの自由課題とか? でもそれはスマホの必要性ないし。

 なんでそんなにスマホをすすめるんだろう? 万が一の為? でも防犯ブザーはちゃんとランドセルにつけてるし。


「そ、そう……春ちゃんがいいなら、いいけ、あっ」

「あっ」


 首をかしげる私に、理沙ちゃんは頭を搔いて誤魔化すようにしながら目をそらし、途中でパソコンの隣のコップをひっかけて慌ててノートパソコンを両手で持ち上げた。


「あぁ……」

「じっとして」


 パソコンを頭上に持ち上げた状態で机からどぼどぼと自分のズボンにこぼれていくのをただ見ている理沙ちゃんに、私は慌ててティッシュを複数枚引き抜いて机の端からさらにこぼれないよう防波堤を作って押し返し、さらに複数枚とって理沙ちゃんのズボンにあてる。

 しみ込んでいくのを見て、とっさに理沙ちゃんが足を閉じたのでおしっこを漏らしたみたいになってしまった足の間に手を入れて、ソファまで行ってないのを確認してほっとする。


「よかった。ソファは無事だよ。もうちょっと拭くね」

「あ、うん……あー、その、ありがとう。ズボン、はきかえるから、もう、大丈夫だから」

「そう? ならいいけど。と言うか足もぬれてない? もう一回シャワー浴びる?」

「う、うん……と、とにかく大丈夫だから」


 理沙ちゃんは慌てたように立ち上がってお風呂の方に行ってしまった。別にそんな冷たくも熱くもないお茶だし、そんなに慌てなくてもいいのに。びっくりした。


 それにしても何を慌てて、あんなに挙動不審だったんだろ。私にスマホを持たせて理沙ちゃんに得があるわけでもないし。


 と疑問には思ったものの、理由も思いつかない。私はそのままタブレットでの検索に戻った。









 その翌日も理沙ちゃんの挙動不審は続いて、ついに今日は金曜日。となっても朝から様子がおかしいし。雨模様もおかしいし。週末のデートについても話せてないし。

 別に距離があるわけではないし、むしろちらちら私を見てたりするんだけど、なんだろうこれは。


「あー……雨」


 どうしようか、と考えながらも、まあふるかもしれなかったから今日買い物ないように昨日余分に買ったし、傘も持ってきているから大丈夫だけどね。でもなんとなく、今日は理沙ちゃんが早く帰ってる日だからちょっとだけ図書室で残っていたらついに降りだしてしまった。

 傘があっても、雨がふっていればめんどくさいのにはかわらない。これ以上強くなってしまう前に帰ることにした。


「ん?」


 靴箱のところにクラスごとに傘立てがある。そこの一番右側の真ん中に朝入れたのだ。いれたのに、ない。

 いつも置き傘だらけのところ、さすがに今日はほとんど傘がないけどもう何本かは傘立てに残っている。なのでまだあるけど、人のを使うのはなぁ。ビニール傘だから他の人に間違われたのかな?


「うーん」


 抵抗あるけど、教室に寄ったらもううちのクラスは誰もいなかったし、まあ間違った人がいるんだし合計の数は同じなんだし、借りても大丈夫でしょ。

 私は仕方なく、近くのビニール傘を手に取る。さびてる。見た感じ二本くらい先が外れてる。


「……」


 これ、間違ったんじゃなく誰かがわざと私の持って行ってない!? は、腹立つ!

 他のも確認して、どう見てもど真ん中で折れているやつと、取っ手が汚いから手に取りたくないやつと、最後の一本が比較的綺麗そうで折れてもないし、ちゃんと留め具もとめられていて傘立てからとっても折れてはいないし、大丈夫そう。


「よし」


 改めて靴を履き替え、私は玄関から出て、本降りになってきた雨にため息をついてから傘を広げた。


「……まじか」


 傘は穴があいていた。しかも頭上のあたりに指の形みたいな感じで五つ。これは……こんなのさして歩けるか!

 もうどうでもいい。私は傘をそのまま入り口脇の窓のところにひっかけて走って帰ることにした。


「っ、はぁっ、はぁ……」


 学校まで近いとはいえ、それでもずっと走ると普通にくたくただ。雨で視界も悪いし息もしにくかったし。最悪。


「ただいまー」


 鍵を開けて玄関に入って、ランドセルをそのまま放り出してお風呂場に直行することにした。靴はあったので中にいるであろう理沙ちゃんに声をかけながら脱衣所の扉を開ける。


「わっ、あ、は、春ちゃん!?」

「あー、理沙ちゃん。ただいま。てか理沙ちゃんも今帰ってきたとこなの?」

「う、うん。あの、お風呂、沸かしながらシャワーでも、あの、びしょぬれだしその、お、お先にどうぞ」


 脱衣所には理沙ちゃんがいて、どうやらほぼ同じタイミングで帰ってきていたみたいだ。まだ服を着ているけど、理沙ちゃんも頭から濡れていてびしょびしょだ。そう言えば朝、傘持っていけって言わなかったっけ。そこは天気予報見ようよ。まあ私もこうして濡れてるし言えないけど。


「何言ってんの? 理沙ちゃんもびしょぬれじゃない。一緒に入ればいいでしょ。風邪ひくよ」

「え? え?」


 理沙ちゃんは何か戸惑ったようにもぞもぞしているけど、何をお先にとか言ってるのか。理沙ちゃんが待ってると思ったらのんびりだってできないし、今も服が張り付いて気持ち悪いし、普通に一緒に入るでしょ。

 私はさっさと服を脱いで洗濯機にいれる。まだもじもじしている理沙ちゃんは、きっと服を脱ぐのを見られるのが恥ずかしいのだろう。そう言う子確かにいるもんね。体育の時にやたら隠れて着替える子。理沙ちゃんは恥ずかしがりだし仕方ない。


「じゃ、お先。理沙ちゃんも早く来なよ」


 と言う訳で先にはいらせてもらい、シャワーで雨を流す。あー、あったかいし、気持ちいい。雨って空気中のチリに水分がくっついて降ってくるんだもんね。それを習ってから埃をかぶってるみたいで気持ち悪いんだよね。

 まだ入ってこないようなので、先に体と頭も洗って湯船につかる。ふぅ。温まる。


「……」

「? りさちゃーん? 何しているの? 早くしなきゃ風邪ひくよ。私もう洗ったから早く」

「う、うん!」


 湯船に入って初めて気が付いたけど、理沙ちゃんは何故か服は脱いだっぽいのに、すりガラスごしに立ったまま入ってきていなかったので促した。そしたらすぐに入ってきた。


「お、おじゃまします」

「うん……」


 理沙ちゃんが入ってきた。全裸で。いや、当たり前だけど。当たり前だけど。り、理沙ちゃんの裸、なんか、ほんと、大人。洗濯ものからわかってたけど、おっぱい普通にあるし、くびれとか毛もあるし。肌こうやって見るとほんと白いし。なんか、私とは全然違う。

 なんていうか。なんていうか……ちょっと、ドキドキするかも。


 理沙ちゃんは私にじっと見られているからか、女同士なのにやけに恥ずかしそうに背中を丸めすぐに目をそらしながらお風呂椅子に座ってシャワーを流し始めた。


「ねぇ理沙ちゃん」

「な、なに?」

「ついでだし、背中洗ってあげようか」

「えっ、い、いいよ!」

「そう? じゃあするね」


 テンション高めにびくっとしながら答えてくれたので、私も勢いよく湯船からでて理沙ちゃんの後ろに向かう。


「ええ!? い、いいって言うのは、いらないって言う意味で」

「まあいいじゃん。タオル貸して」

「……」


 そんな感じだと思ったけど、いつもお世話になってるし、恋人なんだから背中洗うくらいいいでしょ。手だけ前に出して言うと、理沙ちゃんはしぶしぶ泡立てたタオルを差し出してきた。そう言う素直なとこ好き。


「かゆいところはございませんかー?」

「な、ないです」


 背中を洗いながらふざけて声をかけると理沙ちゃんは何故か固くなって敬語で答えた。ちょっと笑える。


「理沙ちゃん綺麗な肌してるね」

「えぇ? そ、そう? ありがとう?」

「うん。ちょっとニキビあるけど、全体的には」


 肩甲骨? の真ん中あたりに二つニキビみたいな赤いのがあるけど、全体的には綺麗だと思う。すべすべだし。


「あ、あの、もう、いいから!」

「そう? じゃあ体洗って。なんなら頭も洗ってあげようか?」

「い、いい、け、結構です」

「ふふっ。なにその言い方。理沙ちゃんどうしたの? そんなかちこちになって。そんなに恥ずかしい? 女同士だし、恋人なのに」

「こ、恋人だから……と、とにかく、自分で洗えるから」


 仕方ないので引き下がり、ついた泡だけ流してまた湯船にはいる。ちょっと冷えた分もまた温まってきた。

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