好きだよ
ぐぅ、とお腹がなってしまうまでそのまま手を握り合って見つめ合っていたけど、さすがにそうなってはムードもくそもない。お互い顔を赤くしながらも手を離した。
お菓子も全然減ってないし、とりあえずそのままにしてお昼を軽く済ませた。それからついにゲーム機の登場だ。あの社長の先輩に聞いて設定とかはすませたらしいけど、楽しみのためタオルをかけて隠して触らないようにしてきた。
ついに、我が家にゲーム機が。わくわく。さっきまでと違うドキドキがしてくる。もちろんデートの為だけど、それ以外にも理沙ちゃんがいない時とか、自分でもしていいんだろうし。ど、どんなゲームがあるのかな?
中は友達の家で見たことあるやつだ。ぴかぴかできれい。理沙ちゃんがなれた様子で電源をつける。パソコンに詳しいから、ゲームも機械は得意なんだろうな。
「えっと、どれがやりたい?」
「どれって、え、これここに出てるやつ全部遊べるってこと?」
「う、うん。あの、ダウンロードで、おすすめを全部いれておいたから。いつでも、好きにしてくれていいし」
「……」
え? ダウンロードって、ゲームソフトじゃないけど、ゲームソフトがまるごと中にはいってるってことで、お金はそれだけ払ってるんだよね? り、理沙ちゃん。しかも好きなやつとか面白そうとかじゃなくて、おすすめしてあるやつ全部? さすがにお金持ちがすぎるんじゃない? ちょっと呆れてしまう。
そこまで無頓着と言うか、お金持ちなんだなぁ。なんかもう。ちょっとしたことで節約しようとしてた私が馬鹿みたいだ。
「よし! どれがいいとかって、あの社長先輩何か言ってた?」
「えっと、このレースゲームが初心者でもやりやすいし、盛り上がるんだって」
「じゃあそれしよう。ていうか、いくら私でもこれ知ってるよ。一回したことあるもん。理沙ちゃん知らないの?」
「あー、前のはしたことあるよ」
なら話は早い。二人でさっそく始めることにした。今日のノルマである手繫ぎはこなしたし、後はゲームに集中してもいいよね。物理的に手を繋げないんだから。
と言うわけでゲームをした。このゲームをしたことあるのは私なので、私の方が有利だと思ったけど、理沙ちゃんは昔のでやってたらしく、普通にスタートダッシュを決めてきた。それ私やりかたわからないままだったのに。
でも理沙ちゃんはアイテムの効果を忘れてたりでわからないのも多かったので、勝負は白熱した。ちょうどいいくらいで盛り上がった。
おやつの時間に休憩するまで続けた。そしてだしっぱなしだったお菓子を食べながら、他のゲームのPVを見て次にどれをするか決めて、一緒に夕方まで遊んだ。
「ゲーム、面白かった?」
「うん! もちろん。ていうか。楽しんでないように見えた?」
「ううん……私も、楽しかった」
「うん。また、お家デートしようね」
と約束して、デートは終了と言うことで部屋着に着替えた。夕飯をつくり、お風呂に入って後は寝るだけとなってから二人でいつも通りソファに並んで座った。
何気なくテレビをつけてから、理沙ちゃんが視界に入る。理沙ちゃんは何やらもじもじしながらソファの上に右ひざを立てる形ですわり、自分の右手を膝にひっかけるようにのせて手のひらを見ている。
「理沙ちゃん、立膝はお行儀悪いよ」
「あ、ごめん……その、うん。気を付ける。……あの、春ちゃん、その……昼間の映画、内容よくわからなかったし、また、見ない?」
「え? うん、いいよ」
今からだと途中になってしまうけど、見たいと言うなら別にいい。今やってるテレビで見たいのがあるわけでもないしね。
「ありがと。途中だったから、気になって」
理沙ちゃんはそう言ってテレビを操作した。再生して、ちょっと早送りしてとめた。ここまでは記憶があるみたいだ。私もなんとなーくやってたなってくらいは覚えている。
「……」
理沙ちゃんは真面目に、真剣なくらいテレビを見てる。さっき、行儀は悪かったけどなんか手を見てたから、私と手を繋いでたのでも思い出したのかな、なんて思ったけど自意識過剰だった。なんかちょっとぶつけたとかだろう。理沙ちゃんドジだし。
でもちょっと、面白くないなぁ。
私はまたソファに座った瞬間、理沙ちゃんとの距離を意識して、ゲーム中は意識しなかったとはいえ、やっぱり初めて手を繋いでた時の事を瞬間的に思い出して意識したのに。理沙ちゃんはそうじゃないんだ。
理沙ちゃんだって恋人ができるのも、手を繋ぐのも初めてのくせに。生意気だよ。理沙ちゃんなんか、私より動揺してればいいんだ。
膝をおろしたことでリラックスしたように背もたれにもたれ、両手はだらりと膝の上に置いてる。隙だらけだ。
「……でもさ、最後は見ちゃったから犯人わかっちゃったじゃん? よく見る気になったね」
「!? は、春ちゃん!?」
何でもないみたいに話しかけながら、私はそっと理沙ちゃんの上に手を重ねた。
当然のように理沙ちゃんは、初めて触れられたみたいに動揺している。私も熱くなってしまうけど、理沙ちゃんは負けないくらいまた赤くなってて、それに私は嬉しくなる。
私が隣にいるのに、ほんの少しも意識しないでテレビなんか見てるからだ。
「い、今、デートじゃない、よね? なん、なんで」
「……嫌?」
「い、いい、嫌じゃないっ、けど」
「手、つないだら、理沙ちゃん馬鹿になっちゃうから。手くらい、外でもつなげるよう、なれないと駄目でしょ?」
なんて、偉そうに言って。私だって理沙ちゃんと手を繋いでるとぽーっとしちゃって、テレビも雨も何にも聞こえない。私の心臓の音と、理沙ちゃんのことしか考えられない。何にも見えない。そうなってしまう。
だから、私の練習でもあるんだ。だって、手を繋いでデートしたいじゃん?
「そ、それは、そう、かもしれないけど。でも、だって……ど、ドキドキしちゃって、だって、溶けちゃうよ」
「ふふっ。と、溶けるって何。何が?」
震える声で意味の分からないことを言う理沙ちゃんに笑ってしまう。笑う私に、理沙ちゃんはいじめられっ子みたいに目をそらす。
「の、脳みそ……?」
「疑問形じゃん、ほんと理沙ちゃん、お馬鹿だね。可愛い」
「っ……は、春ちゃん……意地悪しないで。いっつも優しいのに、なんで」
「今のは意地悪のつもりないけど……意地悪な私、嫌いになっちゃう?」
恐々とちょっと涙目で聞かれてしまって、私も困ってしまう。普通に言ったつもりだけど、理沙ちゃんが意地悪に感じたならそうなんだろう。確かに優しくはない。お馬鹿とか、面と向かって言ってこなかった。
でも、だって。言いたくなっちゃったんだもん。言われた理沙ちゃんがびくびくしたり、おどおどしてるのを見ると、なんだか可愛くってぎゅっとしたい気持ちになってしまうから。もっとその姿を見たくなってしまって、つい口が滑ってしまう。
こんなことばかりしてたら、いくら理沙ちゃんが強固な勘違いをしてるとしても、私を嫌いになるかもしれない。ちょっと不安になって聞いてみる。
理沙ちゃんは私の質問に一瞬目を見開き、口を開けて魚みたいにぱくぱくして。目をそらしながら答えた。
「…………す、好き。どんな春ちゃんも、好き」
「っ」
ただでさえ熱い体が、もっと熱くて、茹で上がりそうだ。そんな体が重いくらいなのに、気持ちは浮き上がるみたいで、幽体離脱してしまいそうだ。
「私も、好き」
「えっ……ほ、ほんとに?」
「な、何で疑うの? 仮にも、恋人なのに」
「だ、だって……だって、仕方なく、付き合ってくれてるんでしょ?」
「えぇ……」
わかってたの? わかってたって言うか、もしかしてそれを狙ってたの? 理沙ちゃん、お馬鹿なんじゃなくてそこは計算だったのか。せこいと言うか、いやらしいな。
理沙ちゃんはまるで怒られてしょげてる子犬みたいなしょんぼり顔で、私の様子を窺うようにして顎をひいて言葉を待ってる。私は口の端が吊り上がってしまうのを堪えられず、ちょっといじめっ子みたいな顔になってるのを自覚しながら、理沙ちゃんの手に体重をかけて腰をあげ、右手で理沙ちゃんの顎をつかんであげさせて正面から顔をあわせて答えてあげる。
「最初はそうだった。でも、……今もそうだって、見える?」
「っ……だ、だって、だって」
「見えるんだ? ひどいなぁ。理沙ちゃん、私のこと、そんな風に見てたんだ。好きでもない人と付き合って、手まで繋ぐって思ってるんだ」
だってって言い訳をしようとしたってことは、そう言うことだ。肯定の意味だ。それってひどくない? だって、私別に隠してるつもりないのに。私のこと、ちゃんと見てくれてないってことでしょ?
そう責めると理沙ちゃんはおどおどと、私に掴まれて動かないまま目だけきょろきょろさせて言い訳する。
「そ、それは、だって、だって春ちゃんは、友達だっているし、手くらい、大したこと、ない、かも、だし」
「そだね。手くらい、大したことないよ……理沙ちゃん、以外となら。私の顔、見て。ひどい顔してるでしょ? 理沙ちゃんのせいだよ」
「う、あぁ……」
ちょっとだけ意地悪のつもりで言ったら理沙ちゃんは案の定これ以上ないくらい眉尻を下げて、うめいて言い訳すらしなくなった。ぞくぞくする。可愛い。こんな風に感じてしまうなんて。何だか、悪いことをしている気にさえなる。
でも実際はそんなことないはずだ。恋人の手を握って、顎に触れて顔を寄せてるだけなんだから。暴力をふるってる訳でも、理不尽な罵倒してる訳でもない。
「私の顔、見える? どんな顔してるみたいに見える?」
「う、は、春ちゃんの、顔は……す、すごく、可愛い、よ」
「ほんとに? 意地悪な顔じゃなくて?」
「き、綺麗でも、ある……」
理沙ちゃんは、ほんとに馬鹿だなぁ。小学生だよ? 私。小学生を捕まえて、綺麗な顔って。本気で言ってるとしたら、どうかしてるよ。ほんと、駄目な人なんだから。
「……理沙ちゃんは、ほんと……馬鹿。目も悪くて、どうかしてる。でも……好きだよ」
「春ちゃん……好き、大好き」
「うん、私も」
「うん……うんっ」
理沙ちゃんは瞳をうるませ、私につかまれたままなのに柔らかな笑みを浮かべ、純粋に喜んでいて、私はそのまま理沙ちゃんと見つめ合って、結局映画は見せなかった。
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