二回目のデート

 あれから一週間後、私たちは二度目のデートを迎えていた。この一週間、いつも通りの理沙ちゃんなのにちょっとだけ先週と違うような気もしていた。私が、理沙ちゃんのことを好きに片足以上突っ込んでるかもしれないと自覚したからかもしれないけど。

 着るのを楽しみにしていた、買ってもらった中でもお気に入りのワンピースとジャケットを着る。もうすぐ六月なので、ジャケットを着れるのは今だけだ。うん。試着の時も思ってたけど、いい感じだ。我ながら似合ってると思う。


「理沙ちゃん、お待たせ」

「あ、うん……その、似合ってるよ」

「あ、ありがと。理沙ちゃんも、その、似合ってる。素敵だよ」

「……ありがと。嬉しい」


 そう言ってはにかんだ理沙ちゃんは可愛くて、ちょっとしたやり取りのはずなのに心臓がバクバクしてきた。服もいつもと違うし、前より本格的にデートって感じがして、なんかこう、緊張してきちゃうな。


「今日はどこに行くの?」

「あの、ラウンド2に。ボウリングとか、カラオケとか、ゲーセンもあるし」

「え! あのCMでやってるとこ!?」


 わ! 私行ったことない! CMだと高校生か大学生くらいの人たちが遊んでるめっちゃ楽しそうなやつだよね!

 思わず興奮してしまう私に、理沙ちゃんは戸惑ったように身を引いてちょっと肘をあげながら頷く。


「う、うん。そう。私も子供の時以来だから、あんまり詳しくないんだけど。今いったやつくらいならできるし」


 確かもっといっぱい色んなものがあるっぽいけど。でも、カラオケも行ったことないし、とりあえずそれでも楽しそう。今日一日で全部とか無理だし、うん、十分だよね。


「それでもいいよっ。楽しみ!」

「よかった。じゃあ、行こう」


 理沙ちゃんはほっとしたように肘を下した。そして家を出て駅に向かう。電車にのって向かう。先日のデートで行ったモールから直行バスが出ていて、さらに10分ほど行ったところに目的地はあるらしい。

 ちょっと遠いところにあるみたいだ。デートだから遠出もするのだと思うと、理沙ちゃんとの恋人ごっこも捨てたものじゃない。


「ねえ理沙ちゃん、何からするの?」

「えっと、まずボウリング、どうかな。お昼までの腹ごなしも兼ねて」

「いいね。やったことないから教えてね。あ、てか、スカートでもできる? 大丈夫?」


 考えたら運動するなら、それを考えて服装を考えた方がよかったのでは!? と今更焦ってきた私に、理沙ちゃんは慌てずに答える。


「えっと、春ちゃんのは普通に裾が長いんだし、大丈夫だと思うよ? 大股で歩くくらいは動けるよね?」

「まあできるけど。あ、靴は? 革靴ではないけど、運動靴じゃないんだけど」

「大丈夫。ボウリングは専用の靴を借りるから」

「そうなんだ!?」


 知らなかった。靴を借りるスポーツってなにそれ。わー、なんだか、すごいわくわくしてきた!


 私は理沙ちゃんにボウリングについて色々聞いていると移動時間も瞬く間にすぎ、私たちは目的地に到着した。朝一番と言ってもいいくらいの時間だけど、休日と言うのもあって半分くらいのレーンが埋まっていた。


 靴はちょっと見た目はダサい感じだけど、みんな履いてるんだから仕方ない。理沙ちゃんと一緒に球を選ぶ。重そうな球の方がいっぱい倒せそうな気もするけど、コントロールできないとガーターになると言われたので、普通に持てそうなので我慢する。

 色んな色があって綺麗なので迷ったけど、青い惑星みたいなやつにした。理沙ちゃんは大人なので私より重くて黒くて可愛くないやつだ。


「名前いれるね。とりあえず普通に対戦する形で」


 経験があるだけあって、機械の操作もスムーズに理沙ちゃんがしてくれた。基本用語はバスで聞いたし、スマホでも見せてもらったけど、実際に見ると雰囲気がある。

 先に理沙ちゃんがまず投げた。球は軽く曲がりつつ7本を倒した。二回目では一本だけ倒して8本で終わった。


「よーし」


 ついに私の番だ! しっかり靴紐を結びなおして、球を持つ、前にちょっとレーンに向かって投げる練習をちょっとしてみる。全体を見た時から広いと思っていたけど、前に立つとそれ以上にピンまで遠く感じる。


「ふん!」


 私の手から飛び出した球はいきおいよく走り出し、真ん中ぐらいからガターに突っ込んだ。


「あれ?」


 な、なんであんな急に曲がっちゃったの? 戻ってくる球を迎えに行き、撫でながらレーンをにらむ。むむ。思ったより難しそう。理沙ちゃんが自然体に投げてたし、どこに当たるかはともかくまっすぐは進むと思ってた。理沙ちゃん意外と運動神経いいのかな?


「春ちゃん、ちょっと、いい?」

「うん?」

「あのね、多分曲がったのは、ボールを離した時に手首がぶれたからだと思う。だから、さっき見た動画のポーズにこだわらずに、腕を振ってまっすぐに投げる練習からしてみたらどうかな」


 理沙ちゃんはそう言いながら私の肩をおすようにして、投球位置に立たせた。


「まっすぐ見て。足元のやじるしが目印だから、ここを球が通るように、ひとつ左に右足を合わせて」


 言われたとおり足元をみると、三角のマークがたくさんあった。中央の大き目なのがそうなんだろう。そう言えば動画でも書いてあったね。忘れてた。


「下見るのは最初だけでいいよ。位置をあわせたら、前を見て。腕を振って球は指先から滑っていくくらいで一回してみよう」

「う、うん」


 特に触れられてるわけじゃないけど、周りが騒がしいので理沙ちゃんは私の顔のすぐ横に顔を寄せて話してくるので、ちょっとどぎまぎしてしまう。助走をつけると力がはいりすぎてしまうし、とりあえずどう投げればどう進むのか見るために、一度助走をつけずにその場で腰を少し落として腕を振って離した。


「あっ」


 二回振ってから離したのだけど、思った以上にすっとすっぽ抜けるかのように抜けてしまって思わず声が出た。


「あっ、や、やった!」


 だけど私の予想に反して球は勢いを失うことなく、さっきに比べてずいぶんまっすぐ進んで先頭には当たらなかったけどちゃんとピンに当たって、最終的には四本が倒れた。


「理沙ちゃん見た!?」

「うん。見たよ。よくできたね。今くらいの力加減と方向を意識して、次はさっきみたいに助走つけてみよう」

「うん! ありがとう理沙ちゃん!」


 それから私は理沙ちゃんと一緒にお昼までボウリングを楽しんで、なんとストライクだって二回もとれるようになった!


「ボウリングって楽しいね」

「うん。春ちゃんが気に入ってくれて、よかった」


 理沙ちゃんはそう言って微笑んだ。その途端、はしゃいでいた自分が何だか少し恥ずかしくなってしまう。デートなのに、これじゃあ人から見たら私と理沙ちゃん、ただの子供と保護者だよね。

 いや、それで駄目ってことないし、人から見てデートってわかっちゃったら、理沙ちゃん犯罪者って思われちゃうし、むしろいいんだけど。うう。


「あれ? カラオケ? ご飯じゃないの?」

「カラオケの中で頼めるから」

「そんなの有りなの!?」


 理沙ちゃんの後ろについていくままカラオケの部屋にはいる。中は少し薄暗いイメージだったけど、理沙ちゃんが照明をつけると普通に明るくなった。立派なソファに、大きなテレビ。こう言う感じなんだ。


「先にご飯にしよう。好きなのを選んで」

「う、うん。わ、こんなにあるんだ」


 理沙ちゃんはタブレットみたいなのを操作しながら、私にメニュー表を渡してくれた。大き目の見開きのメニュー表で、ファミレスみたいだ。サイドメニューが多い感じだけど、サラダやご飯、ピザにラーメンとかメインもいっぱある。


「ううん。どうしよう」

「最近のはどれもそこそこ美味しい、らしいよ」

「そうなんだ。うーん、じゃあ、パスタにしようかな」


 理沙ちゃんがタッチパネルで注文してくれた。それを待ってる間に、ドリンクバー形式と言うことなので一緒に飲み物をとりにいった。これはファミレスでやったことあるけど、わくわくするよね。


 部屋に戻って喉をうるおし、別のタッチパネルの機械で曲の入れ方を理沙ちゃんに教わっているとすぐに料理が来た。早いなぁと思ったけど、冷凍だからじゃないとか言われた。そうだったのか。

 ちょっとがっかり、と思ったけど、思った以上に美味しかった。冷凍食品ってこんなに美味しいんだ!? うーん、なんかちょっと悔しいかも。帰ったらパスタつくってみよ。


「じゃあ、歌ってもいい?」

「うん、どうぞ」


 食後、早速理沙ちゃんに確認しつつ歌ってみた。学校の授業以外でまともに人前で歌うなんて初めてだ。鼻歌くらいは家でもあるけど、それだって理沙ちゃんの近くでってなったら恥ずかしいからやめるし。


 ちょっと音程外してしまった。次は理沙ちゃんの番だ。理沙ちゃんは自分から積極的にカラオケに来たくせにちょっとためらっていたし、歌いだしたら私と同じ感じでちょっと音程外した。思わず歌い終わってから顔を見合わせて笑ってしまった。

 何曲か歌うと喉も馴染んで、楽しく歌うことができた。大きな声で歌うと、楽しい以上になんだか気持ちよくてすっきりした。


「春ちゃん、歌うまいね」

「え、そ、そうかな?」

「うん。春ちゃんの歌は、聞いてて楽しい」


 なんだかうまく乗せられてしまった気がするけど、後半私ばっかり歌ってしまった。でも楽しかった! ご飯も込みで三時間。最後は疲れたから歌わずに、デザートのパフェを食べてからカラオケを出た。

 カラオケは座っていたのもあって体力はまだあるけど、もう15時過ぎだ。そのまま帰るには早い気もするけど、今からまた何かスポーツとなるとそこまでやる気は出ない。朝のボウリングの疲れも来てる気がするし。


「理沙ちゃん、これからどうするの?」

「最後にゲームセンターに行こうと思うんだけど。この下で」

「ゲームセンター! クレーンもある? 私あれ好き」

「うん。あるよ」

「やった!」


 ゲームセンター! それなら体力をつかうのでもないし、何よりめっちゃやりたい! 何回かしたことあるけど、ほんとに一回二回とかだから全然とれたことない。でもじっくり、千円くらい頑張ればきっととれるはずだ!

 私は理沙ちゃんの背中を押して急かすようにゲームセンターに向かった。

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