初デート2

 理沙ちゃんとの初デート。目的地のモールについた私たちはぎこちなくも一緒に中を回りだした。最初こそ落ち着かなかったけど、普段行かないいろんなお店を見て回っていると、段々テンションも上がって普通に楽しくなっていった。


「ねぇねぇ理沙ちゃん、この服可愛くない? どう?」

「うん、可愛い。えっと、試着してみたら、いいんじゃないかな」

「うん! 待っててね。どっか行ったら駄目だからね」

「わかった。待ってる」


 近場にはない有名なチェーン店は買ってもらうのにそんなに抵抗がないくらいのお値段で、かつ可愛いデザインなのですぐに気に入ったのが見つかった。このジャンパースカートとか、子供サイズだけど大人っぽい。下のシャツは手持ちのでも良さそうだし。

 と思ってルンルンで着てみたけど、マネキンが来てるのよりちょっと丈長い感じするなぁ。台にのってるからわからなかったけど私より大きいやつだったのか。私、クラスでも小さい方だし。むぅ。


 でもちょっと雰囲気は違うけど、これはこれでいい感じじゃないかな? ミニまでいかないけど膝上だし、ウエスト位置ちょっと下がってもそこまで違和感もないし。一回理沙ちゃんに見てもらおう。


「お待たせー、どう?」

「あ、に、似合ってる、よ」

「ほんと?」


 試着室のカーテンを開けて前の理沙ちゃんに見せると、ちょっとにやけた感じで褒めれた。こういう服、理沙ちゃんの好みなのかな?

 もう一度ふり向いて鏡に自分を映しながらスカートを裾を持って体をひねって確認してみる。鏡越しに理沙ちゃんと目があると嬉しそうに微笑まれた。うん、いい感じだし、スポンサーがお気に入りならこれでいいか。


「じゃあこれにしよっかなー。ジャケットも合わせて買ったら涼しい日でもいけるだろうし」

「うん、うん。いいと思う。あと、靴とかも合わせるんだよね? トータルコーディネートって、私はよく知らないんだけど」

「んー、でも靴は別に、スニーカーでもいいし」


 理沙ちゃんオシャレ興味なさそうだったけど、そう言うワードは知ってるんだ。私もそんな知らないし、何となく全体の雰囲気で合わせるって感じに思ってるけど。スニーカーは三足あるけど、うち一足はまだまだ綺麗で色味的にもこの服に合うからちょうどいいかな。ローファーは固いから、デートには向かないし。

 そもそもさすがに靴まで買うとちょっと高い。ジャケットも買ってもらうと一万円くらいになるだろうし。


「そう? いいならいいけど。そのワンピース、みたいなのは買うとして、他、ズボンとか、普通のスカートとか、なんでも似合いそうだよね。もっと試着してみようよ」

「え?」


 理沙ちゃんを振り向くと、いつになく機嫌よさそうに理沙ちゃんは試着室の前の商品を適当に手に取っている。そのスカートはちょっと、中学年向けかな。私もう高学年だし。でもそれはともかく、なんか普通に他のも試着って、他のも買うみたいな流れになってる?


「他にも買ってくれるってこと?」

「うん? うん、いくらでもいいけど、一応、私の手で持てるくらいにしてもらえると助かる、かな」

「そんな、いや、これとジャケットだけでも一万円くらいでしょ? ワンセットあれば多少着回しもきくし、十分だと思うけど」

「……春ちゃん、あのね」

「ん?」


 私のちょっと図々しい問いかけに理沙ちゃんはちょっと不思議そうにしながらとんでもないことを言う。理沙ちゃんが持てるくらいって。いくら理沙ちゃんがひ弱って言っても大人で私より力持ちだし、服だけなら何着ってなっちゃうよ。

 だからちょっと呆れながら遠慮したら、何だか理沙ちゃんは急に真面目な顔になって手に取ったスカートはそのままに私に近寄り、試着室のふちに手をついて顔を寄せてきた。


「その、私が、春ちゃんと、デートしたいんだし、その時、いろんな可愛い春ちゃんが見たいし、その、だから、いっぱい、服を買ってほしい。お願い」


 少し顔を赤くしながら、理沙ちゃんはそう言った。その声音は大真面目そのもので、本気で思って言ってるのが伝わってきて、胸が熱くなる。

 理沙ちゃんなのに、ちょっとだけ、かっこいいと思ってしまった。だって、私が買ってもらって、私が嬉しいのに。理沙ちゃんが見たいからとか、そんな風に言ってくれるなんて。なんかもう、買ってもらわなくてもそれだけで嬉しいし、あー、なんか、もう、好きになっちゃいそう。いやまあ、普通には好きだけどさぁ。


「わ、わかった。じゃあ、えっと、私こそ、買ってもらえるの嬉しいし。その、ありがとう」

「うん。疲れるかも、だけど。いっぱい選んで」


 いっぱい試着したし、いっぱい買った。私のだけで満足しそうな理沙ちゃんに、ちゃんと理沙ちゃんの服も選んだ。自分のをどんどん買ったので感覚がマヒした私は理沙ちゃんのもばんばん選んでしまった。

 服の値札を見るのが怖かったからしなかったけど、でも、多分これ二ケタは買ってるよね。理沙ちゃん、いくらお金あるって言っても大丈夫なのかな。でも大人にお金の心配するのって失礼だし。うん、理沙ちゃん満足そうだし、考えないことにしておこう。

 あと、値段は聞かないようにしつつ、ちょっと見てしまったのだけど、理沙ちゃん、レジでの買い物は一応できると思ってたけど、一言も話さないんだなぁ。ポイントカードの有無まで首ふりだけで答えるって。


 いっぱい買ったので、お昼を食べる時間を結構回ってしまったけど、喫茶店の予定を削ればいいかなってことで昼食をとりながら。お昼を食べてから、一旦荷物をロッカーに預けて、映画をみることになった。


「映画、何がいい?」

「あ、今から選べるんだ」


 映画って、事前に予約してチケットを買っておくものだと思ったので、映画館フロアについてからそう聞かれてびっくりした。慌てないから時間は大丈夫なんだろうなとは思ってたけど、そんな急に、今日言って今日買えるんだ。


「理沙ちゃんは見たいのないの?」

「えっと、恐いの以外なら、春ちゃんが見たいのならなんでもいいよ」

「ホラーは私も嫌だから大丈夫だよ」


 家でも絶対ホラー系見てないし、間違ってついたらすぐ変えてるから気付かれてると思ってた。逆に理沙ちゃんは自分でテレビつけることないから、理沙ちゃんが苦手なのは知らなかったけど。やっぱり従姉妹だし似てるところもあるんだなぁ。ちょっと嬉しいかも。

 でも映画か。折角大画面で見るんだから、こう、アクションが派手なやつの方がいいのかな? そもそも今何してるんだろう。映画を見るの今日知ったから全然何やってるか知らない。


 ドラマとかあんまり見ないし、アニメも知っててよさそうなのないなぁ。もうプリキュア見る年じゃないから去年から見てないし、ジブリの新しいのはまだだし、他はオリジナルなのかな? 見たことないのばっかり。

 アクションは好きだけど、あんまり血が出たりするのは嫌だし、折角お金払ってるなら途中でやめたくない。やっぱりアニメが無難かな? 恋愛映画はちょっとね、理沙ちゃんと見るのは気まずいし。

 あ、女の子二人がポスターにのっててスポーツものっぽいのがあるし、あれでいいかな。絵も可愛いし。


「理沙ちゃん、あれはどうかな? あの、テニスっぽい、線の向こうへって言うやつ」

「あ……えっと、あれ、どういう話か知ってる?」

「え? 知らないけど、スポーツものだよね? 恐いのとかよくわからないのとか避けたら、アニメがいいかなって思ったんだけど。あれって何かの続編だったりする?」

「そう言うわけではないけど」

「普通のっぽいけど、駄目なの? ていうか駄目なら他の何がいいか言ってよ」

「あ、ごめ、だ、駄目ってことじゃないよ、うん。じゃあ、これで買ってくるから待ってて」


 私に何でもいいと振っておいてなんだか煮え切らない微妙な態度をとる理沙ちゃんにいらっとしてしまったのがわかったのか、理沙ちゃんは慌てて券売機に買いに行った。

 そこまでビビらなくてもいいんだけど。そんなに私怖いかな? なんかなー。理沙ちゃんが人見知りの怖がりなのは知ってるけど、私にはビビらなくてよくない?


「お待たせ。あの、ちょうど15分後であったよ。えっと、ポップコーンとか、買おう?」

「うん。ありがとう。ところで理沙ちゃん、私そんな怖い? ちょっとイラッとしたけどさぁ。別に、それで怒鳴ったりとか嫌になったりとかしないじゃん?」

「そ、それはそうだけど。その、春ちゃんには、絶対嫌われたくないから……」

「あー、うん、まあ、そんな簡単に嫌いにならないからさ」


 そんなに私、信頼されてないのかな。と思ったけど、どうも私のことが好きだからこその態度だったらしい。そう言われると複雑だ。あと理沙ちゃん的には、小学生に告白するのは嫌われる心配はないらしいのもちょっと複雑。私だからいいけど、場合によっては変態じゃんってその時点で引くと思うよ?


「ふひ、う、うん。わかった。その、気を付けるよ」


 今ちょっと笑ってなかった? いやまあいいけど。嫌いにならないって当たり前のことで、声でちゃうほど喜ぶって。好きって言ったらどんな反応するんだろ。まあ、そんな簡単には言ってあげないけど。


 ポップコーンはSサイズで、飲み物はコーラ。美味しそうなキャラメルの匂いにつまんでしまいながら、シアターの中に向かう。

 席に着くと普通にいい席だ。他の人もまばらだし、あんまり人気のないやつだったのか。理沙ちゃん、面白くないって知ってたからあの反応だったのかな? うーん、でも他に良さそうなのわからなかったし、それこそ詳しいなら面白そうなのをプレゼンしてくれたらよかったんだし、面白くなくて無駄になったとしても、私悪くないもん。

 でもとりあえず、どんなに面白くなくてもお金出してもらってるんだから絶対寝たりしないよう集中しよう。と心に決めて私は上映を迎えた。


「……」


 いや、ええ? なに、この、主役の二人がテニスのペアを組んで最初衝突しつつ仲直りして絆をはぐくんで上達して大会を目指すって言うのはわかる。ついつい応援したくなる。でも、いや、急に恋愛要素入ってきたね。まさかこの二人が恋人になるなんて。

 あ、ちゅーした! あわわ。女の子同士のやつとか聞いてない。まさか理沙ちゃんとこんなの見るなんて。


 ちらっと理沙ちゃんを見る。


「……」


 あれ? 理沙ちゃんは予想と違って照れることもなく、ぼーっとしたともとれる無表情に近い感じで普通にポップコーン食べながら映画を見ていた。あれれ? これ見て、女の子同士だし、仮にも私たちも女同士で恋人関係だし、重ね合わせて意識してるの私だけ? むむむ。なんかちょっと、むかつく。


 映画に視線を戻すと二人ははにかみながらもう一回キスして、大会優勝を誓いあった。

 ……女の子同士も結婚はできるんだよね。だからって周りの人は普通男女で結婚してるし、お父さんとお母さんはもちろん、理沙ちゃんの両親もそうだ。だから私がそうとか考えたことないし、理沙ちゃんだって、多分こんなの勘違いだ。だから本気になっちゃいけない。私はまだ、小学生なんだから。

 でもちょっとだけ、大真面目に思いを伝えあって信頼し合ってるこの映画は、ちょっとだけ、いいなって思った。

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