初デート
理沙ちゃんと、デートをすることになった。なったって言うか、何か今思ったら、私からねだったみたいじゃない? 恥ずかしくなってきた。
でも、デートだ。理沙ちゃん相手とは言え、私の人生初デートだ。緊張する。理沙ちゃんの家に引っ越して来るときに衣類減らしたし、元々家族でお出かけとか遠出しなかったから、お出かけ用の普段着じゃない可愛い服とかあんまりない。
「……うーん」
唯一持ってるのは、親族の集まりの時用の正装として買ってもらったワンピースドレス? みたいなのだ。もうちょっと成長しても着れるよう、サイズ調整がきくウエストにリボンがあって、ノースリーブで、全体がシルバーグレーって感じの大人っぽい色で、裾から裏地のフリルがちょっと見えてるのとか、白いジャケットもあって、シンプルな感じで可愛さと大人っぽい格好いい感じして、すごい可愛い。気に入ってるし、買ってもらったときすごいテンションあがった。
でも、可愛いけど……こんなの街中で着てる人いないよね? これ、デート用ではないもんね。えー、どうしよう。
デートが決まってから数日。毎日私用の箪笥をひっくり返す勢いで、色んな組み合わせで考えてみたりしたけど、手持ちではこれで理想のデート服! みたいにはならなかった。
私はため息をついて服を片づけてから、そっと寝室を出て理沙ちゃんの隣に座る。理沙ちゃんは私を見ることもなく集中してお仕事をしている。
「あのさ、理沙ちゃん」
「なに?」
「明日のデート、なんだけどさ」
声をかけるとそれだけで手をとめて、ちゃんとこっちに向いてくれる理沙ちゃん。とても言いにくい。だってもう明日だし、今日は土曜日だしまだお昼過ぎだから、その気になればまだ買いに行けるけど、一緒に住んでからもらってるお小遣いを貯めてるとはいってもまだ一式そろえられるほどではない。
でもよく考えたら私がどんなに頑張っても小学生だし、理沙ちゃんと全然雰囲気違ったら意味ない。だから普通に、どんな感じの服がいいか理沙ちゃんに相談することにした。
「……なに?」
「あの、楽しみにしてるとか、偉そうに言っちゃったけど……その、私、デートっぽい服、持ってないの。ごめんね。どの服がいいか、理沙ちゃん、一緒に見てくれないかな? あ、もちろんお仕事終わった後でいいし」
「あ、あー……別に、いつもの服で、似合ってると思う。というか、あの、デート、買い物もするから、その、その時に買うし、あの、私の服もだし、えっと、一緒に、買おうよ」
「あ、そうなの? デートの服を買いに行くデート、みたいな感じ?」
「まあ」
それってデートなのかな? と一瞬思ったけど、でも普段の買い物とはやっぱり全然違うし、デートか。私もだけど理沙ちゃんも初めてのデートなんだろうし、お互い初心者なんだからそれでいいのかな。ちょっとほっとした。
「わかった。よかった、理沙ちゃんに相談して。じゃあ朝は普通にいつものかっこでいいんだね」
「うん……私も、いつもの服、着るから」
「うん。ごめんね、お仕事の邪魔して」
「ううん。その、気になること、あったら、いつでも言って、ね」
それにしても、理沙ちゃんのデート服か。自分のことばっかりで想像してなかったけど、どんな服を買うんだろう。理沙ちゃんいっつもシンプルって言うか、無地のシャツとズボンばっかりだもんね。
背もあるし痩せてるし、スタイルいいんじゃないかな。意外と何でも似合いそう。そっか。理沙ちゃんに好きな服着せられるんだ。楽しみかも。
○
と言う訳で、ついに理沙ちゃんとの初デートの日がやってきた。ちょっと緊張いしていつもより早く目が覚めてしまった。
「理沙ちゃーん? 朝だよー、起きてー」
「んっ、うん。お、起きたよ」
いつも通り朝ごはんを作って声をかけると、理沙ちゃんはいつもよりすんなり起きてきた。理沙ちゃんも緊張してるのかな?
まあ、そうに決まってるか。昨日まではいつも通りっぽかったけど、理沙ちゃんだって私が初めての恋人で初めてのデートなんだし。なんなら友達だって私が初めてで遊びに行くのだって私としかないんだから。うん、考えたら理沙ちゃんの方が大変だよね。
私は冷静になって、理沙ちゃんをちゃんとさりげなくひっぱってあげないと駄目だもんね。理沙ちゃんなりに年上としてちょっとはプライドあるだろうし、さりげなくしないと。うん。頑張ろ。
朝ごはんとかいろいろ済ませて、ようやく約束したデートの時間になった。と言うか、10時からなのだけど9時半から用意はできていたのですごくそわそわしてしまった。
「……あの、春ちゃん、そろそろ、その、行こうか」
それは理沙ちゃんも同じだった。私はソファに座って見る気もないテレビをつけてたし、理沙ちゃんはうろうろと私の視界にはいらないようソファの後ろ側を歩き回っていて、55分になるや否やそう声をかけてきた。
「う、うん。そだね。行こっか」
いつもの服装だ。普段買い出しに行くのと同じ。服を買いにいくから着替えやすいように、Tシャツの上は前開きのニットベストで下はジーンズ。毛玉があるほど古くはないけど、新品でもない普段着用。理沙ちゃんは服装に無頓着なので似たような無地のシャツやワイシャツをたくさんもってて、今日もジーンズに白のワイシャツだ。
理沙ちゃんと家を出る。理沙ちゃんが鍵をかけて、並んで、ちょっとだけ理沙ちゃんが前で歩く。いつも通りだ。いつもより近いこともなく、むしろいつもより無口で、全然デート感はない。
なのに不思議と、デートなんだって意識してしまう。ちょっとだけ緊張する。ちらっと理沙ちゃんを見ると、あわてて目をそらされた。別に目があってもいいと思うけど。
「ねぇ理沙ちゃん、服ってどこに買いにいくの? そろそろ全体の予定も知りたいんだけど」
「えっと、3駅先のモールで服を買って、お昼で、映画で、喫茶店で、あとはその、適当にお店をまわる、という感じ、なんだけど……ご、ごめんね。全然、特別じゃないよね」
「え? なんで謝るの? 普通にいいと思うけど。デートっぽいじゃん。映画とか久しぶりだし。高いからあんま自分から行こうってならないし、いいと思うよ」
むしろすごい、デートっぽいしわくわくしてくる。こう言う機会でもないと映画見ないし。あ、でも服買ったら映画のお金あるかな。一応多く下ろしたけど、一万円で足りるかな……?
「ほ、ほんと? なら、よかった」
「うん、でも私、今日一万円しか持ってきてないから、もし足りなかったら貸してね」
「え、あ、あの、春ちゃん」
「ん?」
歩きながら話していたのに、急に理沙ちゃんは立ち止まった。振り向くと理沙ちゃんはちょっともじもじしながら自分の肩掛けバッグの紐をぎゅっと握って口を開いた。
「あのね、その、お金、なんだけど……私、全部だすから、気にしないで、いい、よ?」
「え? 全部?」
「うん、その、デートだから」
デートだから。まあ、デートだけど。
「そう言うものなの?」
「うん、そう言うものだから」
うーん? 別に、割り勘とかもおかしくないって思うけど。でも理沙ちゃんが言うならそうなのかな? 年上だし、お金には困ってないんだし、まあ、いいか。
ちょっと申し訳ない気もするけど。でも理沙ちゃんは保護者でもあるんだし、服を買ってもらうお金をだしてもらうのはありかな。
「じゃあ、今日はお願いします」
「うん。あの、任せて。えっと、じゃあ、行こう」
改めて歩き出す。こういう風に言うってことは、理沙ちゃん結構お金持ってきてるんだろうし、いっぱい服買ってくれるってことなんだろうな。考えたらデートって、言っても今回こっきりじゃなくてこれから何回もするんだろうし、一着だけってちょっと寂しいもんね。
同じ家だからこそ、同じ服ばっかり着てるのすぐわかるし。理沙ちゃんは……理沙ちゃんも服買ってくれるんだったね。よし。じゃあいい感じのやつ買わなきゃ。
最寄り駅で電車に乗る。理沙ちゃんは吊革にもつかまらずにドアからすぐ近くの席の前にたった。その隣に立って理沙ちゃんを見上げる。こうして隣に立ってまじまじ見ると、やっぱり理沙ちゃん、結構背が高いよね。吊革に頭あたりそうだもん。お母さんは小さかったし、私もクラスで前の方だから大きくなっても勝てなさそうだなぁ。
「ん? なに?」
「ん、別に。モールでって言っても、どのお店から行くとかある?」
「えっと、決めてない。春ちゃん、お店とか詳しい?」
「モール自体、あんまり行かないから。じゃあ、端から見ていってもいい?」
「うん。春ちゃんの、その、好きなお店とか、あるといいね」
ほんのり微笑んでそう言われた。なんか理沙ちゃんらしくないって言うか、普通に大人みたいな感じで、思わずドキッとしてしまって誤魔化すように理沙ちゃんから顔をそらした。
いや、冷静になろう、私。大人だからドキッとするとかおかしいでしょ。だって別に、理沙ちゃんは理沙ちゃんだし、別に理沙ちゃんがそう言う感じに気遣ってくれるのも前からあるはある。理沙ちゃんは基本的には優しいし、私優先で考えてくれるとこもあるんだから。
ただ、理沙ちゃんが私を好きで、恋人同士だから変に反応しちゃってるだけだ。だから落ち着け私。理沙ちゃんが私を好きなのも、私が理沙ちゃんを好きなのも、前からだ。この位、なんでもないやり取りなんだ。
そう思っても、一回変になってしまった私の心臓は中々大人しくなってくれなくて、私はそのまま駅に着くまで黙って窓の外を見ていた。
到着駅までほんの数駅、距離にしたって頑張れば自転車で行ける距離だ。だけど全然違う街みたいに雰囲気が違う。人通りも騒がしさも。理沙ちゃんの家だって私の家とは少し離れているけど、同じ学区なのでそんなに変わらない。行きつけ最寄りのスーパーも違うけど、行ったことないスーパーって程遠くもない。
でもこの辺りは大きなお店やたくさんのお店がたくさんひしめき合っていて、ちょっと落ち着かないくらいだ。楽しさで浮足立っているような、でもちょっと不安さもあって恐いような、そんな気になる。
モールは駅直結だけど、改札を通ってから少しだけ歩く。駅はたくさんの線が交差しているので乗り換えの為にすごく足早で歩いている大人がたくさんいる。ぶつからないように注意して歩く。
「春ちゃん」
「あ、ありがと、理沙ちゃん」
後ろから来た男の人に気付かずに体がふわっと左に揺れたところで、理沙ちゃんが私の左二の腕をつかんで引き寄せた。右肩に理沙ちゃんの体があたる。何だか理沙ちゃんの手が熱くて、変に緊張してしまう。
「う、うん。危ないし、その、はぐれないよう、服、つかんでいい?」
「え? あ、うん」
理沙ちゃんは私が頷くとちょっと恥ずかしそうにはにかみながら、そっと私の右ひじのあたりの服をつまんだ。
こういうのって、普通は私が理沙ちゃんの方をつかむのでは? と思ったけど、用途的にはどっちでも同じだし、なんか恥ずかしくてそれについて何にも言えなくて、私は何も言わずに一緒に目的地まで歩いた。
歩くたびに意識せずに揺れる私の腕が少し引っ張られて、それが理沙ちゃんの手で、つながってるんだって意識させられて、ちょっとだけ、恋人らしさにドキドキした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます