第十六力 複合力①

 長かった夏休みも終わり、善助は受験勉強を始めて土日も家にいることが多くなった。


 中高一貫校のため、中学3年生だが高校受験のない優子は気楽なもので、夏休みにアイスを食べ過ぎたとのことで、夕方になると近くの河川敷にジョギングに出かけるようになった。


 まだまだ日が沈むのが早くなったわけでもなかったが、優子のジョギングにはいつも家族の誰かが付き添った。


 その日は、受験勉強の息抜きに善助も一緒に走ることにした。




 全長3キロのジョギングコースの折り返し地点付近には人影も少なく、自動販売機横のベンチでおじさんが一人休憩しているだけだった。


 善助と優子が折り返して戻ろうとすると、目の前に真っ黒い服に真っ黒いズボンを履いた男が立っていた。


 顔の下半分はマスクで隠れていて、足には丈夫そうなブーツを履いていた。




 「止まれ!」と男は言った。


 (うわっ、あれ絶対やばい人だよ!無視して通り過ぎよう。)と優子がひそひそと善助に言った。


 ジョギングコースのど真ん中に仁王立ちの男を、善助と優子は二手に分かれて通り過ぎた。


 二人が通り過ぎると、後ろから「おい!こいつがどうなってもいいのか?」と男が言った。


 善助と優子が仕方なく振り返ると、いつの間にか男は自動販売機横のベンチに座っていたおじさんの首をつかんで、ジョギングコースの真ん中に立っていた。


 おじさんは苦しそうにもがいている。




 「おいっ!その人を放せ!」と善助が叫んだ。


 「出たよ出たよ、やっぱりだ。平和ボケしてこんな監視カメラのないとこまでのこのこやってきたと思えば、赤の他人を救おうってヒーロー気取りかよ。」と男は言った。


 善助がおじさんを助けようと走り出そうとした時、優子が(お兄ちゃん、なんかあの人やばいよ、気を付けて。)と言った。


 善助は軽く頷いて、男に向かって『ダッシュ』した。

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