第十五力 表現力②

 もうすぐ夏休みも終わろうとしていたが、キャンプに行って以来、中里家では優子の能力を覚醒させようと連日盛り上がっていた。


 はじめは声を真似ることができるだけかと思われたが、声を真似る際に首から口元にかけての外観も、声を真似る対象に似ることに優里が気付き、もしかすると優子の能力は、首から上の筋肉を自由に変形させられるのではないかという話になっていた。




 善一郎は図書館から借りてきた人体構造の本で、首から上にはどのような筋肉があり、どの筋肉がどこを動かしているのかを、夜遅くまで優子と一緒に勉強した。


 善助はその内容を、優子の夏休みの自由研究としてレポートにまとめてやった。




 ☆☆☆




 影仁と貞影は、次の仕事場になる現場周辺の防犯カメラの位置を確かめて地図上にマークすると、屋敷に戻る前にいつもの定食屋に晩飯に寄った。


 特にその定食屋が好きなわけではなかったが、その定食屋には一度も防犯カメラに映ることなく行き来できるルートがあった。




 「オヤジからは、まだ中里家の調査を頼まれてるのか?」と影仁が聞いた。


 「いや、今は黒飛の実家の方を調べてるけど、あっちは全員能力が分かってるから、調査って言っても妙な動きがないか見張ってるだけだけどな。」と貞影が言った。


 「そうか。」と影仁が言うと、貞影は「アニキは、本当はどう思ってるんだ?」と聞いた。


 「中里の善助は、アニキと同い年だぞ? アニキは今までに何人殺した?あっちは毎日学校に通って、友達がいて、コンサートに行って、旅行に行って・・・。ひがみなのは分かってる。でもオレはあいつらを監視する度にイラつくし、あいつらを殺せたら絶対スカッとすると思うんだ。」と貞影は言った。


 「でも、それでお前の生活が何か変わるのか?」と影仁は言った。


 「変わらなくても、あいつらがこの世からいなくなるだけで気分は晴れるね。」と貞影は言った。


 「そんなものか、でも勝手に動くなよ。オヤジの命令だ。」と影仁は運ばれてきた定食に手を合わせながら言った。




 貞影は影仁のマネをして食事に手を合わせると、白米を口に運んで言った。


 「オヤジからは、遅かれ早かれ暗殺命令が出ると踏んでる。それも、オレにだ。オヤジは、オレが調査を繰り返してムカつきがピークまで来てるのを知ってるし、オレ達兄弟の能力は万能だ。オレ一人で十分やれる。」


 「いつも言ってるだろ、オレ達の能力は品種改良みたいなもんだ。過信するな。五体全部の能力は覚醒できてても、パーツだけで見れば特化型の方が勝るとオレは思ってる。」と影仁が言った。


 「分かってるよ。相手がパワー型ならスピードに、スピード型ならパワー勝負に持ち込め、だろ?」と貞影は言った。


 「もう一つ重要なことを忘れるな。やつらは自分の能力を捨てても家族を守ろうとする。そこを上手く突け。相手を知るための調査はじっくり、実行は手早くだ。」と影仁は付け加えた。

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