第十四力 表現力①

 次の日は、待ちに待ったパラグライダーに乗る日だったが、優子は昨日の夜、善一郎と優里の話を聞いてから、自分にも何か特殊な能力があるのかに興味が移った様子で、朝からずっと優里にどうやって能力を発見するのかと質問を繰り返していた。




 「じゃあ優子は、何か人より得意なものがある?」と優里は聞いた。


 「得意なものかぁ・・・。足は速くも遅くもないし、こないだの体力テストもフツーだったし、勉強の成績もフツーだし・・・。うーん、全く思いつかない!」と優子は言った。


 「五感の方はどう?遠くのものが鮮明に見えたり、小さな音が聞こえたり、匂いに敏感だったりとかは?」と優里が聞いた。


 「特にないなぁ・・・。私って才能ないのかな?」と優子は言った。


 「まあ、特殊な能力なんて、なくて当たり前なんだから、生活に支障が出るわけでもないんだし、なくても落ち込まないでね。」と優里は、優子のヘルメットの紐を確認してあげながら言った。


 「あーぁ、つまんないの。私も欲しいんだけどなぁ、特殊能力。・・・モノマネとかだったら得意なのに。」と優子が言うと、優里は笑いながら、「はい、優子の番よ、楽しんでらっしゃい!」と言って、優子の背中を軽く叩いた。




 上空では、既にパラグライダーに乗っている善助が大声で騒いでいる。


 「すげーっ!おーい!母さん、向こうの方に羊が沢山いるよー!」と優里に向かって叫んだ。


 優里に送り出された優子は、パラグライダーの発射台に向かいながら、「『羊が沢山いるよー!』だって。」と善助のマネをして言った。


 優里は、優子のモノマネがあまりにも似ていたので驚いた。


 「優子、あなたもしかして・・・」と優里は言ったが、優子には聞こえず、パラグライダーで空に羽ばたいて行った。




 ☆☆☆




 白飛貞影は屋敷に戻ると、白飛家当主の正影に調査内容の報告をした。


 「今回も中里善一郎と優子の能力は不明。目の前にショベルカーが転がってる状況で、動いたのは優里と善助のみ。オレにはあとの二人は普通の人間に見えたね。」と貞影は、正影の前に現場の写真を並べて言った。


 「そうか。ところでこのショベルカーはお前が仕掛けたのか?」と正影は、写真に映ったショベルカーを指さして言った。


 「このくらいしないと能力の見極めなんてできないだろ?」と貞影は答えた。


 「あまり派手にやるな。死人が出たら上がうるさい。」と正影は言った。


 「でも、オヤジはいつか全滅させるためにあいつらの能力調べてるんだろ?!」と貞影が声を荒げると、正影の隣に立っていた兄の影仁が「落ち着け、貞影。」と静かに言った。




 「アニキはどうなんだよ?オレ達はこんな汚れ仕事ばっかしてびくびくしながら生きてんのに、あいつらは人殺しもせずに普通の人間のフリして社会に溶け込んでんだぞ!オレはぶっ潰してやりたいよ。妹の方が能力を覚醒する前の今なら楽にやれる。」と貞影は言った。


 「まあ落ち着け、黒飛の一族を調べてるのは、いつか脅威になった時にアドバンテージを取るための保険だ。勝手な行動はするなよ。」と正影は釘を刺した。




 影仁は、貞影が黒飛一族をひがむ気持ちは痛いほど理解できたが、何も言わず、正影の真意を探っていた。

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