第十力 考察力②

 「お父さんは昔、虚弱体質を治すために近所のレスリング教室に通っていてね。


 全く試合では勝てなかったけど、それでも好きだったから続けてたんだ。


 でも、そんな才能のなかったお父さんが、大学の3年になると試合に勝てるようになってきてね、というか、負けなくなったんだ。


 もし最後の大会に出てたら、優勝してたかも知れないくらいにね。


 でも、やめたんだ。


 なんでだと思う?


 それは、ある能力を手に入れてしまって、その能力を使って試合に勝つのが、なんかズルをしてるように思えてきたからなんだ。




 お父さんはお母さんと出会ってから、自分の能力について考えるようになって、もし自分にも何か能力があれば、お母さんを助けてあげられるんじゃないかって、2年間ずっとそれを探し続けたけど、見つからなかったんだ。


 で、ほとんど諦めかけてた時、お母さんのアドバイスから、お父さんの能力は身体的な能力じゃなくて、頭の中にあるんじゃないかって思ったんだ。


 そこからは、脳の構造、各器官の役割と繋がりを模型と映像で見て認識したり、自分の脳味噌の中を歩き回るイメージを繰り返して、各器官の中から見える景色を絵にかいてみたりしたんだ。


 そして、ついに見つけたんだ。」と言って、善一郎は家族の顔を見回した。




 善助と優子は、身じろぎもせずにじっと話の続きを待っている。


 優里だけが、おいしそうに焼けたジンギスカンをつまんでいた。


 善一郎は2本目のビールの缶を開けて、話の続きを始めた。

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