第八力 団結力
善助が高校生になって迎える2度目の夏休み、本格的な受験勉強に入る前に家族で旅行に行くことになった。
善助は海を主張したが、妹(優子)は高原でパラグライダーをしたいと譲らなかった。
厳正なるじゃんけん3本勝負の結果、高原に行くことに決まり、善助はリビングのソファーに倒れ込んで悔しがり、優子は早速パソコンでどこの高原にするか、鼻歌交じりで調べ始めた。
☆☆☆
優子の選んだ高原はオートキャンプ場で、善一郎の運転で向かった。
昼食は優里が作った弁当を車中で食べた。
車窓から流れる山並みを眺め、車内には優里の好きな荒井由実の音楽が流れ、善助と優子はタブレットでパラグライダーの乗り方を調べ、二人で手順を復唱しながらあーだこーだと話していた。
優里は荒井由実を口ずさみながら、いい旅行になりそうだなと思った。
前方に横転したショベルカーが道路を塞いでいるのを見るまでは・・・。
優里がショベルカーを目視してから、車が停止するまでおろらく1秒くらいだっただろう。
善一郎は車を止める否や、「優里さん!ショベルカーを手前に10メートル動かして!善助はショベルカーまで母さんを運んだら、ショベルカーの向こうにいる妊婦さんを100メートル前方に運べ!」と叫んだ。
「えっ?!えーっ?!」とうろたえる優子に、「優子はとりあえず落ち着いてそこに座ってればいいよ。」と善一郎は優しく言った。
車のドアを開けて出て行ったと思った兄の姿は見えなくなり、驚いたことにいつの間にか母はひとりで横転したショベルカーの横にいる。
「お母さん!何してんの!?危ないよー!」と叫ぶ優子を、「大丈夫、大丈夫だから。」と善一郎は一生懸命なだめた。
優子がハラハラしながら行く末を見つめていると、母はショベルカーの後方に回り込んだ。
すると、ショベルカーがズリズリと動き出し、こちらに向かって10メートルほど動いたところで止まった。
母がショベルカーの後方からまた姿を現わして、こちらにテケテケと走ってくるのを見ていたとき、車のドアが開いて兄が知らない女性を抱えて入ってきた。
「父さん、どうしよう。気絶してたから連れて来ちゃった。」と兄は言う。
ショベルカーから戻った母は「善一郎さん、あれくらいでいい?」と言う。
状況が飲み込めずに頭を抱える優子をしり目に、善一郎は、「二人とも良くやった!中に入ってドアを締めて。」と言った。
皆が黙って車内で待機していると、「ドドド―ッ」という音を立てて、先ほどまでショベルカーがあった場所に大きな岩が転げ落ちてきた。
車内の一同が「おおーっ!」と声を上げたとき、善助が連れて来た妊婦さんが目を覚ました。
善一郎は、優子に対して口の前に人差し指を当てるポーズをした。
優子は聞きたいことは一先ずお預けなのだと理解し、一人で頭を抱えて唸った。
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