第三力 走力③
1周目のラップは、およそ14分だった。
2周目を走りながら、14分ではちょっとタイムが遅いと思った。
マラソンのトップ選手のスピードと張り合うつもりはなかったが、これは自分の限界を知るテストなのでちゃんとやろうと思ったのだ。
10周で2時間(=120分)くらいのペースなら、1周12分という事になる。
公園の外周には誰もいなかったので、2周目はペースを上げて、1周目の遅れを取り戻した。
ストップウォッチを見ながら、2周してちょうど24分。
2周目を10分で走ってしまったわけだが、それがどのくらいすごいことなのか、善助には分からなかった。
そこからは1周12分のペースを守って走り続けた。
途中で犬の散歩をしている人がいると、その人に見られている間だけペースを落として、後からその分を取り戻した。
10周と半分を走り終えて2時間6分。
「ん?これってこないだのオリンピックの金メダルの選手と同じくらいのタイムじゃないか?」
「まさかな・・・。」と思って一度立ち止まり、自分の状態を確認してみた。
呼吸は? 乱れてない・・・。
汗は? かいてない・・・ 逆に冷や汗が出た。
何かの間違いだろうと、もう一度走り始めた。
「きっと公園の外周が1周2キロくらいの間違いなんじゃないかな・・・?」と自問しながら、また10周、2時間で走り切った。
運動靴の底が取れかけてきたので、これ以上走ると両親に新しい靴を買ってもらわなければならなくなる。
結局限界を知ることはできなかった。テストは失敗である。
善助は運動靴の紐をゆるめると、せっかく持ってきたタオルも着替えも使わずに、リュックを背負って、ぼーっと公園のベンチに座って、さっきまで走っていた道を眺めた。
どのくらいぼーっとしていたのだろう、気が付くと父と母がベンチの後ろに立っていた。
善助が驚いて「どうしたの?!」と聞くと、二人は何も言わずに善助を挟んでベンチに腰かけた。
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