第二力 走力②

 その後、色々なことが分かった。


 中でも驚いたのが、サッカーの時、みんなボールを蹴るときに、ボールを破裂させないように上手く手加減して蹴っているものだと思っていたが、それは自分だけだと分かったことだった。


 不安になって一度担任の山口先生に相談しようかと思ったが、二言目には『努力とオリンピック』の話をする山口先生に変に騒がれて、オリンピックを目指すことになっても困るので、健康には特に問題なさそうだったので、自分だけの秘密にしておくことにした。




 中学生になってから、自分の運動能力について把握したいと思うようになった。


 学校の体力テストでは、握力や上体そらしなど、脚力に関係ない項目では、特に加減をしなくても、同級生と同じような結果であることは分かっていた。


 やはり問題は脚力である。




 善助は休みの日にリュックを背負って町内の運動公園に出かけた。


 リュックにはタオル・着替え・ストップウォッチ(Gショック)・経口補水液・人体構造の本など、中学生の善助に考えられるだけ全てのアイテムを詰め込んでいた。


 この運動公園は立地が今一つのため、催しものがあるとき以外は、犬の散歩をしている人がいる程度で、善助にとっては人目を気にせず本気を出せる絶好の場所であった。


 善助が今日テストしたい内容は簡単だった。


 一体どれくらいのスピードで、どれくらいの距離を走れるのかだった。


 去年テレビで見たオリンピックのマラソンでは、42.195キロを2時間数分で走っていた。


 42.195キロを走り切った選手達の中には、その場に倒れ込む選手もいて、人間の限界はこのくらいなのだろうと思ったのを覚えている。


 一緒にテレビを見ていた父(善一郎)に、マラソン選手はどれくらいのスピードで走っているのかと聞くと、「そうだなあ、善助のクラスの一番足の速い子が、100m走を全力で走るくらいのスピードじゃないかな。」と教えてくれた。


 善助のクラスで一番足が速いのは、県の体育大会で6位入賞を果たした克実君で、体育の授業で一緒に走った事があるので、大体スピードは把握している。




 善助は運動靴の紐を締めなおして、軽く柔軟体操をした。


 運動公園の外周は、1周4キロなので、10周と半分で42.195キロくらいになるだろう。


 善助はGショックのストップウォッチをスタートさせて、勢いよく走り出した。

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