3話 お茶と魔眼


 診察はちょっと変わっていた、私はてっきり問診や紙に書いたり熱を測ったりと思っていたのだけど、全員に一本ずつ黒い鳥の羽を渡してきた。

 ソラスはそれに魔力を込めて欲しいと頼むと、ここで問題なのは私は魔力がないことだった。

 どうしようかと悩んでいるとアイニとリムが私が魔力がないことを伝えるとソラスはそれでも大丈夫だと説明してくれた。

 不安に思いつつも私はそれに力を込めてみる、魔法を使っているイメージでなんとなくだけれど・・・・・・。

 その時、掴んだ根元の方からじわりと黒かった羽がみるみるうちに色が変わっていく、びっくりしたがそのまま見ていると黒から紫、紫から青そして黄緑になるとそのまま色は変わらなくなった。

 魔力もないのに何故?と驚きを隠せずにいるとソラスは軽く笑うとこの羽には特殊な加工が施してあり、魔力がない人間にも使うことができるらしい。

 ほんとで魔力はなんでもありだなぁと思いながら納得するとソラスは納得してもらえたのが分かったのか笑顔になった。


「羽の色も変わり切ったことだし、皆さんの分はお預かりしますね」


 皆の結果がわかった羽を回収していく、リムは黄色、アイニは青い羽に変わっている。

 一体どんな結果なのだろうかと思っているとソラスはそれを持って部屋の奥に入っていった。

 少しして奥からカチャカチャと食器が動く音や何かを切っているような音が聞こえ出した、おそらくキッチンなのだろう、調理が始まるといい香りも漂ってきた。

 頼んだ料理が出来上がるころには部屋中にハーブのいい香りが漂っていた、そしてソラスはキッチンから料理を運んでくる。

 運び終わるころには私達のテーブルの上は鮮やかな光景が広がっていた。

 

「わぁすごい!」


 興奮で思わず声を出してしまった、ソラスが運んできた香草料理はどれも見たことのないものばかりだったからだ。

 私とリムの頼んだハーブティーはガラスのポットに入っていた、驚いたことに中身は私のポットは空色、リムのポットは綺麗な若葉のような鮮やかな緑色をしている。

 普通のハーブティー、ここでいう私がいた世界での一般的なハーブティーも、もちろん飲んだことがあるのだがそのお茶の色よりも圧倒的に鮮やかなのだ。

 正直飲んでしまってもいいのだろうかと少し不安になったが、リムは嬉しそうに尻尾を振っているので安心できる飲み物なのだろう。

 中に入っている薬草は見たことがあるような物もあれば、全く知らないというか奇妙な形をした物もある、むしろそっちの方が多い印象だ。

 アイニの香草焼きのセットは美味しそうな鶏肉に奇妙な形の薬草がのっている、しかし匂いは抜群に良く朝ごはんを食べた私でさえ思わずお腹が空いてしまいそうになるいい香りだった。

 私はその光景に喜んでいると見ていたソラスが私とリムの前にクッキーを置いた。

 どうやらサービスらしくお茶と一緒に楽しんでと言っていた、ハーブ入りのクッキーが数種類とバタークッキーのようだ。

 私とリムは感謝を述べるとソラスはにっこりと笑った。



***



 ソラスのハーブティーは感想をいうととってもおいしかった。

 飲んだ瞬間、体に染み渡るようにじんわりとした感覚が広がるとすっと体の重みが落ちたように感じる。

 正直奇妙な形のハーブも入っていたのでもしかしたらスパイシーな味なのだろうかと想像していたが、飲んでみるとスッキリして飲みやすい。

 クッキーの方が逆にスパイスが効いているものが多く、そのおかげなのかお茶とよくあうので何度もつまんで食べてしまった。

 リムも美味しそうにお茶を飲んでいる、さっきよりも尻尾がパタパタと音がわかるほどだったのでとっても喜んでいるのだろう。

 アイニの方はと目をやるといつの間にかお皿は空になっており、あんなにボリュームのあったのにいつの間にと逆に驚いてしまった。

 

「お味はいかがでしたか?」

「はい、とっても美味しいです! クッキーもお茶とよくあって何度もつまんじゃいました・・・・・・!」

「それはよかった! お客様は当店初めてと聞きましたのでちょっと心配だったんですよ 味は大丈夫かなーとか苦手な味じゃないといいけどって」


 ソラスはホッと一息つくと私達の空になったコップに水を補充していった。

 

「そういえば、あの羽は一体どういう結果だったのでしょうか?」

「? あぁそうか初めてですもんね、そうですね簡単にお客様の結果をいうと身体疲労が少しあったのと緊張ですね精神的なものが少しありました。 それを改善するためのお茶を選んでいます薬草は基本的なハーブティーに使う・・・・・・あ、お客様のとこにもある薬草ですねそれをベースにして身体疲労改善の・・・・・・ってだめだ説明がめちゃくちゃ長くなるんでやめときます。 とりあえず先程行った結果の解消となる効果がある薬草を調合しましたあとフルーツ系も入れてるので飲みやすいかと」


 ソラスからの診断結果を聞いて、確かに体の疲れがだいぶすっきりしている感じがする、さっきの感覚はきっとその効果なのだろう。

 よくよく考えたら今の今まで歩き続けたりと疲れは溜まっているはず、ちゃんと寝てはいたがきっと疲れは取れきれてなかったのだろう。

 それにしては精神疲労がそんなにないのが少し驚いてしまった、やっぱり好奇心が勝ってしまって恐怖体験も吹っ飛んでしまったのだろうか。

 

(いやむしろ精神私・・・・・・ずぶt)


 私は思ったことを言わないように心の奥で飲み込んだ、ほら気がつくのはいいことだけど認めるのはちょっと・・・・・・ね!!

 なるほどと言いつつ私は内心焦りながらお茶を飲んだ。


「もしかして、リムやアイニは結果わかっていたの?」

「はい! 私は何度もこちらにきているので色は大体覚えてしまってます! 黄色は緊張が強いですね・・・・・・思い当たる節はあるのでそこは気にしないでくださいね!」

「俺も何度も来てるからな、青は肉体疲労だった気がするなぁ・・・・・・あってた?」


 アイニがソラスに聞くと彼は「そうそう」と頷きながら開いたお皿を片付けてキッチンの方へ向かっていく。

 色によって結果がわかるなら色んな色があるはず、どのくらい色があるのだろうかと思い思わずどのくらいあるのだろうかと疑問をもらす。


「無限にあるとも言われているね」

「無限!? そ、そんなにあるんですか!?」

「基本的には色で診断結果がわかる仕組みなんだけど、ほらたとえば絵画や植物とか景色を見ても思うだろうけど同じ色でもちょっと違う色なものがあるだろ? あれと同じで診断結果もそれを参考にしつつやってる。 でも、それだとあまりにも手間がかかるので俺のところは50種類くらいで抑えてます」


 確かに、無限もあると便利ではあるが手間がとってもかかるのもわかる。

 しかし、数をある程度決めてやると診断結果を元に薬草を調合するのは間違ったものを選んでしまうリスクがあるのでは?と疑問に思った。


「でもそれだと、間違ったものとか選んだりしませんか?」

「そこは安心してください、俺の魔眼で鑑定をさらにしているからちゃんとした結果を見つつ調合してますよ」

「魔眼?」


 アイニはそういえば言っていなかったなと呟くと簡単に説明してくれた。

 魔力や魔術を帯びた眼、私も絵本や神話の話に登場する怪物や妖精が使っている眼と大体は同じだそうだ。

 つまり、遥か遠くをみることができる眼や見た相手を石化させる眼とかもあるわけだ、それがあるというだけでも本に出てくるものがちゃんとあると実感でき嬉しくなった。

 魔眼は種類が遥かに多い、それこそ古代からあるものだからこそ種類はどんどん増えていった今では人工的に魔眼を作り出せるほど技術が進んでいるらしい。

 そんな魔眼を持つソラスは鑑定という魔眼を持っている、鑑定はものをみてそれを分析に基づいて評価や判断をするものでそれ自体にも色々な種類があるそうだ、簡単いえば職業に特化した魔眼で、ソラスの場合は医学や薬草、宝石などが複合して入っている特殊な魔眼なのだ。

 それを聞くとなるほどと納得してしまった、羽を見つつ魔眼でさらに詳しく調べているから色が少なくても大丈夫なんだろう。


「そうなんだね、魔法もそうだけど魔眼も便利なんだね・・・・・・!」

「便利ではあるけど、その分リスクも多いから魔眼はあまり普及はしてないぜ? 俺とソラスは魔眼持ちだけどリムは持ってないからな」

「そうです。 私の一族は魔眼と相性が悪いので持ってないですね」

「そうか、相性とかもあるんだね」

「人間の魔術師なんか特に魔眼の相性が悪くて持ってるやつは少ないな、そういうのは一族だったり突然変異だったりって感じだったな」

「人間があんまり持ってないのも意外・・・・・・!」

「人は好奇心が旺盛ですし、便利なものがあるとすぐそれに依存するでしょ? 始まりの魔眼は神が作ったものですがその便利性に人間が堕落しないように相性を悪くしたと言われていますね。 まぁ真偽はわかんないんですけど」


 確かに、便利なものがあるとそれを使いたくなるのもわかる、絵本や小説にもそれが原因で懲らしめられたりひどい顛末になったりしている。

 私は本の修復に入ったあの世界を思い出す、便利な力をもらって最終的に化け物になってしまったあの人たちを思い出してしまった。

 顛末を思い出しつつ、私もそんな便利なものをもらって依存し続けることになるのだろうかと少し不安になった。


 




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る