2話 フクロウ薬局

 馬車を降りると私達はツァーカブの商業区に降り立った、商業区は一番人が賑わう場所で様々な商品を売っている。

 簡単に説明してもらったので分かってはいたが本当に人がすごい。

 悪魔はもちろんリムのように獣人や異形の人々もいる、皆それぞれ買い物や商売に勤しんでいるようで生き生きしているように感じた。

 

「さぁアリス、ここがツァーカブの中で一番騒がしい商業区だすごいだろ?」


「本当にすごい! 途中に教えてもらってたけどこんなに賑わってるのね、私のいた国よりももしかしたらすごいかも・・・・・・」


 ずっと屋敷にいたから外の世界はそんなに詳しくない、写真やフィルムくらいでしか見れなかったけれど、きっと外の街の賑わいはこんな感じに近いのだろう。

 私が目を輝かせて街中を眺めているとアイニとリムはにっこりと笑った。


「アリス様行きましょう! まずはカイム様おすすめのお店から行きましょう!」


 リムは尻尾を振りながら私の手を握ると、そのまま商業区の中を進んでいった。

 リムのおすすめの場所はなんだろうかとワクワクしながらついていくと道中で長蛇の列を見つけた。

 列に並んでいる人々は男女それぞれいるが少し女性が多いように感じる、皆店の前に並んで楽しそうに談笑している。

 

「なんのお店だろう・・・・・・?」


 私がぽつりと呟くとリムはハッと気がついたのか足を止める、後ろについてきていたアイニも思い出したように足を止めた。


「すっかり忘れていました! こちらは服飾の専門店なんですよ」


「服飾・・・・・・あ、本当だお店の中服がいっぱい飾ってある」


「そ、なんでもそこのブランドで今時の流行や独自の服とか作ってるんだってよ、俺はそういうの詳しくないからな・・・・・・リムの方が知ってんだろ?」


「えぇもちろん! メイドの中でも人気のお店です!」


 リムは得意げに返事をするとこのお店について説明してくれた。

 ここの店主はこの魔界でも有名な服や装飾品など衣服に特化した悪魔が経営しているお店だそうだ、ちなみにツァーカブは支店で本店はケムダーという国にあるという。

 その悪魔が作る服は特殊な技術と魔術を駆使して使う代物で神や魔王にも愛用されている代物だそうだ、そんな悪魔が作る商品だ人気が出ないわけがない。

 今では魔界各国に支店をいくつか出しているほど人気の店舗だそうだ、リムは特にここのお店のリボンやスカーフなどがお気に入りなのだそうだ。


「細かい装飾や刺繍がとっても可愛いんです! 私もお休みの時とかによくくるんです」


 確かにそんな有名な悪魔が作った服、是非とも着てみたくなるんだろうこの長蛇の列がそれを物語っている。

 リムやアイニにとってはよく見る光景のため、すっかり紹介するのを忘れていたそうだ。


「この列ですから流石に待つのはちょっと大変ですので・・・・・・空いている時にでも是非行きましょう!」


「えぇもちろん!」


 リムと約束しその店の前を後にした、そういえばお店の名前を見てなかったなと後から気が付いた。



***



 しばらくまた歩き続けた後、ぴたりとリムは足を止めた。

 止まった先のお店は外見は蔦に覆われた古い一軒家だ、商業区の賑わいに紛れてひっそりと建っている。

 店名は『フクロウ薬局』と看板に書かれているが、その周りに張り紙のようなものがいくつも貼られている。

『お茶もあります』『宝石販売始めました』『失せ物見つけます』など薬局なのだろうか?と最終的に思ってしまう。

 

「アリス様、こちらがおすすめのお店です!」


「そうなの!? えっとここは薬局・・・・・・?」


「ハハハ! やっぱりそうだよなこんなに張り紙してると一体なんのお店だってなるよな!」


 私が思っていたことをアイニに指摘されたかと思い咄嗟に謝ると、アイニもリムも笑いながら初めてきた人や常連でさえなんのお店かわからなくなるので気にしなくていいと言った。

 常連にさえなんのお店かわからなくなるお店、一体どんな店内なんだろうかとワクワクしつつ私達は店の中に入った。


 店内はアイニが言っていた通りだった、まさに一体なんのお店なのだろうかというくらいにごちゃごちゃしている。

 薬局と書いてあったのでちゃんと薬品棚があるのもわかる、それ以上に張り紙や民族的な置物、張り紙に書いてあった宝石関連のものだろう飾り棚に色々な鉱石や宝石も並んでいるその横にはよくわからない絵画さらには楽器まである、本当に一体なんのお店だろうか・・・・・・。


「ほ、本当になんのお店かわからないわ・・・・・・!」


「ハハハ!! やっぱそう思うわなーーー!」


 アイニは大笑いしている、リムも苦笑しながらもカウンターに置いてあるベルを鳴らした、しばらくすると奥から返事が聞こえたと思うと黒髪の少年が奥から走ってきた。

 

「いらっしゃいませ! 何名様で・・・・・・げっ!!???」


 黒髪に赤い眼をした少年は最初笑顔で挨拶したかと思うと、後ろのアイニを見て嫌そうな顔をする。


「よう元気にしてるかソラスー。 来てやったぜー?」


「なーんで来ちゃうかなぁー! 俺は心底来てほしくなかったけどな! はぁ・・・・・・でもお客さん来てるから許してはやる・・・・・・でも店の物壊したりしないでくれよ!!」


 ソラスと呼ばれた少年はがっくりと肩を落としながらため息をついた。

 きっと、昔アイニがお店の物を壊したり燃やしたりしたんだろうなぁと想像がついてしまった。

 ソラスは気を取り直して私達を奥に案内する、奥まで行くとドアが見え中に入るとそこはテーブルや椅子が並んでいる。

 

「こちらにどうぞおかけください。 すぐお水とメニューをお持ちしますね」


 案内されたテーブルに座ると、ソラスはそのまま部屋の奥に入っていった。

 部屋の中は先程の廊下のようなごちゃごちゃした感じはしていない、むしろ少し落ち着いた雰囲気をしている。

 薬棚のようなものも見えるがそれ以上に色んな茶葉がガラスのようなポッドの中に並んでいる。

 しかも中身の茶葉がふわふわと浮いているのでこのポッドも魔道具か何かなのだろう。

 

「気になるものが多くて目移りしちゃうわ・・・・・・!」


「でしょう? きっとアリス様も気になって見てしまうだろうとカイム様も言っていました!」


 さすがカイムさんだと思いながら私はくすりと笑ってしまった。

 

「でも、このお店は一体どんなお店なんだろう?」


「一応は薬局ですよ」

 

 私の疑問に答えるようにソラスが私達の前に水を持ってやってきた。


「あ、ありがとうございます! 薬局なんですねここ・・・・・・」


「そう、ここは薬局。 俺の兄貴が薬師でね魔界を含めた色んな世界を旅しながら色んな薬草を集めてそれをここで売ってるんだ。 まぁでも薬草って基本的に魔法で治療できるから需要が少なくてさ・・・・・・色んな事業をやって生計を立ててたらいつの間にかこんな事になっちまったんですよ」


 ソラスはそう言いながら私達に黒い板を渡した、板を見ると飲食のメニューのようでハーブティーや薬草を使った料理などが書かれている。

 よく見るとメニューの下には宝石販売や鑑定、失せ物相談も受け付けておりますと書かれていたりと他にもいろんな事業の事が書かれていた。


(なるほど、これが色んな事業・・・・・・!)


 私がよっぽど苦労していたんだろうなと思っているとリムが私に話しかけてきた。


「ハーブティーは絶品ですよ! 私達の体調や気分で選んでくれるので毎回色んな味が楽しめて好評なんです!」


 リムが言うにはソラスのお兄さんが世界を旅しながら集めた薬草はどれも選りすぐりで、私がいた世界よりも色んな効能の薬草が多いのだという。

 それを人それぞれに合わせつつハーブティーや料理にしてくれるので密かに人気のお店なのだという。

 

「えっと・・・・・・じゃぁこのハーブティーお願いしてもいいですか?」


「あ、では私もお願いします!」


 私とリムはハーブティーをアイニは朝食を食べていないという理由で香草焼きのセットを頼んだ。

 ソラスは注文をメモし、メニューを回収すると彼は私達の方を見てにっこり笑った。


「ご注文承りました。 では、診察を開始します」

 

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