6話 修復

 バエル王のお守りの効果、基本的に私に対して有害判定になる対象者を攻撃するという効果があるらしい。

 簡単に言えば防御装置みたいなものだとさっくり教えてもらったが、お守りと聞いたので盾とか守るものだと思ってしまっていた私はまさか屋敷を消し飛ぶほどの魔法攻撃が降り注いだのは本当に驚いた。

 私はお守り凄いなと感心していると、小鳥からカイムの声が聞こえる。


「さて、原因も消した事ですしこれでフェネクスの修復がやっとできます。 その前に人が集まってきてしまいますのでさっさと町を出ましょうか」


「流石にあのお守りの効果で凄い音したからな、警備兵とかきちゃうんじゃねぇか?」


 確かに、あのお屋敷が消し飛んだと言うのだからきっと音は相当凄い者だと思う、警備兵がきてもなんと説明していいかわからないし、実際に貴族を倒したのは私達というわけなので確実に捕まってしまうかもしれない。

 

「アリス、そう言うわけなんで町を出るけどいいか?」


 アイニが言うと私は分かったと頷く、足早にそれとなるべく住人にバレないようにこっそりと出る事にした。

 町の外に向かう道中は騒然としていた、屋敷が消し飛んだ時の大きな音に慌てて外に出てのぞいている人、貴族が居なくなった事を察して泣いていたり喜んでいたりしている人々もいた。

 すれ違い様に何人もの警備兵を見た、どの人達も慌てているようで私達の姿は目に入らないようだった。

 そのまま誰にも気が付かれず町を出ることができた私達はフェネクスの指示で最初についた場所に戻るように指示される。

 あそこまでまた歩くのかと思っていると、アイニが突然私を抱き上げる。


「仕事は終わったからな、さっさと帰ろうぜアリス!」


「あ、アイニ!? ちょっと待って、歩くから! 恥ずかしいから降ろしてー!」


 突然の出来事に一瞬理解できなかったが抱き上げられた瞬間の恥ずかしさに思わず私は叫んでしまった。

 アイニは聞く耳を持たず、そのまま最初についた場所まで走って行く、あっという間にその場所まで辿り着くとそこにポツンと入ってきた扉があった。

 このまま帰っても大丈夫なのだろうかと思っているとアイニから本の修復はフェネクスがしてくれるから大丈夫だと言ってくれた。

 私達はあくまで原因を除去する修復係なんだそうだ、私は多くの童話を知っていると言う理由で知識担当、アイニは逆に私ができない戦いや情報収集などの担当なのだそうだ。

 今更ではあるが知識担当はちゃんとできていたのだろうかと少し不安になってしまった。

 端末の小鳥からフェネクスの声が聞こえる、もうその扉は開けると元の外の世界につながるようにしてくれているらしい。

 私達は扉を開けてこの世界を後にしたーーーー。



***



 元の魔法図書館に帰ってくると、ホッとした顔のフェネクスとにっこりとした顔とカイムが迎えてくれた。


「お疲れ様でしたお二人とも」


「ただいま帰りました。 あの・・・・・・あのままにしてよかったんでしょうか? 私てっきりこう・・・・・・復興させるみたいなことするのかと思ってたんですが・・・・・・」


「それは大丈夫なのだよ、この本はもう本来の物語に修復できるようになったからね、あの中にいる住人には悪いかもしれないけれど元の二つの話に戻すだけさ」


 元々は童話の世界を体験できると言う本だ、流石にこのままでは童話を体験するどころかそもそもなんの本だったのかも分からない。

 修復しようにも原因のせいで修復がすることができなかった、それがあるためどんどん本に黒いあとが広がっていったのだ。

 

「初めてだったけれど、これで君達が呼ばれたわけが分かったと思うのだよ。 出る前にも言っていたがそれぞれの担当でちゃんと動いていてくれた、本当に助かったありがとうなのだよ。」


「えぇ、陛下と打合せしている最中ではそうなればと思っていたのですが、初回でここまで行くとは思ってもいませんでした。 本当にお疲れ様です」


 フェネクスとカイムはにこりと笑うと私はホッと一息ついた、初めて訪れた物語の世界は怖いこともあったけど、興味が尽きないことばかりでとても衝撃的だった。

 それにちゃんとフェネクス達の役に立ったのが素直に嬉しかった。

 私はよかったと呟いてにっこり笑った。

 フェネクスはゆっくりとお辞儀すると、そのまま椅子に座り修復可能となった本と紙の束を引き寄せる。

 本はいつの間にか黒いあとがなくなり綺麗になっている、しかし、本の中身を見ると文字がボロボロになっていたりとぐちゃぐちゃになっている。

 フェネクスはそれに紙の束から数枚とる、紙は何か文字が書かれているようだ、それを一頁一頁貼り付けていく、すると赤い鱗粉のようなものが舞ったかと思うと貼り付けた紙から文字が抜け出し本の頁に入りついていく。

 

「これは、本を修復しているのだよ。 この本自体は文字や中身がぐちゃぐちゃになっているからね、あらかじめ内容を書いておいた紙に修復したい頁を貼り付けて僕の魔力を注ぐとその頁が修復されると言う仕組みになっているのだよ。」


 フェネクスはそう言うと、その通りにグチャグチャだった一頁が修復作業で規則正しい綺麗な文章が出来上がっていく。

 地味な作業だがこれを最終的に黒いあとが残っている本全部にしないといけないと思うととんでもない重労働だ、私は素直に感心してしまった。

 私がフェネクスの修理に夢中になっているとカイムが声をかけてきた。


「アリス様、本修理はフェネクスに任せて私達はそろそろ陛下の屋敷へ帰りましょう」


「あ、はい! でも本当にいいんですか? こんな大変な仕事フェネクスさんに任せてしまって・・・・・・」


「大丈夫なのだよ。 貴方の気持ちはとても助かる、ここからは僕の仕事だからねそこは任せて欲しいのだよ」


 フェネクスはそういうとまたにこりと笑った、本を修復できるのが嬉しいのだろう声色も明るく感じた。


「そうです、アリス様は仕事をちゃんとしてくれましたからね、それにあのアイニがちゃんと仕事をこなしていました、おさぼりの常習犯なんですよ彼」


「猫だから気まぐれが大きすぎて困っていたのだよ」


 猫系の悪魔は基本的に、気まぐれで自由行動が多いためこういう仕事やかっちりとした行事があまり耐えられないそうだ。

 その中でも特にアイニはそれが強いらしい、私はそんなに気にしていなかたがそう言えばアイニはテキパキと仕事をしていたと思う。

 毒を飲んだりとかとんでもないことをしていたと思うけど・・・・・・。


「ってそうだ! アイニそう言えば毒の入ったお茶飲んでいたよね!? 大丈夫なの?」


「うん? あぁそうかそういや飲んだな・・・・・・。 大丈夫だアリス俺は元々毒耐性があるからああいう奴らの用意した毒じゃ死なないぜ」


「も、元々毒耐性・・・・・・!?」


 毒耐性がある悪魔はあまり珍しいものではないそうで、72柱に所属している悪魔のうち半分以上がある程度の毒に耐性があるそうだ、アイニもそのうちの一人出そうだ。

 人間である私はもちろんそんな耐性がないので、飲んでしまったらそこでおしまいだだからこそあのときカイムが止めてくれたんだろう。

 それでもあの時はアイニは毒で死んでしまうのではないかと心配になった、まぁ無事なら本当に良かったとホッとした。

 ふと私は貴族達に襲われる前のアイニの会話を思い出した。


「そういえば、見張りと部屋を覗くってなんだったの?」


 そう私が聞き返すとカイムはうーんとつぶやくと何やら考えている、アイニは露骨にいやそうな顔をしている。

 

「そう聞かれては答えないといけないですね、あの町ですが二人が入った瞬間、下級悪魔たちが監視に来ていました。 それは宿屋にいた時、夕飯の食事中も含めてですアリスは見えなかったので仕方がなかったんですけど、それにアイニが怒って下級を燃やし殺してたりしてましたね。」


「アレは絶対悪くないだろ? 気持ち悪いにも程があるしその前に監視するにしても多すぎだろ!?」


「あれは確かに気持ちが悪かったですね! 一時期虫みたいだな〜とか思ってましたもん」

 

 二人は明るく言っているが私はゾッとしたそんなものが見ていたのか、と言うのもあるが最後の虫のようには流石に気持ちが悪くなってきた。

 

「貴公らアリスが気分が悪くなってしまっている、それ以上は話さないほうがいいのだよ」


 私の異変に気がついたフェネクスが声を上げる、二人はハッとして謝ってきた。


「うん、いいの・・・・・・ただ虫の用にが本当で気持ち悪くなってしまって・・・・・・」


「ご、ごめんなアリス・・・・・・」


「すみません・・・・・・」


 二人はまた謝るとしょんぼりとしている、見かねたフェネクスがさっさと帰るように促す。

 私達は言われた通りに帰ろうとした時、フェネクスがこちらを向いて再び声をかけた。

 

「アリス本当にありがとうなのだよ。 ゆっくり休むといい」


 私がフェネクスの方を振り向くと彼は小さく手を振ってまた修復作業に戻っていった。



***



 私達は魔法図書館を出るとそのままツァーカブ城の外を出た、外には私達を待っていた馬車が止まっている。

 御者が気がついて馬車のドアを開けてくれると私達は馬車の中に入る、ふかふかした馬車の座席がとても心地よく感じた。

 全員乗ったのを確認したあと、馬車はバエル王の屋敷へと動き出した。

 外は夜になっていた、ふと気になって何日経ったのか聞いてみるとなんと数時間しかたっていないとのことだった。

 本の中ではフェネクスの魔力の効果で時間の流れが全く違うらしい。

 なるほどと思いながら外の景色を見ている、今日一日で目まぐるしい体験をしたのだ、私はすっかり安心してしまいそのまま眠ってしまった。


 気がつくと私はいつの間にか自分の部屋のベッドで寝ていた。

 むくりと起き上がり眠いまなこであたりをみると私が起きたの気がついたのかリムがひょっこりと顔を覗かせた。


「起きられましたかアリス様?」 


「おはよう?リム・・・・・・えっと・・・・・・」


「ふふふ、まだ夜です。 先程寝巻きに着替えさせてもらっていたんですよ、なので眠ってくださって構いません」


「そう・・・・・・なの・・・・・・ごめんなさい。 私まだ眠くて・・・・・・リムにもいっぱい話したいことがあるのに・・・・・・」


「大丈夫ですよアリス様」


 リムは優しく私を再びベッドに寝かせるとにっこりと笑った、そのままポンポンと私を撫でる優しい撫で方に私は再び眠ってしまった。


「本当にお疲れ様でしたアリス様。 おやすみなさいませ」


 優しくそう呟くとリムはそのまま灯を消して部屋を出て行った。



 

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