4話 元凶の元へ


 “上位悪魔”本来の悪魔よりも力があり希少な悪魔達、数はもちろん多く無い名のある悪魔の中でもさらに上の悪魔と言ってもいい。

 「力」「知恵」「魔法」この三つのうち二つ以上ずば抜けて高いもの、どれも全て当てはまるものはそれに該当する。

 アイニやフェネクス、カイムはどうなのかと聞いてみると驚いたことに3人は中級悪魔でカイムは中の上、フェネクスは中の中、アイニは中の下なのだそうだ。

 そのアイニ達が在籍している72柱は魔界の中でも珍しく上位悪魔が数多く存在している、一番身近なのがバエル王、彼は三つとも当てはまりトップクラスの実力を持っている例外的な悪魔である。

 そんな上位悪魔にはもちろん中級悪魔達は敵わない、元神様だったりも含めるとなるほどと納得してしまうが単純に力の差で簡単に敗れてしまうという。

 フェネクスの魔術も中級の悪魔達には対抗できるが上位となると到底敵わないそうだ、本人曰く上位の中でも下にいる悪魔くらいなら足止めは出来るとのことだった。


「僕の力を上書きするくらいにはこの悪魔の実力は相当なものだ、それと文学にも精通しているのではないかと思っているのだよ」


「そうだな、基本的に悪魔って好戦的なのが多いからな、喧嘩や戦ならよくある話だけど本を使って態々そうする奴は珍しいよな」


 皆に上位悪魔について少しだけ教えてもらう中、フェネクスは落ち込んでいる様子だった、確かに自分の本にそういうことをされると当たり前に嫌だ、ましてや自分よりも実力のある悪魔にやられると力のせいで敵わないという事実もあるため余計に悔しいのだろうと思った。


(自分が作った本にそんなことをされるなんて可哀想・・・・・・)


「まぁ本をそうしてしまった犯人は今のところ置いておきましょう、まずはこの本の解決からです。 そうしないと犯人探しにまでいけないでしょう?」


「そうだね、まずはこれから片付けるのだよ」


 沈んだ空気を払うようにカイムが手を叩く、落ち込んでいたフェネクスがこくりとうなずくとカイムはにっこりと笑った。 

 

「さて、アイニ情報収集の続き、言ってないことまだあるんでしょう?」


「あぁもちろん。 まず、結論から言うとこの町の原因は全てあの二貴族であり、今回の狼事件もそいつらが関係してるってことだね、事件現場もいくつか行って見たんだけど流石に清掃されてて痕跡は消されていたけど、僅かな魔力とあとコレ“物的証拠”も見つけたしね」


 アイニが見せたのは黒い毛だった動物の毛なら獣人の町だからそう珍しくもないのではないかと思ったが、アイニはこの毛はどの種族のものかも調べたのだ。

 結果はもちろん山羊そして豚だったそうだ、山羊と豚の獣人は町には他にもいるらしいがこの毛どちらも根元の部分が赤黒い色をしている、この色をしている獣人は二貴族しかいないのだ。

 

「やっぱりそうなのね・・・・・・」


 人々が隠そうとしていたのはこの事だったのだろう、この町を作った領主達がまさか殺しをしているだなんて信じれない、信じたくないそんな所ではないかと思ってしまった。

 だからあの必死で何かを隠している雰囲気だったのだろう、隠したかったのは領主達が夜な夜なしている事だったのかもしくはーーーー。

 私達が考え込んでいると突然ドアからノックが聞こえた。



***



 ノックの音が聞こえた後に女将さんの明るい声が聞こえた、アイニは小鳥に急いで通信と映像を切ように指示すると部屋にかけておいた呪いを素早く消すそして女将さんの声に応えるように返事をした。


「おはよう、お二人さん! 朝ごはんどうだった?」


「おはよう女将さん、いやぁおいしかった。 な、アリス?」


 私は挨拶をし「えぇとってもおいしかった」とにっこり笑った、女将さんも笑うと思い出したかのように話を振ってきた。


「アハハごめんごめん、話がそれちゃったわ! 今朝領主様達の従者から尋ねてきてね、旅人達のお話を聞きたいから領主の屋敷に来てくれないかって連絡があったんだよ」


 驚いた、まさか領主達自ら屋敷に招くとは思っても見なかったのだ、町は此処だけしかないし旅人も久しぶりにくるので、情報がすぐ回ることは分かっていたがこうも早く来るとは思っていなかった。

 私は緊張しつつもチラリとアイニの方を見る。


(やっぱりここは原因を直接叩くしかないよね・・・・・・!)


 私が意気込んでいるのを察したのかアイニもにこりと笑って頷いた。


「そうなんだ? 俺達でよければ是非お会いしたいね!」


 アイニが私の代わりに返事をすると、女将さんはにっこりと笑った。

 

 宿屋を出るときに女将さんから、領主達の屋敷とそこにいくまでの場所が書いてある地図をもらった。

 女将さんに別れを告げると私たちはそのまま屋敷に向かって歩き始めた。

 アイニの魔法のおかげか足の痛みはすっかり消えている、魔法とは本当に便利だなぁと実感しつつ地図を見る。

 現在地からはそこまで遠くなく歩いて数十分くらいだろうかと思っていると、アイニがこちらにぐいっと近づいた。

 私がびっくりすると、アイニは小声で静かにと呟く、そして私の頭に小鳥が止まった。


「カイム、移動中に喋ってもいいか?」


「えぇここまで近いならいいでしょう、と言ってもこちら側はあまり喋れませんのでご理解くださいね」


「分かった。 じゃぁはっきりと言うけどコレ罠だよな?」


「そうですね、十中八九罠ですね」


「やっぱり・・・・・・」


 犠牲が出ているのであれば確実に何かの理由でそうしているのだろう、旅人なんて恰好の餌食だ。

 

「だよなーってことは確実にここで仕掛けてくるってことだろ?」


「そうですね・・・・・・。 あ、でもアリス貴方の安全は大丈夫ですからね? お守りもありますから」


 とりあえず、私の安全は保証されてホッと安心した、しかし何度か言われてはいるがこのお守りなんの効果があるのかよくわからない。

 ちなみにこのお守りの効果を知ることとなり確かにこれは安全だと再実感するのはもう少し先のことである。

 

「仕掛けてくるなら、ここで叩くのが手っ取り早いな」


 アイニはニヤリと笑う、それを見たカイムはボソリと油断するなと釘を刺した。

 私は地図を確認すると目的の場所はもうすぐそこまで迫っていた、この角を曲がると領主達の屋敷がある。

 角を曲がるとそこには、煉瓦造りと木造建築が混じった奇妙な屋敷が現れた。



***



 屋敷は大きく立派だった、この屋敷に二貴族が住んでいるのだという教えてもらってはいたが確かに奇妙だ、そもそも貴族なのだから親族以外で一緒に住んでいるというのも少し謎である。

 屋敷の前の門には門番が立っている、アイニは門番にここにきた経緯を話すと門番は少々お待ちくださいと中に入っていった。

 しばらくすると、門番と一緒に執事服を着た兎の獣人がやってきた。


「こ、これはこれは、ようこそお越しくださいました旅人様! ささどうぞ、領主様達がお待ちです」


 随分とそわそわと慌てているように見える、私がどうしてだろうと思っていると頭に止まっていた小鳥が肩に移動し、小声でカイムの声が囁いた。


「ここが一番危ない所だからです」


 カイムの言葉で納得した、町の人々を襲っている犯人の家なのだ、そこに住んでいる執事やメイド達の多くが次は自分が狙われるのではないかと思っているはず、さぞ生きた心地がしないのだろう。

 私とアイニはそのまま執事に案内されるまま屋敷の中に入っていった。


 屋敷の中に入って思ったことは思った以上に屋敷の中が荒れているという驚きだった。

 バエル王の屋敷は整理整頓、廊下や壁に至るまで綺麗に掃除されていたがこの屋敷は違う、廊下は絨毯はボロボロ、所々床が抜けたり何かがぶつかったような穴が見える。

 壁もボロボロで隅には蜘蛛の巣も見える、絵画やカーテンも何かに引き裂かれたようなものが多くとても貴族の屋敷とは思えなかった。

 案内している執事は仕切りに屋敷の人手が少ないので荒れているんですと誤魔化すように言っていた。

 一番奥の大きな扉に案内すると、執事は緊張しているのか耳をそばだてていた、表情は見えないが手が震えているようにも感じる。


「ご主人様方、お待たせいたしました。 旅人様をお連れいたしました。」


 ノックの後に執事がそう喋ると中かから「入ってきてちょうだい」と女性の声が聞こえた。

 執事は慌てて返事をすると扉を開け私達を部屋の中に案内した。


 部屋の中は廊下や玄関ホールとは違い割と整理されている、その部屋の真ん中で大きな長いテーブルそしてそのテーブルに10人の男女が座っていた。

 三人は豚の獣人、七人は山羊の獣人だ、そして全員の共通点黒い毛、よくみると地肌に近いあたりは赤黒く染まっている。


(アイニが持ってきた証拠と同じ、この人達が・・・・・・)


 私達を見た獣人達、何人かは何か仕切りにボソボソとつぶやいている、そのとき女性の山羊獣人がパンと扇子を机に叩きつけた、その瞬間周りは鎮まり返りそれを確認するとこちらを振り向きにこりと笑った。


「ごめんなさいね旅人様、皆久しぶりに旅人が来るものだから興奮してしまって・・・・・・。 よろしかったらこちらにきて旅のお話を聞かせてくれないかしら?」


 私は警戒していると、アイニが一歩前に出て私の視界を遮った。


「これはこれは、まさか領主様達からお招きいただけるだなんて思っても見ませんでした。 えぇ是非俺も貴方達と話してみたかったんです」


 アイニは会釈すると私の手を握って貴族達のいるテーブルへと向かう、そしてそのまま私を椅子に座らせるとアイニも横の席に座った。

 貴族達はにっこりと笑っている、その笑顔が不気味すぎて私は笑うことができなかったが、怪しまわれるように軽く会釈しつつ簡単な挨拶する。

 一人がチリンとベルを鳴らすと扉から執事達が入ってくる、そしてお茶の準備をし始めるとそのまま私達の前に出来立ての紅茶を置いた。

 持ってきてくれたメイドの手が震えていた、そうつまりーーーー。

 

(変な匂いとかはしないし、見た目も大丈夫そうだけど・・・・・・)


「それ毒です。 飲んではダメですからね」


 肩に止まっている小鳥からまた小声でボソリと呟く、私はハイと心の中で呟きのんだふりだけする。

 ふと気になってアイニの方を見ると私はギョッとした、アイニは紅茶をがぶ飲みしているではないか、カイムが毒だと言っていたのでもちろんそちらにも毒が入っているはず何故と驚いてアイニに声をかけようとすると、彼はこちらを見てにっこり笑った。

 

「ちょうど喉が渇いてたんですよ、ありがとうございます」


 アイニがそういうと貴族達は全員にっこりと笑っている、本当に不気味な貴族達だ。


「フフフそうだったのね。 改めて自己紹介をさせて頂戴、私はこの町の領主貴族の一人エリダというの、そしてこちらがもう一つの貴族長のボーグよ」


 エリダというその女性は、不敵に笑いながら私達に山羊の兄妹ともう一つある豚の兄弟達も紹介をしてくれた。

 全員にっこりと不気味に笑っている、何人か包帯を巻いたり顔を覆ったりと怪我をしているのがわかる。

 私が見ているのに気が付いたのかエリダは狼に襲われてしまって怪我をしてしまったのと説明した。

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