3話 犯人
アイニが宿屋を探すまでに人々から聞いた話、基本的には何気ない日常の会話ばかりだったが、旅人が来るのはとても珍しいそうだ。
何故かと聞くと数十年前に数名の旅人が来てそれ以降はぱたりと来なくなってしまったのだ、来なくなった原因は人それぞれだったが、圧倒的に多かったのが狼が出るようになったからだろうと話していた。
「でも、狼なんて来る途中には見なかったわ」
私達がやってきた時は本当にのどかで危険は感じない道のりだった、アイニも狼の匂いはしないといってたので人々が言ったことがおかしいのはすぐに感じた。
「そう、そこなんだよ。 住人達は狼が出たっていってるけどそういう痕跡は見えなかったっていうことは“狼じゃない別の何か”が住人達を襲ってるってことになるよな」
アイニの言葉に私はふと、一番あって欲しくない事を呟いた。
「“別の何か”っていうのはやっぱりここの住人達なのかな・・・・・・」
「残念だけどそうだろうな」
「おや? アイニは心当たりがありそうですね?」
カイムは何か気がついたのか、確信して言い放ったアイニに質問する。
「俺は犯人は領主達が怪しいと思ってる、結構領主達を頼り切ってるというか心酔っぽい雰囲気してる奴らもいたんだよね・・・・・・ だから今晩あたりさらに情報収集しようと思ってね」
「えっ!? そうだったの!? ごめんなさい全然気にしてなくて・・・・・・」
私自身は町の様子ばかり気にしていたので、そういうところを見ていなかったのが申し訳なかった。
落ち込んだ私をみてアイニは「気にしなくていい、観察は悪魔は趣味というか職業にしてるとこあるから仕方ない」と言ってくれた。
悪魔達の多く特に名のある有力な悪魔達は情報収集として武器にもなるため観察は癖になっているものも多いのだという。
「そうなんだ・・・・・・! そういえばバエル陛下もカエルを使って情報を集めてたもんね」
「旦那は・・・・・・まぁ規格外なんだけどな本当は・・・・・・! ちなみにいまいる面子で一番情報収集が抜群に高いのはカイムだけどな」
陛下は規格外なのかと驚きつつも、カイムの実力を教えてもらい驚いた、カイムはフフンと嬉しそうにしている。
「私は正直、のうきn・・・・・・筋力がある悪魔ではないですから、頭を使った戦法に必然的になったですよ。 基本的には端末みたいな小鳥を大量に作り出して、情報を集めたりしていますツァーカブの監視も多少はやってますし他国の観察もしてますね」
アイニはボソリと「根に持ってんなー」と呟く、私は言い直した所に若干闇を感じつつも
苦笑いし、それでも他国まで観察しているのかと思うと純粋にすごいと感心した。
「さて、話は戻してだけど、今晩俺は情報収集してくるアリスは宿屋というかこの部屋からは一人ででちゃダメだからね? 女将さんだとしてもだ念には念をってね?」
私はわかったと頷いた。
***
夕飯を宿屋近くで済ませた後、宿に戻ると私はお風呂を済ませてベッドに横になっていた。
初めて訪れた物語の世界、知っている物語のお話とはまるっきり違う立派な町並みだけど私がまだ体感していないだけで本当はもっと恐ろしいことが起こっている。
それにしても、宿屋を探して歩いている時や、夕食のために立ち寄ったレストランを含めてそうだったけれどこの町の人々の感じ、やはり違和感を感じてしまう。
皆楽しそうにしているが、町の中では“狼ではない別の何か”によって住民が襲われている。
それを分かっているはずで恐怖や不安があるはずなのに、そのような表情を一切見せない、いやむしろ出させないように必死になっているように感じる。
(もしかして、住民達は本当は誰が犯人か気づいているのかしら?)
気がついているのなら何故そうしているのだろうか、もしかしてその犯人はアイニの言っていた領主達だから?
色々な考えがぐるぐるとよぎってしまい、うーんと唸っているとピィピィとカイムの端末が私の近くまで飛んできた。
飛んできた小鳥はそのまま擦り寄ったりと甘えた仕草をしてくる。
「心配してくれたの? フフフありがとうね」
「鳥、近い」
アイニが不機嫌そうに小鳥を摘んで持ち上げた、小鳥も不満なのか威嚇した声をあげている。
「アリス大丈夫?」
「ごめんね、ちょっと考え事してたから・・・・・・」
「じゃぁ、お呪いしてあげる」
お呪い?と疑問に思っているとアイニが私の目にそっと手を当てた、手は温かくじんわりと熱が広がっていく感じがする。
全身が暖かさに包まれた感覚を覚えた後、優しい香りがしたかと思うと私はそのままぐっすりと眠いっていた。
「お休みアリス」
アイニはそのまま優しくつぶやくと小鳥をベッド横に置き「留守番ちゃんとしろよ」という指示をしながら静かに部屋を出て行った。
***
ーーーー何か声が聞こえる。
誰かが叫んでいる、私はゆっくりと目を開ける、体はふわふわしていて手や足に視線をやるよく見ると半透明しかも浮いている。
これは誰かの夢だろうかと思っていると、そういえば誰かが叫んでいたのを思い出し声の方をみる。
場所は森の中だろうか、大分ぼやけているが草木が見える。
声はこの奥から聞こえている、私はそのまま浮いた状態で進んでいく、声はどんどんと大きくなりそして一つの家に行き着いた。
ヤマネの家よりは大きいだろうかでも所々ボロボロな家だ、扉は壊れており窓は割れている壁もいくつかヒビが入り空いている箇所が見える。
ぼやけているのに何故この家だけハッキリと見えるのだろうかと思っていると、今度は別の所で叫び声が聞こえた。
そちらへ進んでいくと今度は井戸までたどり着いたそしてそこにはヤギの獣人達が井戸を除いているのが見える。
私はここでようやくなんの夢か気がついた、あぁこの話は覚えているそう思っているとヤギの獣人の何人かが呟き始めた。
『終わり、物語はここで終わり』
『そして始まる、また始まる』
『また、食べられる。 狼に食べられる』
『嫌だ嫌だ、誰か助けてーーーー』
最後の一人が呟き終わると、私の後ろで声が聞こえる、暗くて重いぞくりとくる声だった。
『では、その願い私が叶えて差し上げましょうか?』
私はハッとして振り返ろうとした瞬間、体がぐわりと上に引き上げられる、そのまま上に上にと急上昇していくと、だんだんあたりが明るくなり私はその眩しさに目を瞑ってしまった。
そして気がつくと私は夢から覚めて朝を迎えていたのだった。
あの出来事は、なんだったのだろうか?私は寝ぼけつつ疑問に思いつつうーんとまた唸っていると小鳥がまたピィピィと鳴いてこちらに飛んできた。
小鳥は心配そうにしているのか擦り寄ったり周りをぴょんぴょんと飛んで気にしている様子だ、そしてその鳴き声に気がついたのかアイニもまたこちらにやってきた。
「おはようアリス、どうした? 顔色が悪いぞ?」
アイニも心配そうにこちらの顔を覗き込んだ、だが私は寝起きというのを思い出し慌てて布団で顔を隠した。
流石に寝起きは恥ずかしいと思ったのだが、そもそも寝る前でも近距離で話していたのを思い出しさらに恥ずかしくなってしまった。
(アイニは距離が近いのは分かっていたのに、忘れていたわ! あぁ恥ずかしい!)
アイニと小鳥はびっくりして慌てている様子、私は観念して少し顔を覗かせると、とりあえず着替えさせて欲しいと呟いた。
***
服を着替え、身支度を整え終わった後、少ししてから部屋を出ていたアイニが入ってくる
手には朝食を持っており、下の階で女将さんから朝食をもらってきたそうだ。
そのままテーブルに並べると朝食をとりながら先ほど見ていた夢の話をした。
「ーーーーということがあって」
朝食も終えてその話をすると、アイニは何か考えしばらくして真面目な声色で私に聞き返した。
「アリス、そいつの顔は結局見えなかった?」
「うん、でも声色は男性の声だったような気がするの・・・・・・」
「そうか・・・・・・うん、そうだな・・・・・・俺ははっきり言ってまだ新参だからなカイムそこら辺の情報収集任せてもいいか?」
「えぇもちろん、アリスはとっても貴重な情報を“見て”くれたんですから感謝しなければ」
端末の小鳥から聞こえるカイムの声も真面目な声だった、その後アイニから私の見た夢についてそして、昨晩で収集したこの町のについて聞かされた。
この町の歴史は意外と古く、元は小さな田舎町だったのが二つの貴族によってここまで大きな町になった。
一つは豚の獣人の一族、もう一つは山羊の獣人の一族だそうだ。
貴族は特別な力を持っており、その力で当時森に大量に住んでいた狼や化け物を次々と退治していきその力でこの町を繁栄させた。
狼や化け物から逃げ怯えていた他の獣人達は次第にその貴族達がいる町に移住し始めここまで大きな町になったのだ。
狼や化け物は全て退治され絶対な安全が保証された町だったはずなのに、最近では夜な夜な町で人々が食い殺されるという事件が頻発している。
そして、私が見た夢、これはまさにその貴族の一つが力を手に入れるきっかけになった夢ではないかと説明してくれた。
「つまり、アリスは夢の中で過去にあった出来事を見たんだ」
「うん、そう考えるのは私もわかるんだけど、あれが過去っていう証拠はどこにあるの?」
「確かにそうだね、でもあの夢はまさに過去にあった出来事なのだろうね、証拠なら簡単だよそもそもこの世界は僕が作った物語の世界、物語が終われば世界の住人の記憶は消える仕組みにしている、でも記憶は残っている、君が聞いた“そいつ”がそこにまず細工をしたんだろうさ、そう考えると上位悪魔関わっていると見て間違いがなさそうなのだよ」
フェネクスが喋り終えると大きくため息を漏らす。
彼が作り上げた物語の本に細工をできる悪魔なんてそうそういそうにない、魔法を最近知った私でさえもこの魔法図書館とこの本の凄さはひしひしと分かっている。
あの暗くて重いぞくりと感じたあの感覚はきっと危険を本能的に察知したのではないかと今となって理解した。
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