2話 町
狼と七匹の子山羊の話、母親の留守中に狼が子山羊のいる家にやってきて子山羊達を騙し食べてしまう、唯一末っ子が助かりそれを返ってきた母親に伝えて眠っている狼のお腹を切り裂いて子供を助けそのあとお腹に石を詰めてお腹を縫う、起きた狼は水を飲もうと井戸にに向かったが石の重みでそのまま落下、溺れて死んでしまうそんな話だ。
「毎度思うんだけど狼・・・・・・悲惨な死とげすぎじゃねぇか?」
アイニはげっそりとした顔をしつつ自分のお腹をさすった、移動中の最中どちらも簡単に説明したものの確かにこの二作品はどちらも狼は悲惨な死を遂げている、一匹は茹でられもう一方はお腹に石を詰められて溺れ死んでいる。
私もそういえば童話はよく狼が悪役になっていることが多いなぁと呟くとアイニはますますげっそりとした顔をした、アイニは自身の過去を思い出してしまうので狼が不憫だと思ったようだ。
「あぁその事かね、それならいくつか理由があるのだよ」
それを聞いたフェネクスがふと思い出したのか説明を始める、ヨーロッパ特にフランスあたりの中央部では、森林伐採で住処を失った狼達が多くいたそうだ、餌も少なくなり仕方なく人間の近くまで出向くようになる、そして家畜や人間を襲い始めたからそういうのが多かった地域では狼は悪とされていたんだろう、さらに開墾を進めるためには森が邪魔で伐採しやすいようにそんな噂が流されたり、森じたいが悪や恐ろしい場所と印象付けていった名残もあるのではないかと説明してくれた。
「そういえば、赤ずきんの話も森の中にあるおばあさんの家で襲われるね・・・・・・」
「そう考えたら民話やこういう本で擦り込ませて教育してたんだな〜。 はーどんな時代も結局人間が怖いってつくづく思うぜ・・・・・・」
「民話やこういう童話っていうのは教育や教訓のような物として扱っているのもあるのだよ、三匹の子豚は物作りにあたっての大切さなどの教訓を、狼と七匹の子山羊は子どもが一人でいる時の危険性なども説明しているそして狼は恐ろしいものともね、子どもの頃からそういう話を教えておくことが大事なのだよ」
物語を好きで読んでいたけれどよくよく考えたらこういう本のおかげで危ない場所やこういうことはしてはダメというのを学んでいったのを思い出す。
「なんだか教科書みたい」
「そうさ、本は知識を教えてくれる素晴らしい教科書さ」
フェネクスはご機嫌にしゃべると、私もつられて笑ってしまった。
「そういえば、フェネクスこの本ってなんで二つの話が入ってるんだ?」
アイニの質問にフェネクスは、元々こういう民話や童話系の本はシリーズごとにまとめていたそうだ。
三匹の子豚はイギリス民話、狼と七匹の子山羊はグリム童話なのでグリム童話の作品集に作り上げておこうとしていたらしい。
しかし、どちらも境遇が似ていたということもあり、いっそのことまとめて載せようと全編が三匹の子豚、後編が狼と七匹の子山羊という風に作ったそうだ。
一話一話で本をまとめ上げるのは本棚のスペースと魔力消費が多くなりそうだったからもあるといった。
そして、この本は前編と後編に分かれているため世界に入るときは読者が好きに選んで入る仕組みにしていたそうだ。
「しかし、それにしたのはいいが今回でそれにするのはやめるべきかどうかもかかっているのだよ」
「それはどうしてですか?」
「貴方達も見ただろう? 扉は“一つ”しかなかったじゃないか」
フェネクスがいうと私とアイニは思い出した、前編と後編に分かれているなら本来は扉は“二つ”あるべきだ、あの時あった扉は“一つ”それを思い出すと私はぞくりと悪寒を感じた、この物語の世界は一体なんの世界なのだろうかとーー。
***
町に入った瞬間驚いたことは、町の中はあまりにも平和だったということ、獣人の人々が買い物をしたり談笑したり、食事をしたり・・・・・・とどこにでもありそうなありふれた雰囲気の町並みだった。
私達はまず宿屋を探しつつ、町中を観察がてら歩いて回ることにした、町はツァーカブよりはだいぶ小さいがそれでも大きな町だなと感じた、入る前の風景は田舎と言わんばかりに田畑が麦畑が広がっていたため町は田舎の町を想像していたが、大分違う中世の都会といっても違和感がないくらいには建築物もしっかりしており、色々な商店も並んでいる。
アイニは途中途中で宿屋はどこにあるかと住人達に声をかけて軽い談笑をしたりしている、住人達も怪しまずににこやかに答えている。
悪魔だからというわけでは無いだろうが会う人会う人に怪しまれずに会話できているのが素直にすごいなぁと思いつつ私は眺めていた。
会話が一通り終わったのか、アイニはこちらに戻ってくると宿屋の場所がわかったということなので早速その場所に向かうことにした。
「歩いていて気がついたのだけど思ったよりも、大分栄えてる感じがするわね、もっとこうあの童話なら言ってはダメそうだけど・・・・・・田舎って感じの町を想像してたわ」
「確かになー全然そんな感じはしない、いやむしろそこが怪しいのか?」
「? どういうことアイニ?」
「いや、ここでいうのもなんだし、ほらあそこ、宿屋の看板が見えたからそこで話そうぜ? さっき住人から面白い話も聞けたしな」
面白い話?と疑問に思いつつも私達は早速宿屋に入った、宿屋は決して大きくはなかったがいかにも中世の一般的な宿屋の雰囲気をしていた。
入るなりアイニは早速受付に向かうと入ってきた音を聞いたのかカウンターの奥からからふくよかな体格をした猫の獣人が出て来た、服装からして女将さんなのだろうこちらを見るとにっこりと笑った。
「いらっしゃい! 初めてみるお客さんだね旅人かい?」
「あぁそうだよ、二名で泊まりたいんだけど部屋は空いてるかな?」
「もちろんさ! 最近めっきり旅人に会わなくなっちまったからねぇ・・・・・・お客さんが来てこっちは大助かりさ、ここだけの話最近物騒なことが立て続けに起こってるからねぇ・・・・・・おそらく領主貴族様達がなんとかしてくれるとは思うんだけどねぇ・・・・・・っておっとごめんね、久しぶりのお客様だからつい喋りが止まらなくってね、はいこれが部屋の鍵さ二階にあるからね、何かあったらお気軽に言ってちょうだい!」
女将さんは早口で喋ると途中で気がついたのか苦笑いをしながら私達に泊まる部屋の鍵を渡してくれた。
アイニと私は礼をいうと帳面に名前を書いてそのまま二階に上がっていった、指定された部屋に入ると思ったよりも広く快適な部屋だった。
アイニは歩き疲れただろう?といいつつ私を椅子に座らせるように促した、確かにここにくるまで合間合間で休憩はしていたが足は限界だった。
そのまま椅子に座ると一息つく、アイニはにこりと笑うとパチンと指を鳴らす、鳴らした瞬間蝋燭が幾つか出てくると机の上に置いてある燭台に取り付けた。
蝋燭に火を灯した瞬間、部屋全体がほのかに暖かく感じる、私はこれは何か聞いてみると覗き見や聞き耳防止の魔法がかかった蝋燭なのだそうだ、これが灯している間にはそういった邪魔はされないそうだ。
「これで、自由に喋れるぜ、とりあえずここまでお疲れアリス、足怪我してないかい?」
「大丈夫ありがとう、怪我はしてないと思うでもただただ足が疲れたなぁって・・・・・・」
「そうだな、あとで回復魔法しなきゃだな、ほんとは抱っことかしたかったんだけど」
「それは恥ずかしいからやめてね!?」
私がきっぱりと答えるとアイニはしょんぼりと耳が垂れる、しかし流石に町中を抱っこされるのは羞恥心で死んでしまいそうだったのでそこは許して欲しいと思った。
アイニはしょんぼりとはしつつも机の真向かいに座ると指をまた鳴らし蝋燭と小型の燭台を取り出す。
蝋燭に火を灯すと今度は爽やかな香りが漂った、アロマキャンドルなのだろうかと聞いてみるとどうやら回復魔法のかかったアロマキャンドルらしい。
「とりあえず、これでアリスの足を治療しながらこの町についてわかったことを話していこうか、アリスも端末で聞いてる二人もいいか?」
「ありがとうアイニ」
「お、やーっと喋れますね、お待ちしてました」
端末の小鳥が鳴くと同時に映像が映り、カイムとフェネクスが見えるフェネクスはこちらをチラリとみるとまた机に視線を戻す、相変わらず何かを書き続けているようだ、カイムは思ったよりも自由にしており、お茶とお菓子を食べている姿が見えた。
「随分と優雅にしてんじゃん・・・・・・」
「まぁ随分と見てるだけで暇だったので仕方ないです」
アイニは不服そうに見つめつつも早速この町の報告を初めた。
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