■3章【油断大敵の話】

1話 本の中へ


 昔々ある所に、三匹の子豚の兄弟が住んでいました

ある日、仲良く暮らしてた兄弟のところに何とお腹をすかせた狼がやって来たではありませんか!

 兄弟は大慌て、長男は藁の家に、次男は木の家に、そして三男はレンガの家にそれぞれ逃げ込みます。

 お腹を空かせた狼は長男の家を次男の家をそれぞれ吹き飛ばしてしまいます、二人はそのまま三男の家に逃げ込みます。

 狼は家の前にウロウロしていますが襲ってこれません、それもそのはずですどんなに吹き飛ばしてもレンガの家はびくともしないのです。

 痺れを切らした狼は、煙突に登ってそのままそこから中に侵入し食べてしまおうと考えますそしてその後ーーーー。


「その後、狼は煙突から降りようとしたんだけど、そのまま足を滑らせて大きな鍋の中に真っ逆さま、鍋で茹でられ死んでしまいました・・・・・・っていうのがイギリスの民話に載っている“三匹の子豚”の話の大まかな話になるわ」


「色々突っ込みたいことは多いけど、とりあえず狼間抜けすぎやしねぇか?」


 私とアイニは修正する本の中に入ると、まずこの本について簡単な説明をアイニにした、アイニはその話を聞いて「豚が家を作るのか?」など所々突っ込みを入れていた。

 依頼された本の中、入ったはいいもの一面真っ暗で二人とも浮いておりゆっくりと降りていくような感覚を覚える、すると頭上からピィピィと鳴き声を上げながらカイムが渡してくれた端末の小鳥が降りてくる。

 そのまま小鳥は私の頭にちょこんと止まる、そして鳴き声をあげるかと思いきや聞き覚えのある声が聞こえた。


「はーい、お二人共声は届いてますか?」


「カイムさん!」


「おー、声はちゃんと届いてるぜカイム」


 私達がそれぞれ答えると、声の主カイムは次に映像も映すというと頭上の小鳥の目がカッと光ったかと思うと私達の目の間にカイムとフェネクスの姿が映った。

 カイムはにっこりと笑いながらひらひらと手を振っており、隣にいるフェネクスは机に向かって何かを書きつつチラリとこちらを見た。


「そのリアクションから分かりますが、ちゃんとそっちもこっちも映っているようですね、問題はなさそうでよかったです」


「あの今、真っ暗でゆっくりと降りているんですがどうなっているんでしょうか?」


「あぁそれは、本の世界に入る通路を通っているからだよ、しばらくすると扉が見えてくるんだけどそれが君達が修復する本の扉なのだよ」


「なるほど・・・・・・じゃぁその扉に入って本の内容を修復していったらいいんですね?」


 フェネクスはこくりと頷くと本の修復についての説明をしてくれた、本の修復にはいくつかのパターンがある。

 一つ目は改変されてしまった本の中にいる住人達それぞれの性格を修復し直すパターン、これは結構簡単で私のように童話や小説を元から知っているとこんな人物ではなかったということが既にわかっているため、その人物を特定し修復する。

 二つ目は本の中にいる住人達の性格や環境を変えているこの本の中には絶対いないようなものの駆除、これは結構大変で世界観がガラリと変わってしまうほどとても厄介で駆除対象の捜索が難航してしまうらしい。


「基本的には住人の性格を修復するパターンの方が多いので今回もそれだとは思っているのだよ、アリスが知っている“三匹の子豚”の話だとおそらくはその三匹の子豚の性格か狼の性格が変わっているのではないかと推測しているのだよ」


「なるほど、それだと私もわかるかと思います!」


 私がそういうとフェネクスは少しだけ笑うと、よろしく頼むといいまた何かを書き出した。

 

「お、アリス扉が見えてきたぜ?」


 アイニがそういいながらその場所を指さす、奥底の方にぽつりと扉が一つ見える。

 ゆっくり降りていくのだろうかと思っていた瞬間、はっと気がつくといつの間にか扉の目の前に立っている、浮遊感も気がつけば無くなっていた。

 これも魔法か何かなんだろうなと思いつつ私は目の前の扉を見る、扉は綺麗な植物や小動物が彫られておりとても綺麗な作りをしている。


「アリス、俺が開けようか?」


 アイニは心配になったのかこちらの方を見ている、私は大丈夫だと答える。


(いよいよ、物語の世界に入れるんだ・・・・・・!)


 私は緊張しつつもその扉に手をかけてゆっくりと開けたーーーー。



***


 扉の先はのどかな風景が広がっていた、道は多少整備されており、あたり一面綺麗な畑が広がっているツァーカブの城に入る前の道にも似た雰囲気の場所、どちらかというと絵画で見る田舎の風景に近い感じだろうか・・・・・・修復依頼の本の中とは思えないほど穏やかな出逢った。


「随分とのどかな風景だな? これ本当に修復する本なのか?」


 アイニも私と同じことを思ったのか驚いている様子だ、小鳥からは「ふむ」や「これはもしかしたら」「いやまさか・・・・・・」など不安な言葉が聞こえつつもこの景色に少し驚いている様子だった。


「うーん、まさかあんまり変わっていないのですか? 思ったよりも症状が進んでいない本だったとか? どうなんですフェネクス?」


 景色を見てカイムもそう思ったのかフェネクスに問いかけた、フェネクスは少しうーんと悩んだ声をあげる。


「まぁとりあえず状況がわからないことには何ともいえないのだよ、二人ともそのまま進んでいってもらえないか? このまま進むと物語の中心地点というか町みたいな所に着くと思うからそこで情報を集めるといいのだよ」


「わかりました」


「とりあえず端末の鳥には私達の映像はそちらに見えないようにしますね、流石に映像が見えていると住人達に怪しまれますので」


 私とアイニはなるほどと納得すると、小鳥は一声あげると映像がブツリと途切れる、ただ音声は聞こえているのでまた何かあった時や私達が二人だけで周りに誰もいない時などに映像はまた見えるようにすると言ってくれた。

 私達は言われたように、そのまま道を進み奥にあるであろう町まで歩くことにした、歩いている最中周りを見ながら進んでいく、どう見てものどかな田舎の風景・・・・・・特に怪しいものはない、その時ふと疑問が浮かんだ。


「そういえば、ここはあまりにものどかに感じないアイニ?」


「田舎だからじゃねぇのか?」


「いや、ほらここは“三匹の子豚”あと説明をしてなかったけど“狼と七匹の子山羊”のお話なら狼とかがいるんじゃないかなって思ったの・・・・・・」


「そういえばそうだな・・・・・・そういえば狼の匂いもしないな」


 クンクンと匂いを嗅ぐような仕草をすると不思議そうに首を傾げた、二作品とも狼が出てくる童話だこういうのどかな雰囲気の田舎であっても看板や狼よけの何かがあってもおかしくは無いだろう、それなのにそういったものが一切ないのはおかしいと思った。


「仮説ではあるけど、例えばそこの住人達が狼を駆除して狼がそもそもいなかった世界とかにしている可能性もあるね、そういうことも町に着いたら詳しく調べないといけないですね」


 カイムがそう答えると私はなるほどと納得した、しばらく進んでいくと奥の方にぽつりと大きな屋根が見えるそれがフェネクスが言っていた町だということはすぐに分かった。

 大きな屋根はどうやら教会のようで教会の周りに色々な建物が立っている。


「見えた! あれがフェネクスさんが言っていた町ね!」


「・・・・・・気をつけなよアリス何だかあの町すげぇ変な匂いが漂ってきてる」


「えっ!? そ、そうなの?」


「お守りもあるし俺もいるから大丈夫だけど、なんか嫌な感じもする・・・・・・とりあえず町に入ったら拠点探しつつ安全な場所作りもすべきだろうな、そういうアシストもしてくれるんだろ?」


「えぇもちろん、ですがお二人も十分にお気をつけて」


 カイムがそう答えるのを聞いたアイニはホッとしたのかじゃぁ行こうかとにっこりと笑った。

 私も小さく気合を入れつつ、アイニにつられてにっこりと笑った。


「あ、そうだ、街はもうすぐだけど道中でもう一つの話も教えてくれよ」


「そうね、わかったざっくりとだけど説明するね!」

 





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