2話 怪物とヤマネ

 アイニと一緒に窓から飛び込むとその瞬間、あの異質な世界が一瞬にして真っ白になっていく、私はあまりのまぶしさに目をつぶってしまった。

 抱えられていることと浮遊感はわかる、そしてゆっくりと浮遊感が無くなると

次第に鳥のさえずりや木々が風に揺れる音が聞こえてくるすると、アイニが声をかけてきた。


「もう目を開けてもいいぜアリス」


 私はその声を聞くとゆっくりと目を開いた、そこはあたり一面の木々どうやら森のようだった。

 ただし、森ではあるが異様な光景が広がっている、森なのにあちこちに看板が設置されているのだ、上下、斜め、標識など様々な矢印や看板が設置されている。

 ゆっくりとおろしてもらったが、その異様な光景に私はあっけにとられてしまった、じっと見ているのに気が付いたのかアイニが顔を覗いてきた。


「あっ、ごめんなさい・・・・・・!」


 私は慌てながらアイニに誤ると、アイニはにこりとわらった。


「気にすんなよ、この世界はアリスにとっては初めてなんだし、人間なら当然のリアクションだぜ」


 アイニはそういうと、森の中を指差しながら笑う、私にとって未知の世界どうやらこの世界はアイニの故郷らしい、森の中を進む前にアイニに少しだけ教えてもらった。

 分かりやすく言えばここは悪魔の世界なのだという、動物や植物も私の屋敷で見るものや生えているような物もあれば、見るからに変わったもの、歪な形の物もある。


「さ、アリス入ろうぜ」


 アイニがそう言いながら、私の手をとった。


「あ、うん!」


 握られている手をみて私はだんだん顔が熱くなってきた、

よくよく考えてみれば悪魔とはいえ同い年くらいに見えるの男の子と

話したり手を繋いだりするのは初めての事だったし、

そういえばさっき抱えられていたなと思うと恥ずかしさも出てきた。

 それでも、あまり気にしてなかったのは外に出れる、

という初体験があったからだと思う

 恥ずかしながらも私はアイニの方をちらりと見た、

アイニは気にしていないと言わんばかりに森の中を進んでいく、

私は恥ずかしさを紛らわすために話を振ってみた。


「アイニ、この森ってなんなの? 至るところに看板があるし、それにだんだんと変な音が・・・・・・この音も気になるわ」


「この森は導の森ってんだ、ホラ看板よく見たら矢印の下に文字が描いてあるだろ? 矢印の通りに進んでくと行きたい場所にいけるんだ。 音はあの植物が鳴らしてんの」


 アイニの指差す所に鈴蘭のような形の植物があった、よく見れば、花の部分がベルの用になっている。

 風に揺れると花の部分がゆれ鳴る仕組みになっているようだ、そして、近くの木に取り付けてある看板をみると確かに矢印の下に文字が描いてある。

 しかし、上や下、斜めなど色々描いてあるのにどうやって進のだろう?


「ねぇ、アイニ、上や下、斜めに描いてある奴はどういったらいいの?」


「この森は行きたい場所に行くって考えて進むと矢印が自然に方向だけを示してくれるんだ、でも、考えてる本人しか分かんないからアリスには斜めとかに見えるんだよ。 大丈夫、俺の目にはちゃんと正しい方向に記されてるよ。」


 アイニはそう言うとまたにこりとわらいかけてくれた森を進んでいくと突然アイニの足がピタリと止まった、どうしたのと声をかけるとアイニはじっと目の前を見続けそっと手を放すと私に後ろに隠れてと呟いた、私は言う通りに後ろに隠れるとアイニが見つめた方向を見る。

 森の奥は続いている真っ暗な森というわけではなく日の光で少しは明るい

しかし、その奥側に異様な光景が見えた、木々が枯れているのだ心なしかそのあたりの空気がどす黒く感じる。

 私は何故かゾッと寒気を感じた、なんだろうあの場所に入ってはいけない気がする

 危険察知ともいえるその感覚に恐怖を覚え思わずアイニの服を掴んだ、アイニはそれに気が付いたのか掴んだ手にそっと尻尾が触れた。


「大丈夫、俺がいるから契約者の君は絶対守るから」


「アイニ・・・・・・あの奥にはなにがいるの・・・・・・? とてもゾッとするの」


「ジャバウォックがいるんだあの奥には行けない、チッしまったな」


「ジャバウォックってあの鏡の国に出てくるあの?」


 ジャバウォックその名前は聞いたことがある、幼い頃何度も読んでいた私と同じ名前の女の子が登場する児童小説に出てくる怪物のことだ、挿絵にのっていた怪物はドラゴンのような不気味な姿だったと思う。


「で、でもそれは空想のお話に登場する怪物じゃないの?」


「あぁそうか、アリスのとこはそうだったな・・・・・・あー・・・・・・くそ、説明しようにもちょっと場所が場所だ悪いけど詳しい説明するからまず安全な場所に行こう」


「うん・・・・・・ってわぁ!!」


 うなずいた瞬間、アイニは私を抱きかかえ後ろを向き素早く走り出した、

私はびっくりしながらも彼の服を掴む、アイニはそのまま掴んでいてくれと声をかけた。

 突然、ジャバウォックがいる奥の方でなにか破裂するような大きな音が聞こえた、初めての外しかも異世界で突然こんな恐怖が襲ってくるとはと思うと震えが止まらなかった。

 アイニは走りながらも大丈夫と声をかけて私を気づかってくれる、一体この奥で何が起こっているのか不安でたまらなかった、アイニは引き返しながらちらりと看板を見ている。

 その時、黄色の矢印看板を見つけるとその看板の方へと曲がった、数十分もたっただろうか看板の方へ曲がってから、しばらくして開けた場所に出てきた。

 よく見るとぽつんと小さな家が建っている、誰か住んでいるのだろうか?


「はぁ、ここまで来ればジャバウォックも来ないだろ・・・・・・」


そういうとアイニは私をゆっくり下してくれた。


「あ、ありがとうアイニ」


「とりあえず、アリスこの家の中に入ろう」


「えっ!? 流石に不法侵入じゃ・・・・・・」


「大丈夫、ここの住人なら気にしないだろうからさ」


 困惑しているとそのままアイニは私の手を掴んで家に入っていった、

罪悪感がふつふつとわきつつも私は家の中を見渡した。

 小さな家だが住んでる気配は感じる、一人暮らしなのだろうか入ってすぐ目の前に机と椅子、椅子の奥にはベッドが見える。

 右側をみると暖炉や二階へ続く階段、一番奥には炊事場もみえる

そして見ていて気が付いたが、ずいぶんと家具が低く感じる、この家の住人はいったい誰なのだろうか

 アイニは一息つくとそのまま私を椅子に座らせた、ちょっと待っていてくれと言うと、ゴソゴソと食器棚を漁る、そこからコップやポットを取り出していく

やけに手馴れているようなと怪しんでいたら突然背後から声がかかってきた。


「まーた猫が不法侵入してるんだけどなにしてんだよぅ」


 私はびっくりして後ろを振り向くとそこには少し大きい子供くらいの大きさのネズミがいるではないか。


「ね、ネズミ!? えっ!?」


「惜しい~ヤマネですよぅ」


「こら、寝坊助、この子は俺の契約者なんだ驚かせるなよ罰としてお茶の準備手伝ってくれ」


 アイニは慣れた様子でヤマネをあしらっている、ヤマネはヤマネで理不尽過ぎないかと文句を言いつつもとぼとぼと炊事場に行くと慣れた様子でてきぱきと火を焚きお湯を沸かしお茶の準備をし始める。

 私があっけにとられていると私の目の前と向かい合わせにコップを置いてアイニは優しく答えた。


「びっくりさせてごめんな、こいつとはまぁ腐れ縁というか助けた恩でこき使ってんだよ」


「そうそう、過剰労働を強いられてるんだ~」


「へぇお前いうようになったじゃんか?」


 のんびりとした声でヤマネが炊事場から声を上げるとアイニの一声でヒェッという声も上がった。

 アイニはポットに茶葉を入れヤマネの近くに置くとそのままヤマネの頭をガシガシとかいて私のいる方へ戻ってくると、向かい合わせの椅子に腰かけた。


「この家はあの寝坊助が住んでるんだよ、ここまで来たらジャバウォックは気が付かないだろうし、とりあえず今日はここに泊まるのが安全だろうな」


「そうなの・・・・・・でも本当にジャバウォックがこっちに来るってことはないのかしら?」


「それについてはほんとで安心してほしい、これはこの寝坊助の特性がはいってるからなんだよ」


「特性?」


「それはね~この開けた場所の中に敵意や殺意をもって侵入しようとしたら強制的に寝ちゃうっていう特性だよぅ」


 そういいながらヤマネがお茶の入ったポットとコップを持ってきた、

私とアイニ、そして自分の分のお茶を入れるとヤマネはそのまま余った席に座る

ポットとコップを置きつつヤマネは一息ついた。


「猫が契約者っていってたから君は人間さんなんだね?」


「えぇそうよ、アリスっていうの、この森自体というか外に出ること自体初めてで・・・・・・びっくりしたわ」


「そうか~よろしくアリス、僕は本来名前はないんだけど猫や他の奴からは寝坊助とかヤマネとかいろいろ言われてるからアリスも好きに呼んでいいよ~」


 のんびりした声を出しながらヤマネはお茶をゆっくり飲んだ、出されたお茶は紅茶のようでほんのりいい香りがする私もカップを持ち上げて一口飲んでみる。

 味はいたって普通の紅茶だったがそれが私の中でひどく安心に感じた、先ほど体験した恐怖がゆっくりと溶けていくように感じる、ほっと一息するとそれを見たアイニがまた優しく微笑んだ。


「アリスも少し落ち着いたようだし、早速ここの世界について教えようか」

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