第3話 カレン③

練兵場には第4班だけでなく非番の騎士達も集まってきた。4班の連中が声を掛けたのであろう。

カレンとガストンの決闘はここにいる全員が立会人となる。


2人の間には太郎が立ち簡単にルールを確認する。


「使用するのは訓練用の木剣だ。勝敗は降参又は俺が戦闘不能と判断した時に決着とする、異論はないか?」


「ああ」

「良いぜ」


2人が決闘のルールを了承し、木剣を構えた。

練兵場には緊張感が走る。



「始め!」


太郎が開始の合図を出すと同時に双方走り出した。


「おらぁああ!」


ガストンの上段からの一閃をカレンは紙一重で回避しガストンの一撃は地面を抉る。噴煙が立ち上ぼり威力の大きさを物語る。


「つ、強ぇえ!」


木剣でもあんなのまともに喰らったら只じゃ済まない。太郎はカレンの身を案じた。


しかしカレンは怯む事無く連撃を繰り出す。


「うわっ!とっ!」


連撃を剣で受けるガストンは「しゃらくせえっ!」と叫びながら蹴りを放つ。


後ろ跳びで回避し距離を開けたカレンに更に地面を蹴り上げ砂つぶてを飛ばす。砂つぶてを喰らい目が開けないカレン。


剣道の試合くらいしか観たことの無い太郎にとって卑怯と言わざるを得ない戦法だが、これが実際生き死にを掛けた実戦でのやり取りなのだろう。


その証拠に観戦している騎士達は誰1人として卑怯等とは口にしない。


「終わりだ!」


ガストンの打ち下ろしがカレンへ迫る。


木剣と木剣が甲高い音を鳴らしぶつかる。目を閉じたままガストンの攻撃を受け止めたカレン。木剣が軋む音がした。


「く…」


カレンの手が痺れる。


「カレン!!!」


思わず太郎が名前を叫んだ。するとカレンは一言呟いてから口角を上げた。


「信じてくれる者が1人いるだけで…私は決して負けないさ。」


次の瞬間カレンの刺突がガストンの顔面へ伸びた。


「うぉおお!?」


身体を仰け反らしかろうじて回避するガストン。しかしカレンの追撃は止まらない。


疾風の如し剣速で


打ち込む


打ち込む


打ち込む


胴、肩、脚、腕と次々に打撃が入る


打ち込む


打ち込む


打ち込む



何度も何度も1人で研鑽した軌跡がガストンを四方八方から攻め続ける。


余りの剣速に観戦していた騎士達の間でも動揺が走る。


木剣がガストンの顎を捉えると脳を揺らされたガストンはその場で膝から崩れ落ちた。



立ち尽くし肩で息をするカレン。暫しの静寂。


「…勝者、カレン!!!」


太郎はカレンの勝利を声高らかに宣言した。

すると観戦者達は大きな声で沸き立った。


「すげえよ!ガストンを伸しちまった!」


「なんだあの剣速!あんな速いの見たことねえ!」


周囲の反応を見て太郎はカレンに親指を立て拳を突き出した。



◇ ◇ ◇


意識を取り戻したガストンに太郎は声を掛ける。


「カレンの勝ちだぜ。あんたが舐めて掛かった子はどうだった?」


「まさか女に負けるとは思いませんでした。彼女は確かな実力を持っていた。」


下を向き落ち込む様子のガストン、沈黙が続く。


「カレン、言いたい事があるなら自分の口で伝えるんだ」とカレンに促す太郎。


「ん、ああ」とカレンは前に出た。


「ガストン班長、私は剣に誓い剣と共に生きてきた、女だとか関係無く私は騎士だ。

だからどうかこれからは同じ騎士として王国の剣となり盾となることを認めて欲しい。」


カレンの想いを、カレンは不器用ながら自分の言葉で伝えた。それを受けガストンは


「どうやら俺が間違っていたようだ。お前は紛れもなく騎士だ。今まで無礼な態度を取ってすまなかった。」と謝罪し握手を交わしたのであった。



◇ ◇ ◇


練兵場には太郎とカレンの2人だけが残っていた。


「まさかこんな日が来るとは夢にも思っていなかった、全部タローのおかげだ。」


カレンはご機嫌の様子だ。


「良かったな、カレン。お前が実力で勝ち取った結果だよ、俺はきっかけを作ったに過ぎない。」


するとカレンは歩いて行き木剣を拾い上げた。


「タローの今日の訓練がまだだったな。

どうだ?折角だから一試合やらないか?」


「疲れてるだろうに本当ストイックだよな。」


そう言うとカレンは身体に腕を巻き付けながら言葉を発する。


「ガストン班長と同じくこの身体を賭けるって事でも良いぞ。私から一本取れたら私を…あられもない姿にして、その肉欲を思う存分ぶつけるが良い。」


カレンはそう宣言すると口角を上げた、余裕の笑みだ。


「キャラ変わってねーか?」と太郎は苦笑した。


「良いぜ、じゃあ一試合だけな」と言いお互い構えに入る。


この数日訓練したんだ、タダでやられてやるつもりはない。達人のカレンに一太刀浴びせるには


先手必勝!


「てぃやぁあ!」と叫びながら太郎は駆け寄る。

すかさず上段を振り下ろす。

カレンは頭の上で剣を構え太郎の剣を受けた。


次の瞬間


乾いた音が響きカレンの木剣が折れ太郎の一撃は彼女の肩を打った。


「あれ…一本取れ…た?」


キョトンとする太郎と真顔で固まるカレン。


沈黙が続いた。


長い長い沈黙が続いた後にカレンは口を開いた。



「くっ…殺せ…!!」



「殺さねーよ!?!?」


予想外の敗北にカレンは混乱している様だ。


「まさか…剣が折れるとは思わなかった。

そうか、さっきのガストンの一撃で大分脆くなっていたんだな。

運まで味方に付けるとは、タローは凄いやつだな。」と苦笑するカレン。


「いやいやいや、カレンだったら余裕でかわせた筈だろ!?何で受けたんだ?」と疑問を口にする。


「…何で、だろうな?

ただ何となく…タローの気持ちが籠った一撃を受け止めてみたくなった…のかもしれない。」


カレン自身自らの行動を理解していなかった。


「ともあれ約束は約束。この身体…好きにして良い。

けどタローはこんなゴツゴツした身体興味無いか。髪も短くて可愛くないし。」


急に自らを卑下するカレン、自分のスペックを理解していないのであろうか。


「可愛くないもんか!パッチリしたお目目とスラッと伸びた鼻と可愛い唇が付いてる、かなり美人だぞ!


それに引き締まったウエストとヒップは男心的にかなりくすぐられる。」


「な、何を言っているんだ!」


カレンは耳を真っ赤にしている。


「それにカレンて名前は俺の国では『可憐』って書いてな、可愛らしいって意味だ。


自分を卑下する事ないぞカレン、お前は強くて可愛らしい。騎士としても、女としても誇って良し!」


率直な気持ちを伝えるとカレンは頬まで紅く染めていた。


「タロー…


私を助けてくれてありがとう。」


感情表現が乏しかったカレンが初めて満面の笑みを見せた。


「これでこの身は…タローのモノになってしまったな。」


そう言って恥じらうカレンの身体が淡く光り出した。

そのままカレンと太郎の身体が光に包まれる。



───ライズ



光は収束し空へと飛んで行ったのであった。




───────────────────────



礼拝堂にてロドリゲフがライズ盤を確認した。


「今度は『k』の因子が手に入りましたか。

タロー様、流石ですな、ふぉっふぉっふぉ」


王国では新たな力の目覚めに皆が祝福の声を上げた。



ハートロック国民

【レベル2】→【レベル3】1UP!


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