2. 異世界での出逢い

第1話 カレン①

「減点1です」


屋敷に帰り右頬の腫れた顔を見るなりシスハに減点されてしまった。


「そりゃそうだよな、こんな顔の腫れた不細工減点したくもなるよな…」


そう溢すとシスハは首を横に振った。


「いいえ、怪我をして帰ってくる事に減点したんです。治療する身にもなって下さい。」


予想外の返答に驚き嬉しくなった太郎は調子に乗った。


「あれ~?もしかしてシスハ心配してくれてるの~?何やかんや言ってやっぱ俺の事大切に思ってくれてるんだな~」


「バランスが悪いので左の頬も同じ様に腫らしましょうか?」


「ごめんなさい」


ちょっとふざけただけなのにシスハは真顔ですごく怖かった。


「どうしてそんなに無茶ばっかりするんです?

いざとなったら私が守りますよ?」


「いや、女の子に守られるとか男の沽券に関わる…

惚れた女くらい守りたいってクリスとも話してたしなぁ。

まあ、何かあった時は俺に守らせてよ。」


訓練を開始する切っ掛けになった会話を思い出しながらシスハに伝える。


「ふ~ん、そうですか」


クルッと振り返り両手を後ろで組むシスハ。


「そういう事なら仕方ないですね」


何か知らないがすんなり納得してくれた様だ。


「あまり無茶はしすぎない様に」


去り際に一言付け加えて仕事に戻っていった。



次の日も練兵場に向かう事にした。


遠目にカレンを見付けると彼女は一心不乱に素振りをしていた。周りには数人の兵士もいる。

声を掛けようと近付くと体格の良い男がカレンに言った。


「おい!どけよ!そこは俺たちが使うんだ。」


何やら物々しい様子だ。しかしカレンは素振りをやめない。


「無視かよ、女のくせに騎士の真似事なんてしちゃってよ~、剣じゃなくって家に帰って腰でも振ってろっつうの。」と男が言うと周りの兵士も一斉に笑いだした。


見かねて後ろから声を掛ける。


「おいおいそりゃねーんじゃないの?」


兵士達が一斉にこちらに振り返った。


「こ、これはタロー様!お疲れ様です!」と兵士達が敬礼する。


「君名前なんていうの?」と体格の良い男に聞く。

明らかに自分より強そうで歳上だろうがそこは権力を存分に利用していく。


「ガストンであります!」


体格の良い男はガストンと名乗った。


「ガストン君、彼女は仲間なんじゃないの?仲間にそんな事言っちゃいけないよねえ?」と偉そうに言ってみた。


するとガストンにも言い分があるらしく返答する。


「しかし戦の場に女がいるのはおかしいであります!私は王国騎士として誇りを持っておりますが非力な女が騎士を名乗るなど騎士を侮辱しているであります!」


なるほど


それが彼の、彼らの、この国の価値観なのか。


「あのな~けど彼女は正式に入団して国に認められてる訳だろ?」


更にこちらが反論すると

「タロー、もう良い」

カレンが間に入った。


「今日は走り込みをしよう」


カレンにそう言われて練兵場を後にする。


クリスが言っていたカレンの抱える問題とはこれか


1人女性のカレンは班員と馴染めず孤立してしまっているのだ。


これは俺が何とかしてやりたい…



と、思ったのだが



今俺はガッシャンガッシャン音を立てながらランニングをしている、重い、苦しい


「タロー、どうだ?フルアーマーマラソンは。

進軍の時いちいち甲冑を脱いだり着けたり出来ないからな、本番さながらの訓練だ、キツいだろ?ふふ」


カレンは楽しそうに笑った。


「いや今は完全にお前の境遇について話し合う流れだったろ!空気読めよ!」


泣きそうな声で叫ぶとカレンは


「良く空気が読めないって言われる」と微笑んだ。

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