第15話 偵察部隊

木剣の重なる鈍い音が練兵場に響き渡る。

振り降ろしは受け止められ返ってきた剣を受け止める。

勿論大幅に手加減してくれているのだろうが。


木剣を交えながら「偵察部隊に志願した」と唐突にクリスが言うものだから「え?」と太郎の手は止まってしまった。


「アイター!」


クリスの木剣が太郎の脇腹を打ち付けた。


「すまないっ!タロー、大丈夫かい?」


「肋骨が…折れたかもしれない」と悶絶したが暫く時間を置いたら何て事はなかった。現代人は痛みに慣れていないのだ。


「そんで偵察部隊って?」


「城壁を越えて街の外にいる魔族の動向を調べる部隊だ。少し長い任務になるから暫く一緒に訓練出来ないと伝えたかったんだ。」


「ああ、俺の事なら気にしないで良いぜ!筋トレは1人でも出来るからな」そう伝えるとクリスは始めから用意していた様に他の案を提案してきた。


「タローさえ良かったら第4班に紹介したい人がいるんだ。訓練なら彼女につけてもらえば良い。」


彼女?


「一緒に入団した同期で腕は確かなんだがちょっと問題を抱えていてね。

タローには出来たら彼女の力になってあげて欲しい。」


少し申し訳無さそうな顔をするクリス、そんなに大きな問題なのだろうか?

同期として心配している様子の彼を安心させる為にすぐに応えた。


「そういう事なら任せといてよ。

訓練もつけて貰えるならWin-Winの関係って事で!」


「うぃんうぃん?」


「お互いに得があるって事!」


「君がそう言ってくれて嬉しいよ。

彼女が任務から戻ったら留守中の事は伝えておくよ。4班の待機室を訪ねてくれ。」


──後日

クリス達第6班は偵察任務へと出発した。


約束通り4班を訪ねてみる事にした。


待機室は簡素な作りで各班に割り当てられているが造りはどこも同じだ。


通路にいた兵士に聞いたからここで間違いないだろう。


木製の扉をノックする。

すると中から女性が現れた。



「あぁタロー様ですね。クリスから話は聞いています。どうぞお入り下さい。」


中へ通されると質素なソファがあったのでテーブルを挟んで着席する。


「第4班所属の騎士カレンです。」


カレンと名乗った女騎士は女性にしては高身長で髪は短く切り揃えているのでボーイッシュな女性といった感じだ。


「宜しくなカレン。

クリスの友達なら気楽に太郎って呼んでくれよ。

敬語じゃなくて良いし。」


そう提案するとカレンは「はあ」と短く返事をしてこう続けた


「ではそうさせて貰おう。

兵士でも無いのに訓練がしたいだなんて変わったやつだな。

貴族のお偉い様方は服が汚れるのも嫌がるというのに。」


怒っているのだろうか?


「もしかして迷惑だったか?

自分の訓練もあるし忙しいよな。もし迷惑だったら遠慮するから言ってくれ」と言ってみた。


「いや、迷惑だなんて思ってない。

私も訓練相手が欲しいと思っていた。

だから、むしろ助かる。」


カレンは怒っている訳でも迷惑な訳でもない様だ。

ただ表情や声のトーンで感情を表現するのが苦手なタイプらしい。


「それなら良かった。

早速訓練でもするか?」


そう提案するとカレンは


「良いのか?」と少し嬉しそうに身を乗り出した。



──練兵場


木剣を構えカレンと対峙する。


「遠慮はいらない、全力でかかってこい。」と言うカレン。


それではお言葉に甘えて


「てぃやぁああ!」とカレンに斬りかかる──



サッと太郎の木刀をかわすと


「あだっ!」


「いでっ!」


「おごえぇ!」


隙だらけの体に何発も剣撃を打ち込まれた。


「ぐわぁあああ」

最後の一撃で盛大に吹き飛ぶ。


ボロボロになりながら太郎は最後の力を振り絞って声を出す


「もうちょっと…空気読んでよ~…」


するとカレンはきょとんとしながら言った。



「良く空気が読めないって言われる」




───クリス達偵察部隊は街の城壁から数キロ地点まで進行していた。



「これは…何て事だ…!!」


偵察部隊が発見したのは不自然な程大地を踏み荒らした大量の魔獣の足跡であった。


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