第12話 初体験
屋敷へ戻るとシスハが出迎えてくれた。
「お疲れ様でした。お風呂の用意が出来ております。夕飯の用意をしておきますのでゆっくりなさって下さい。」
この時は何とも言えない顔をしていたのであろう。
シスハの気遣いが有り難かった。
浴槽に沈み目を閉じた。
生まれてこのかた人の死に触れた事は無かった。
祖父母や親戚だってまだみんな健在だ。
息をしていた者が、血が通って温かかった者が
『生物ではない何か』
に変わってしまったのは恐怖でしかなかった。
聖堂で見たマッシュの亡骸が頭から離れない。
簡単に人に殺すだとか、嫌な事があると死にたいなんて言っていたが「死」について何一つ理解などしていなかったのだ。
死はいつでも隣合わせ
こ っ ち へ お い で
死神がそう囁いている気がして背筋に冷たいものが走った。
風呂を上がってみんながいる食卓へ行こう。
今は1人で居たくなかった。
食卓へと向かうとモネとニーアの姿もあった。
「さあタロー様、食事にしましょう。」
みんなで着席し食材に感謝の祈りを捧げた。
「お兄ちゃん…何だか元気がないです」
ニーアが心配してくれた。
幼いニーアにはまだ人の死については伏せているのだ。
「お兄ちゃんが元気になるまでニーアが傍にいます」
そう言うとニーアは太郎のすぐ隣まで椅子を動かした。
「ニーアちゃんは優しいね」と言いながら頭を撫でる。
「優しいのはお兄ちゃんの方です」と言いながらニーアは頭を撫で返してくれた。
すると無性にこの小さな天使を抱き締めたくなった。
ニーアをぎゅっと抱き締め目を閉じる。
「あ…」
ニーアの吐息が漏れた。
モネは「あらあら」と微笑ましい顔をして
シスハは顔をひきつらせていたのだが目を閉じた太郎は知る由もない。
背中に回した腕からニーアの心臓の鼓動を感じる。
トクン
トクン
生きている、温かい
命の温もりを感じてうっすら涙が滲んだ。
「お兄ちゃん…甘えん坊さんになっちゃったんですか?」
困ったニーアが問いかけてくる。
我に返ってニーアをそっと離した。
「ごめんごめん
ニーアちゃんが余りにも愛おしくてついね」
「……!!!」
ニーアは驚きの表情で固まっている。
「え?」
更にニーアは下を向いてモジモジしだした。
「どうしたの?」
すると突然ニーアは飛び付いてきた。
「えへへ…ニーアもお兄ちゃん、だ~い好き!!!」
そう言うとニーアは太郎の頬っぺにキスをした。
目をぱちくりさせる太郎
太郎に抱きつきスリスリするニーア
「あらあら」と言いながら微笑むモネ
固まるシスハ
場の空気が一瞬固まったところで太郎とニーアの体が優しい光に包まれた。
「へ!?何だ!?」
突然の事に驚いたが光はすぐに壁をすり抜けどこかへ飛んで行ってしまった。
一体何が起きたのか…
「なぁシスハ、今のって…」と言い掛けると目の前のニーアが言葉を遮り言った。
「ニーアの初めて…お兄ちゃんにあげちゃいました」
ニーアは頬を紅く染めている。
「ちょっと待って!その言い方なんか誤解されるから!」
慌ててシスハの方を見るとシスハは両腕を抱え身を仰け反らせていた。
「まさか私に相手にされなかったからといって…その欲情を幼女にぶつけるだなんて…
気持ちが悪い…!」
「ごめん!せめてキモいって言って!」
涙目になりながら必死に釈明する太郎の様子をモネは微笑みつつ見守った。
───────────────────────
その夜ロドリゲフは礼拝堂で祈りを捧げていた。
祈りを終えそろそろ退室しようと考えていた矢先
突然光が壁をすり抜けライズ盤へ衝突した。
ロドリゲフはライズ盤を覗き込む。
「なんと!『n』の文字が淡く光っておる!
太郎様…やりましたな!こんなに早く初めてのライズを…!」
ロドリゲフは慌てて玉座の間へと駆けていった。
───同時刻
クリスは城壁から街の灯りを眺めていた。
仲間の、友の死を悼んでいた。
すると突然光が流星の様に飛来し城内へと吸い込まれていった。
暫くすると体から力が漲るのを感じた。
クリスは反射的にステータスプレートを取り出し目を通した。
クリス・レイゼン
【レベル】 1 → 【レベル】2
【HP】 36 → 【HP】152
【MP】 3 → 【MP】28
【力】 16 → 【力】 101
【知力】 5 → 【知力】25
【体力】 20 → 【体力】112
【敏捷】 12 → 【敏捷】76
【攻撃力】21 → 【攻撃力】151
【防御力】18 → 【防御力】132
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