第2話 ハートロック

恋石 太郎は周囲にいる者達の顔を見渡して口を開いた。



「ハロー!ハロー!アイムタロー!サンキュー!」




「…ようこそお越し下さいました。私はこの国の賢者ロドリゲフと申します。」



「ガッツリ日本語通じた!!」



西洋風の目鼻立ちがハッキリとした顔ぶれを見てなんちゃって英語を話した太郎だったが思わぬ返答にコケそうになった。


しかし言語が共通しているという事は幸いだ。

言語が異なれば当然意思の疎通も難しくなる。


見知らぬ土地に言葉も通じなければお手上げだ。


「タロー様ですね?

突然見知らぬ場所に現れてさぞ驚かれた事でしょう。客間にご案内します。まずはそちらでこの状況をご説明致しましょう。」



「わかりました!」



しかし太郎は存外驚いていなかった。



何故なら太郎は学校の屋上で右手を胸の前で握り締め、空を見上げながら涙を流し30敗目の辛酸を舐めながらこう考えていたからだ。



(死にたい…めっちゃ死にたい


この世に俺の事好きな子なんておらんねん


ああ…むしろ異世界行きたい


異世界なら俺の事好きな子がいるかもしれへん


神様、どうかお願いです


可愛い子がいっぱいいる異世界に連れていって下さい)



この時奇跡が起きた


国を想い未来を憂い命を賭けて使命をまっとうするロドリゲフの願いと


しょうもない事考えていた太郎の願いは一致し


ゲートは繋がった


こうして恋石 太郎は異世界人の仲間入りを果たしたのであった。




───────────────────────



─客間─


ゴツゴツとした石造りの召還部屋とは違って客間はとても綺麗だった。


絨毯や机や椅子、どれを取っても一目で高級品と分かる出来映えに自分を召還した人物は明らかに身分が高い者なのだと考えた。



コンコン


「失礼します」


ノックの後にメイドが紅茶を持って入ってきた。


髪は透き通る様な金髪に鼻はスッと通った顔立ち、紅茶をテーブルに置く時に長いまつ毛が目に留まる。


こんなに綺麗な人は日本で見た事ないと考えてボーッと眺めていると、メイドは一礼して退室していった。



「気になりますかな?」


ロドリゲフに唐突に言われて驚いた


「いや、全然!」


─そんなに分かりやすかっただろうか?


「それより僕は一体どこに来てしまったんです?」


話題を本題に進めた。


「この世界の名はグランエンデ。そしてここは最後の人族の国ハートロックの城内ですじゃ。」


ロドリゲフは続ける


「この世界は魔族に支配されております。人族は領域を追われこの城が最後の砦となってしまいました。魔族を倒す最後の希望として、誠に勝手ながらあなた様を異世界より召還させて頂いたのです。」



太郎は話を聞いて凄く興奮した


「おー!!!じゃあ俺が魔族と戦って世界を救えば良いんですね!!!」



「違います」



「へ?」



「タロー様に直接魔族と戦って頂く訳ではございません。タロー様の身に危険はありませんからその点はどうぞご安心を」


ロドリゲフはしわくちゃな顔を更にしわくちゃにしてにっこりと微笑んだ。



「「「いや魔法はよ!!!???」」」



太郎は大分拗らせていた。



「はあ…タロー様は異世界人ですので使えないと存じますが…」



「「「剣は!!!???」」」



「我が国には騎士団長始め屈強なハートロック兵がおりますからな」



「「「何しに来たんだ俺は!!!」」」



「何…と申されましたら、そうですな…恋…とでも言いましょうか」



「「「イカれてやがる!!!」」」



太郎はツッコミマシーンと化した。

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